続・特殊相対性理論への疑念(17)

〜再び、Michelson-Morley experimentなど〜

マイケルソン=モーリー実験(Michelson-Morley experiment)』(以後、MM実験と略
称します)については、前に、「特殊相対性理論」への疑念(全面改定版2) の項で詳細に述
べました。
そもそも、MM実験が「特殊相対性理論(Special Relativity)」(以後、"SR"と略称します)の
説明で、なぜ、殊更強調され、更には、SRのpostulateU(「全ての慣性系で光速一定」)の証
拠とかSR自体の証拠と言う主張があるのか、私にはよくわからず、海外ネット上にあったオ
リジナル論文(1887年のMichelsonのもの)論文を読み、更に海外サイトを当って情報を入手
した結果、、いかに事実(fact)を知らなかったかという驚きがありました。
大変失礼ながら、多分にMichelsonの論文を読んでいる方は少ないのではないかと思いま
す。ネット上には、恐らく理学部のstudentが学ぶのではないかと思われる電磁気学の教
科書で装置などを引用されているものがあることが紹介されていますけど、私が調べた限
りにおいては、ちゃんと読んで引用されているものが日本語サイトではほとんど見つけられ
ていません(海外サイトではいくつかありますけどね)。

Michelsonの立場を知った上で、あれを読めば、一般に喧伝されている話と少しニュアンスが
違うことはすぐにわかります。前述のarticleでは、そういう私が得た知見を紹介しておきまし
た。同意するにも反対するにも、きちんと事実を知った上で考えるべきと思ったからです。

多くの啓蒙書の類では、まず、postulateT(Einstein's "principle of relativity")の説明を綿々
とやって、読者に「全ては相対的だ」という観念を植えつけた上で、次にMM実験の説明をさ
らっとやって、あたかもこの実験からpostulateU「全ての慣性系で光速一定」)となるかのよ
うに(少なくとも読者がそう誤解するように)記述しています。

しかしながら、私の場合、

 どうしてMM実験からpostulateUが論理的に導出されるのか

がわからず、恥ずかしながら、自分の物理基本知識が不足しているのかとまで考えて色々
と調べてた結果、MM実験からは直接、そういう論理的結論は出ないことがわかりました。
というか、「正しい派」の方達は誰一人、それを説明しておらず、また、直接実証試験結果さ
えないこともわかりました。そもそも、私は"postulate"と書きましたが、これはSRのオリジナ
ル(但し、英語版)論文にそういう明記があったためであり、私が読んだ啓蒙書の類では確
か、それらがpostulateというような説明はなされていなかった気がします。
結局、postulateUはEinsteinが脳内で設定した直接根拠はない仮定でしかないということを
知ったというわけです(ま、ググっていたら、Einstein信奉者と思われる方が「信じきった
のが素晴らしい」などと言われたりしてますから間違いないでしょう)。

実は、私の中で、もう一つ疑問が湧いていたのです。それは、

 なぜ、光なら南北方向と東西方向で速度が一緒だと不思議なのか?

ということでした。なぜなら、例えば電車にしろ自動車にしろ、方向で速度が変わることなど
ないはずなのにという思いがあったからです。

 測定しているのは、あくまで、地球上である

わけで、古典力学はそれを基本原理にしているわけです。
そこが、"Special Relativity"の説明のもう一つのおかしさなんですね。いかにも不思議みた
いに書いているわけです。

しかしながら、そもそも、MM実験というのは「静止エーテルの風」という概念から南北方向
(地球の公転方向と直角方向)と東西方向(地球の公転方向と平行方向)で光行差が出るは
ずというLorentzら当時の科学者の考え方に基づいたものであり、Lorentzはそれで実験理論
を作り、その理論値と実測値を比較しようというものだったわけです。
ですから、「不思議だ」と考えたのは、Lorentzら当時の「静止エーテル派」の主流科学者だっ
た(Michelsonは「完全引きずり説派」だったので、Lorentzは間違っていたと結論で言及して
いますけどね)ということを明確にしておく必要があります。
論理の一貫性から見て、そういう説明ができるのは、あくまで、「静止エーテル」を条件にし
た、1904年の"Poincaré-Lorentz Theory"の方なのです。これは、結果的に捨てられた方
ここで指摘したように、決して真摯な科学論争の結果ではなく、不幸な時代と人間性からの
ことでした)で、今ではほとんど中身の詳細な言及はされてきていませんけどね(この理論に
関してはここで概要を述べましたが、その真髄−Poincaréらのphilosophy−はここで示しま
した)。その思考過程をまとめてみますと、

 光波の伝達媒体として静止エーテルが存在している⇒
 エーテルの風の影響で、東西方向(地球の公転方向)と南北方向
 (公転と直角方向)で光行差が出るはず⇒
 MM実験で、それが見いだせなかった(※1)。不思議だ、困った
 測定ものさしも同じ比率で変化するので測定では光速一定という
 結果しか見いだせなかった(※2)と想定⇒
 relativity of time & spaceの概念創出、その条件で数学解析から
 ローレンツ変換式の導出


(注)(※1)Michelosonの論文に"NULL"と明記されていたのではなく、Eddingtonがそう結論
     付けて発表したものである。
   (※2)1889年のFitGeraldの主張をヒントにして、往復の平均がそうなるとした(※3)

というものであり、私は(※3)ゆえに、この理論は"ad-hoc"なものと批判しましたが、ここで述
べたように、彼らはそれを"real world"のものと考えていなかったいうことは留意すべきでしょ
う。

では、SRはどうでしょうか?1905年にEinsteinがこのSRの概念を入れた論文を発表したと
き、彼は「エーテルなど不要である」と言明しました。なぜだったのでしょうか?

ここで指摘したように、Einsteinは"General Relativity"(GR)についてはその思考過程に関し
て大いに語っているのに、SRに関しては、ほとんど「黙して語らず」だったことがEinstenian(
Einstein's fan/Einstein's supporter)の科学者が興味を抱いて調べても発見できなかったと
はからずも述べていますので、推定でしかないのですが、

 postulateT、Uから(強引に)数学解析した結果、ローレンツ変換式が
 導出できた(静止エーテルなど考えていない⇒静止エーテルは不要(※4))⇒
 postulateUの必然的結果として、relativity of time & spaceの概念創出


ではなかったかと思います。原論文では名前こそ出してはいませんが、明らかにMM実験を
知っていたことを思わせることがちらっとありますので、postulateUなら当然そういう結果に
なると考えたものと思われます。
勿論、MM実験結果を"NULL"とするなら、

 postulateU⇒MM実験結果(※5)

という図式は論理的に成立します。ただし、待ってください。その逆は成立するとは限らない
のです。要するに、MM実験結果はpostulateUの必要十分条件には決してならないのです。
そして、もし、Millerの実験が真実なら、(※5)とはなりませんので、postulateUは全く成立しな
くなるのです(勿論、そのときは、Poincaré-Lorentz Theoryも不成立です)。

さすがにEinsteinは1925年に発表されたこのMiller実験報告には危機感を抱いて慌てふため
いたようです。これに関するその後の詳細な科学史をまだ私自身見つけられていないのです
が、これが、ノミネートされていたSRがノーベル賞受賞に至らなかった理由だという方もおら
れます。Millerはその後、米国物理学会のpresidentを務められた方ですから、多分に論争は
なされたものの、死後も威光は残ったのか、ノーベル賞を出さないことでSRは生き残れたの
かもしれませんね。もうmain stream扱いになりつつありましから。
ま、でも、ノーベル経済学賞受賞者で、物理学者兼エコノミストの方が、1990年代に蒸し返し
て、放置した科学界を批判されている歴史があり、一部で知られる処になったようですけど、
Relativist/Einsteinian(Einstein's fan,Einstein's supporter)の方達は無視しているようですね。
けしからんです(-_-メ)

しかし、それとは別に、SRの解説でMM実験を持ち出すなら、Relativist/Einsteinianが気が
ついていないのではないか(あえて黙っているのかもしれませんが)と思われることが二つも
あるのです。一つは、海外のAnti-relativityの方々が指摘されていますが、

 EinsteinはSRの発表の3週間前に「光量子仮説」を出していて、現在では、
 「光子(phton)」という概念を考えているが、量子なら「粒子」の性質もあり
 それなら、ニュートン力学からMM実験結果など当たり前のことであり、
 なぜ余計なSRなど考える必要があるのか


ということです。こういう指摘に対する明確な反論はまだ見つけられていません。
そして、もう一つ、

 なぜ電磁波なら伝達媒体が不要なのか

ということです。意外に明確な説明がなされていない感がしています。
以上より、今のSRの説明には、非科学的な「ごまかし」がかなり含まれていると言えます。

結局、大変失礼ながら、

 矛盾するpostulateの元に数学トリックを駆使して構築された空論ゆえに
 こんなごまかし説明しかできないのである


と考えます。
そして、私なら、1905年の時点にいて、二つの理論のどちらを支持したかと問われるなら間
違いなくPoincaré-Lorentz Theoryの方を支持したと思います。
勿論、この理論も、既に述べたようにad-hocなpostulateが入っていますけど、前述のように
Poincaréらは、結論の"relativity of time & space"を"real world"のことではなく、"convention"
のものだと考えており、かつ、論理展開に矛盾とか曖昧さとかはないからです。
そして、この理論の場合SRで問題になって来たようなパラドックスも出ません。

ちなみに、多くの人がご存じないのではないかと思いますが、Einsteinは当初は"real world"
のことと考えていたようですけど、Einsteinは遅くとも1921年にはPoincaréのphilosophyすな
わち"convention"のものであると"changed in his mind"したようですよ。

もっとも、Millerの実験結果を知った今は、共にNGだと思っていますけどね。

----------------------------------------------------------------
最近、海外サイトで、Miller実験にも言及して、"Solar system"の運動そして実験系面上の
運動という観点からMM実験の"Non-Null"結果の合理的説明を試みているイタリアの大
学の研究所の物理学者のPDF論文を見つけましたが、なぜかローレンツ変換が必要とあ
り、整合性が理解できませんでしたので紹介するのはやめておきます。

                                   (’15/3)

目次に戻る
次へ