Lorentz ether theory?

(特殊相対性理論への疑念[全面改定版]−ここからここまで−の補足事項です。)

特殊相対性理論への疑念(全面改定版2)でちょこっと言及したように、Lorentzはマイケ
ルソン=モーリーの実験を受けて、その説明としてad-hocな"Lorentz ether theory"
を1892年〜1895年に発表しましたが、結局、1905年に出たEinsteinの「特殊相対性理
論(Special Relativity)
"の方が「エレガントに見えた」ためかWhich' better?であまり
にad-hocに見えるLorentzの"Lorentz ether theory"は採用されませんでした。

しかしながら、ここで触れたように、「両者は数学的には同等」とみなされたとされた
という話を目にしましたので、だからこそ"Special Relativity"は比較的早期に支持を集
めたのだろうと考えます。

ただ、どこが「両者は数学的には同等」なのか(海外サイトでは逆に「同等では無い」と
いう主張もありますが、)同等か同等でないか、元を知らなくてはと調べてもLorentzの
出した仮説自体もう終わったもののためなのか、概要はあっても、ほとんど具体的なそ
の中身(ローレンツ変換導出の数学的手法)が私にとっては不明でした。

しかし調べていたら、海外サイトのここにそれらしい説明と更なる考察が述べられてい
ました。ただ、数値例で説明されていて、また、途中が省略されているため、なかなか
理解できませんでしたが、繰り返し読んで考えてこういうことかな?と私的にはある程
度はわかった気になりしました。そこで、折角ですので、間違って理解した恐れは十分
ありますが、理解した範囲でまとめてみました。間違っていたらすいませんm(__)m
尚、上記サイトの考察は興味深いので、まず、説明されている特定の数値例でを紹介
してから、一般式−これには間違いがあるかも?(^_^;)−を考えてみます。
(ちなみに、"Lorentz ether theory"自体はこれだけではありませんが、これ以外は興
味がありませんので触れません。)

よく簡単に触れられている「短縮」の話は、説明不十分で、これ自体はここで触れまし
たように、Fitzgeraldという人が1889年に言い出した概念で、Lorentzはこれをヒントにし
たというのが真相で、それほど単純ではありません。
再度示しますと、Fitzgeraldの説は、

 エーテル内を進む全ての物理的存在(光も含む)はその速度に相当
 する分だけ短縮される
(※)

というものでした。測定する測定棒(ruler)も短縮されるので、結局、光の速度は測定し
ても変化しない
というわけです。エーテルにはそういう運動体の運動を運動体内では
隠してしまう(測定には差がひっかかからないようにする)働きがあると主張したわけで
す。

これをヒントにしたLorentzの考えたことについて示します。

元々、Lorentzの考え方の基本は一貫して、

 (a)静止エーテル系=絶対静止系
 (b)光速は静止エーテル系に対して全方向一定速度で進む


であったことに留意が必要です。そして、Lorentzは

 運動体上では運動体の運動方向と反対方向のエーテルの
 風が吹いている


として数学的解析を行いました。

まずマイケルソン=モーリーの実験模式図を図1に示しておきます。
(実際の試験装置についてはここに示しました)

               図1 

以下の説明においての用語を図2に示しておきます。

         図2 

留意点として、地球(運動系)上では、地球(運動系)が静止エーテルに対して動く方
向と反対方向に、地球(運動系)速度に等しいエーテル風が吹いているとします。
エーテル風に平行な運動体(光を含む運動系内の物理実態)受ける風をco-windと呼
ぶこととし、それと直角方向の光が受ける風をcrosswindと呼ぶこととします。そして、
これらの用語をそれを受ける光の往復路を示すものとします。
また、co-windに対して向かっていく方向(向かい風を受ける)をupstream、反対方向
(追い風となる)をdownstreamと呼ぶことにします。

以下、しばらくは上記サイト記事に従う簡単な数値例に従って説明をします。尚、地球
系を一般化して「運動体」としておきます。

まず、co-windについて詳細に考察します。これは図3に示す二つの流れがあり、情況
が異なります。

   図3 運動体上でのエーテル風と光の進行

今、運動体の静止エーテルに対する速度を0.5c(c:光速)とすると、運動体上では運動
体の運動方向とは逆方向に速度0.5cのエーテル風が吹いていることになります。
upstreamだけを考えるなら、もし、運動体の速度が0.5cとするとき、Fizgeraldのサジェス
チョンに従えば、運動体上で光速は半分になります。これは、エーテルの向かい風を受
けての「短縮」効果ということです。これを「upstream効果」と称することにします。
このとき、測定棒も同じだけ(半分)に短縮されていて、この光速の低下分を隠し、測定
すると、光速は元のままとなるのです。
一方、光の進行方向としてエーテル風と同じ方向(追い風方向)すなわちdownstream
があります。このdownstreamでは光速は1.5cまで増速されます。このときも変化を隠し
続ける(すなわち、測定すると光速はもとのまま)ために、測定棒長さは1.5倍に伸長さ
れるのです。この効果を「downstream効果」と称することにします。

さて、マイケルソン=モーリーの実験では、光はreflectorで反射してreceiverに戻って来
ますのでupstreamとdownstreamの光路があり、複雑になっています。
そこで、Lorentzは

 自然はupstreamモデルとdownstreamモデルの「平均」(のようなもの)
 を隠す


としました。もう少し詳細に言うなら、upstream成分だけ見てdownstream成分だけ隠さ
ないとするとこの「短縮化」は光の運動を隠ないと仮定すべきで、代わりに、二つの平
均を隠す量だけ物体を短縮する(速度の遅いupstream+速度の速いdownstream)とし
たのです。

ちょっとわかりにくいので数値例で示します。
運動体上でのemmitor〜reflector間距離を10、静止エーテル系に対する光の速度を2
としますと、静止時の片道光路進行時間は10/2=5(単位[s]とする)となります。
運動体が速度を1で運動している時、
 upstream効果 :upstream光速1/光速2=0.5
 downstream効果:downstream光速3/光速2=1.5

となりますので、両方の効果により、腕の長さは(10×0.5)×1.5=7.5となります。
したがって、
 upstreamの経過時間  : (10/2=5)⇒7.5/1=7.5
 downstreamの経過時間:(10/2=5)⇒7.5/3=2.5

となりますので、往復時間は7.5+2.5=10となり、これは(20/2=10)と一致します。
以上がまずco-windだけの再解釈の数値例ですが、わかったようなわからないような(^_^;)

一般式で考えておきます。
emmitor〜reflector間距離を、光速を、運動体速度をとしますと、
静止時の往復時間は
・・・(1)
となります。また、upstream、downstream効果で光速は、
upstream速度:・・・(2)
downstream速度:・・・(3)
となります。したがって、腕の長さは両者の効果を加味すると、
・・・(4)

となります。したがって、往復の光進行時間は
upstream:・・・(5)
downstream:・・・(6)
となりますので、往復では
・・・(7)
となります。

以上でのco-windの再解釈が一応終わりましたが、まだ、マイケルソン=モーリー実験
結果である"NULL"(co-windとcrosswindが同時に戻る)が残っています。
crosswindでは運動体が動くために光の往復でreflector及びreceiver位置が動いてい
きます(図4)。

          図4

光路は図6の青線となり、emmitorからreflectorまでの光路長は図の左側の半分の三
角形の斜辺a0b1となります。明らかに、
であるので、
・・・(8)
より、crosswindの光の往復時間は
・・・(9)
となります。これは純粋に幾何学的に求めたものです。
先の数値例では、(9)式より、光の往復時間は11.54となります。co-windは往復時間を
10としましたので、時間を合わせるためにはco-windの時間を10→11.54に延長する必
要があります。その伸長率は11.54/10=1.154倍となります。そこでLorentzはco-wind
の腕の長さをこの比率1.154倍し、7.5×1.154=8.66としました。このとき、
 upstreamの経過時間  : 8.66/1=8.66
 downstreamの経過時間:=8.66/3=2.88
となり、8.66+2.88=11.54となります。

         図5 Lorentz's "initial mistake"?(数値例)

一般式で見ますと、(1)、(9)より、
・・・(10)
となりますので、腕の長さを
・・・(11)
としますと、co-windの往復の光進行時間は
upstream:・・・(12)
downstream:・・・(13)
となりますので、往復では
・・・(14)
となります。

う〜ん、いかがでしょうか?極めてad-hocな感がしますよね?
上記の考え方は「crosswind腕長さを伸長し、それにco-windを合わせた」形になってい
ます。上記サイトではこの「crosswind腕長さを伸長」させたことを「Lorentz ether thoory
の展開に置ける"initial mistake"」と書かれています。私の誤解でないなら、その後、概
念を変更したということかと思います。なぜなら、これでは"Special Relativity"との関係
が出て来ない?気がするからです。そして、上記サイトでは、次に再考したものを展開
しています。以下、それについて理解した(と私が思っている)ことを述べます。

図4の「crosswind光路」を見ると、二つの同じ三角形を反対向きに張り合わせた形をし
ています。そこで半分の左の三角形を考えますと、斜辺と隣辺の間の角は必ず、
・・・(15)
となります(図6)。

   
図6 crosswind光路の半分が作る三角形

この角度は、光速と運動体の速度で必ず一つに決まるものです。この三角形の斜辺は
crosswind光路の半分、隣辺は光が往復する間の運動体の運動距離の半分、対辺は
crosswindの実際の腕長さ諸元となります。これは純粋に「幾何学的」なものとなってい
ます。

この三角形から興味深いことが出てきます。
・・・(16)
であり、三角関数の公式と(15)式より
・・・(17)
となりますので、(16)、(17)より、
・・・(19)
となります。
したがって、crosswindの全光路長は(斜辺)×2ですので、
・・・(20)
とおきますと
・・・(21)
となります。この光路を光速cで進む時間は
・・・(22)
となります。


一方、原点に戻って見ると、co-windの往復時間は
・・・(23)
となります(導入はここに示しています)。これは、
・・・(24)
と書きかえることができます。この光路を光速cで進む時の全光路長は
・・・(25)
そこで、
・・・(26)
とおきますと、
より、
・・・(27)
・・・(28)
・・・(29)
・・・(30)
となります。(21)、(30)より運動体が速度vで動いている時、光路長はそれぞれ
・・・(31)
・・・(32)
の伸長率分、静止時の光路長より伸長されています。伸長率の比は
・・・(33)
・・・(34)
となります。

尚、(17)、(26)より
・・・(35)
となります。
このγが所謂、「ローレンツ変換」です。

さて、明らかに、
ですので、「同時に戻った」ということはこれらの光路を一致させる必要があり、それに
はcrosswindの光路(または時間)を伸長するか、co-windの光路(又は時間)を短縮す
るかのいずれかとする必要があります。
これはcrosswindの腕長さを伸長するか、co-windの腕長さを短縮するかのいずれかと
いうことになります。

それには前述の(33)、(34)を用いる方法もありますが、もう少し本質を理解するような
方法で検討します。それには、光速と運動体速度で図6の角度θが一律決まっている
ことに注目します。

まずは比較的容易な「crosswind光路/腕長さを伸長する」ことについて検討します。
運動体の速度は光速に対し、ですので、光がco-wind光路(co-wind腕長さが
のままのとき)を往復する間、運動体はだけ動くことになります。
これは図4で茶色で表した底辺になり、図6の半分の三角形の底辺長さは
となります。 したがって、このとき、
・・・(36)
となりますので、crosswindの全光路は
・・・(37)
まで伸長されます。また、
・・・(38)
となります。
結局、co-windの腕の長さをのままとしますと、同時到着のためにはcrosswindの
腕の長さがだけ伸長されている必要があります。

 図7 伸長されたcrosswindの腕/光路及び変化させないco-wind光路

ちなみに、
であり、図は成立します。
したがって、この場合のco-windとcrosswindの腕長さは図8となるのです。

      図8 crosswindを伸長して時間合わせしたときの腕長さ

次に、「co-windの腕長さ/光路を短縮する」場合について検討します。
crosswind腕長さをのままとすると、斜辺長さはとなります。
したがって、図6の隣辺(茶色で示した線)すなわちcrosswindの光がreflectorで反射す
るまでの運動体の運動距離はとなります。したがって、crosswindの光が
receiverに戻ってくるまでの運動体の全運動距離はとなります。
この間にco-windの光もreflectorまで戻って来ますので、光速cで見ますと全光路は
・・・(39)
となります。元々の計算光路は(30)式でしたので、これは
・・・(40)
となります。すなわち、全光路がγ分短縮されたことになります。

 図9 伸長されたcrosswindの腕/光路及び変化させないco-wind光路

ちなみに、腕長さを
・・・(41)
とすると
であり、図9は成立します。
したがって、この場合のco-windとcrosswindの腕長さは図10となるのです。

      図10 co-windを短縮して時間合わせしたときの腕長さ

実は上記サイトには説明がないのですが、この腕の長さは"Lorentz's initial error"とし
た前の場合と一致しません。ただし、数値例のl=10、(v/c)=0.5のときだけは一致します。
私が上記サイトの数値計算例から類推したことが間違っているのか、それとも初期の
考え方(upstream効果、downstream効果)は止めたのでしょうか?そこが資料が手元
にも調べても見つからないので不明です。それでタイトルに「?」をつけました(^_^;)。
但し、私自身はこの後の考察の方がしっくりきます。なぜなら、これなら、上記サイトに
書かれている

 数学的には"Lorentz ether thory"と"Special Relativity"は同じと
 思われている


と一致する気がしているからです。

尚、「静止エーテルの影響」をFizgeraldの概念で考えるなら、crosswindは純幾何学的
に図9となりますので、「co-windを短縮して時間合わせをする」という方が自然な感が
しますし、"Special Relativity"と「数学的に一致する」のはこちらです。

いずれにしろ、これはあくまで、マイケルソン=モーリーの実験結果を

 古典的な"wave-motion-through-a-medium"

で考えたものにほかなりませんし、21世紀の今になっても、未だに同じくその概念から
出ている"Special Relativity"が信じられ続けているということは根本的に異なる理論
はまだ出てきていないかと思われます。

しかし、よくよく考えてみますと、"Lorentz ether theory"は

 静止エーテル系(絶対静止系)をベースにして、「エーテルの性質
 により光速を測定すると運動系の運動を検知しない」として数学的
 解析をした


ものですけど、この

 光速を測定すると運動系の運動を検知しない

ということは、

 運動体上で光速を測定すると一定としか測定されない

ということですから、"Special Relativity"はそれを原理としたことになりますので、「数学
的解析が一致する」のは当り前なんですよね。
但し、「光速一定」ということと「測定すると一定としか測定されない」というのは実は物
理的には異なるのです。Einsteinの、「光速一定」というpostulateは「エーテル否定」の
ものですから。

だからこそ誰かが言ったとされている(サイト記事)

 theory mathematically based upon ether's effect on light could
 describe an etherless environment


はまさに「当っている」感がしています。要するに共にillusionな理論です。
上記サイトでは

 Lorentz created an illusion based upon an underlying reality and
 Einstein expounded upon the illusion while being ignorant of reality.


と批判しています。

ところで、意外に多くの人が気がついていないと思われることは、

 v≧cのとき、co-windの反射した光は決してreceiverには戻ってこない

ということです。要するに、"Lorentz ether theory"も"Special Reativity"も

 v<cが理論成立の絶対的条件

ということです。ですから、「ローレンツ変換」を元にしての「タキオン」などというもの
を考えるのは、上記の基本的条件がわかっていなくて、結果の数式だけ見て「数学」
で「物理学」考えている「虚論」でしかないのです。物理学ではなく、それこそ「数学的
幻想」、典型的な「擬似科学」です。それこそ、アカデミーでやるような代物ではありま
せん。いいかげん、「"Reality"を無視した数学遊びの脳内『観念物理』」などやめてい
ただきたいものです。
                                      (’14/4) 

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