マックスウェルはどう考えたのだろうか?B

 〜1865年論文から概要抜粋(2):電磁界の一般方程式〜

3.電磁界の一般方程式(general equaitons of electromagnetic field)

さて、いよいよ、「電磁界の一般方程式(general equaitons of electromagnetic field)」に入ります。
順を追って引用解釈解説しておきます(解釈と解説はあくまで私のものです)。

マックスウェルはどう考えたのだろうか?@〜前回の補足記事〜で言及しましたように、1865年
の論文では(x,y,z)直交三軸系での式となっています。Maxwellの生存中(1879年病死)には今の
「ベクトル解析法」というのはこの世に存在していなかったのでした。

(1)電気変位、変位電流、導体電流、全電流

現在では「電束密度(dielectric flux density)」と一般的に呼称されることが多い"D"ですが、
電位変位(electric displacement)」とも称せられていて、Maxwellはこの「電気変位」という
名称を用いています。私の古い教科書では、先に「電気変位」という名称が示され(節の名前と
して出てきているくらいです)、後から「電束密度」という名称が出てきています。
元々の定義における「物理的」な意味合いからすると、私としては「電気変位」という名称の方
が妥当な気がします。「電束密度」という名称は1個の単位電荷から1本の力線が出ているとい
う仮想的モデルでの名称
ですから。

電磁気学の教科書では変位電流に関して詳細に書かれていますが、論文の本論では意外に
あっさりと書かれています。

今、「物体の一部から他の部分への電荷の伝搬からなる」電流(Maxwellの説明、現在「伝導電
流」と称せられているもの)をとしておきます。
まず、

 Electrical displacement consists in the opposite electrification of
 the sides of a molecule or particle of a body which may or may
 not be accompanied with transmission through the body.

 (電気変位は、物体を通しての伝搬に同行するかまたはしないかもしれない
 物体の分子または粒子の両側の反対極の帯電からなる。
)

と簡単な上記INTRODUCTORYの補足説明がされています。
物体から切り取った要素の面に現れる電荷量を
とすると、軸に平行な電気変位の成分となります。同様に、面に現れる
電荷量をとすると、軸に平行な電気変位の成分、面
現れる電荷量をとすると、軸に平行な電気変位の成分となります。
そして、論文ではごくあっさりと、
 電気変位の変化は、我々がと称している全電荷の運動を得るために電流
 に加えなければならない
と簡単に書かれ、
      (1)
      (2)
      (3)

となるとしています。
結局、Maxwellは、「電流」は「伝導電流」と「電気変位の変化」からなると考えたわけです。
これは私の教科書の説明とは少し違う気がしています。

起電力が物体に加わるときの電流、導体、誘電体に関してINTRODUCTORYに書かれていたこ
とを抜粋しておきます。勿論、これらはあくまでもMaxwellの考察だということに留意ください。
現在の説明とは異にしているところが多々ありますので。

まずこの辺りから・・・

 this “electromotive force” is the force called into play during the
 communication of motion from one part of the medium to another,
 and it is by means of this force that the motion of one part causes
 motion in another part. When electromotive force acts on a
 conducting circuit, it produces a current, which, as it meets with
 resistance, occasions a continual transformation of electrical
 energy into heat, which is incapable of being restored again to
 the form of electrical energy by any reversal of the process.

 (この「起電力」は媒質の一部から他の部分へ運動が伝搬されている間に働く
 であり、それはこの力により、一つの部分の運動が他の部分における運動
 を生じさせるものである。導体回路に起電力が作用するとき、それは抵抗に
 出会うので電気エネルギーの、逆プロセスでは再び電気エネルギーの形では
 蓄積できない熱への継続的変換を起こす電流を生ずる
)

 But when electromotive force acts on a dielectric it produces a
 state of polarization of its parts similar in distribution to the polarity
 of the parts of a mass of iron under the influence of a magnet, and
 like the magnetic polarization, capable of being described as a state
 in which every particle has its opposite poles in opposite conditions.

 (しかし、起電力が誘電体に働くとき、それは、磁石の影響下での鉄の塊の部分
 の極性に対する分布と類似したその部分の分極化状態を生じ、磁極化と同様、
 全ての粒子が反対条件下でその反対極を持つ状態について述べることが可能
 である。
)

そして続けて、

 In a dielectric under the action of electromotive force, we may
 conceive that the electricity in each molecule is so displaced
 that one side is rendered positively and the other negatively
 electrical, but that the electricity remains entirely connected
 with the molecule, and does not pass from one molecule to
 another. The effect of this action on the whole dielectric mass
 is to produce a general displacement of electricity in a certain
 direction.

 (起電力の作用下の誘電体に置いて、我々は、各々の分子における電荷
 は、電気的に一方が正、他方が負で表現されるように分配されているが、
 その電荷は分子と完全に結合されていて、一つの分子から他の分子に
 渡るのではないと捉えてよい。全誘電体に働く効果は、ある方向の一
 般的変位を生ずるものである。
)

と述べ、更に、

 This displacement does not amount to a current, because when it
 has attained to a certain value it remains constant, but it is the
 commencement of a current, and its variations constitute currents
 in the positive or negative direction according as the displacement
 is increasing or decreasing.

 (この変位は電流にはならない、なぜならばそれがある値に達すると一定値に
 なるから、しかし、それは電流の始まりであり、その変化は、変位の増加又は
 減少に応じて、正又は負の方向での電流を構成する
)

と現在、「変位電流」と称せられているものの核心に触れることを書いています。

(2)起電力(electromotive force)

起電力の成分をとする。このとき、は与えられた
点のそれぞれ、方向、方向、方向におかれた導体における単位長さあたりの電
位差です。単位長当たりの電位差ですので、結局、現在の用語では「電界(電場)の強さE」と
同じとなります(Eの単位は[V/m]です)。

(3)電磁運動量(electromagnetic momentum)、磁力(magnetic force)

電磁運動量」というのは聞きなれない用語ですが、Maxwellが1965年の論文の中で提示した
もので、機械系の動力学とのアナロジーからその名をつけたものです。これについては、前項
マックスウェルはどう考えたのだろうか?A〜1865年論文から概要抜粋(1)〜でしましましたよ
うに、物理的には、「電磁誘導現象」による、逆起電力発生の基となる回路側から見た「鎖交磁
束」に相当します。
今、任意の磁石系または電流系による場の任意の点における電磁運動量の
分をとします。ここでは、を、これらの磁石又は電流が場から
取り除かれる(すなわち場を形成していた磁界の元が取り除かれる)ことによって生ずる、それ
ぞれ方向、方向、方向の起電力の全インパルスを示します。すなわち、
     (4)
     (5)
     (6)
となります。これより、場における磁石または電流の運動またはそれらの強さの変化に依存す
る起電力の成分は
     (7)
     (8)
     (9)
「−」符号が付くのは、逆起電力であることを示しています。

さて、場において、微小回路を考え、この微小回路の全電磁運動量(Maxwellは「またはそれを
通る磁力線の数」と称しています)について検討します。Maxwellは図もなく途中経過もなく結果
しか示していませんので自分で考えてみました。
面のの微小回路を考えます(図1)
  
          図1
この微小回路に発生する逆起電力は図のように一周分を加えたもので、(7)〜(9)式で示したよ
うに、それは電磁運動量の時間微分ですから、この微小回路の全電磁運動量も同様に一周分
を加えればいいことになります。そこで、図2のようにの一周分
を加えますと
     (i)
となります。 今、
   (ii)
   (iii)
ですから、(ii),(iii)を(i)に代入すれば
     (iv)
これはを通る磁力線の数となります。そして磁力線の方向は方向となります。
同様にに対しては(磁力線方向は方向)、
に対しては(磁力線方向は方向)となります。
今、を単位磁極に働く磁力の成分とします。
また、μを同一の磁化力下で、与えられた媒質の磁気誘導の空気の磁気誘導に対する比とし
ます。そうしますと、に垂直な面内、に垂直な面内、に垂直な面
内の単位面積当たりの磁力線の数はそれぞれとなります。従って、
     (10)
     (11)
     (12)
となります。

(4)磁力(magnetic force)と電流

冒頭に、

 It is known from experiment that the motion of a magnetic pole in
 the electromagnetic field in a closed circuit cannot generate work
 unless the circuit which the pole describes passes round an electric
 current.

 (閉回路電磁界における磁極の運動は、その極が描写している回路が電流を
 取り巻いて通過しないと仕事を生ずることができないことが実験から知られて
 いる
)

和訳が下手でわかりにくいかもしれませんが、要するに閉じた磁力線の中に電流があるかない
かということであり、電流がないときは磁力線を周積分する(磁力×距離で仕事)と0となると言っ
ているわけです。教科書には「経験的」とありましたが、Maxwellは「実験から」と書いています。
逆に、電流があるなら0とはならないということです。
これも図も何も説明がなく結果の式だけ載せているので、自分で閉じた微小磁気回路で仕事を
計算してみました。
面のの微小磁気回路を考えます(図2)
  
          図2
  
単位面積あたりはとなります。これは軸周りのものです。同様に軸周
軸周りとなります。
本来は、周回積分して0になるすなわち閉回路内を電流が貫いていないときに定義できる磁気
ポテンシャルがあり、そのときはは完全微分となりますが、Maxwellは
   (13)
とおいていて、経路による差を認めていますけれども、

 the difference between successive values of corresponding to
 a passage completely round a current of strength c being 4πc.
 (強さcの完全な電流周りの経路に相当するの連続値間の差は4πcである。)
と述べ、
     (14)
     (15)
     (16)
と結論付け、これらを「電流方程式(Equation of Currents)」と呼ぶと述べています。
ここにきて、わかりましたが、「電流」と書いていますけど、実際には「単位面積当た
りの電流」すなわち「電流密度」でしょう。

(5)一つの回路の起電力

さあ、(3)に続き、現在の「マックスウェルの方程式」から消されてしまっているMaxwellのオリジ
ナル方程式から消されてしまっているもう一つの式です。
しかしながら、凡才の私には理解しがたい点がありましたが、とりあえずそのまま示します。
を回路Aの(誘導)起電力とすると、
     (17)
となります。ここで、
 :長さの要素
 積分は周回積分
さて、場の強さが二つの回路AとBによるものとするとき、回路Aの電磁運動量は、
     (18)
となります。ここで、
 :回路Aの自己インダクタンス(現代名称)
 :回路AとBの相互インダクタンス(現代名称)
 :回路Aの電流
 :回路Bの電流
また、
     (19)
となります(マックスウェルはどう考えたのだろうか?A参照)
で、ここまではいいのですが、私を大いに戸惑わせましたのはこの後です。
Maxwellは「これより」として、
     (20)
     (21)
     (22)
となるとしているのですが・・・。電気ポテンシャルが突如出現しています。
説明を読みますと、「の関数であり、上記の解に関する限り不定である、
なぜならば周回積分すると消えるからである」と書かれています。ただ、実際の条件がわかって
いる場合は決定できるとも書かれています。これは、
     (v)
ということでしょう。で、
     (vi)
(現代表記では偏微分を使って)
したがって、(v)(vi)より
     (vii)
となります。それゆえ、
     (viii)
とおけます。一方、
     (ix)
となりますので、(viii)と(ix)から(20)〜(22)が導出されます。こんなところでしょうか。

以上は「回路が動かないとき」のものでした。次は、「回路が動くとき」について述べます。
ここも図が全くなく言葉だけの説明で凡才の私は最初理解に苦しみました。冒頭では訳だけ示
しますと、
 軸に平行な長さの短い直線導体を、各成分がの速度で動かし、
 その両端を速度で二つの平行導体に沿ってスライドさせよう。
 運動導体は、単位時間に、三つの軸に沿って距離移動し、同時に回路に
 含まれる平行導体の長さは増大する。

とありました。知恵を拝借したりした結果、多分下図ではないかと考えています。
 
         図3
これが「回路が動くとき」とになるのかよくわからないのですけど・・・

電磁運動量成分をとすると、回路の全電磁運動量は
   (周回積分)
となりますが、Maxwellはまず、このように導体が動くときのこの全電磁運動量の変化分を求め
ています。

導体の運動による変化分
この長さの導体は常に軸と平行方向となっており、その方向の電磁運動量成分は
です。常に面に垂直になっていますので、この導体に関してはのみ考え
ればよいはずです。
  
ですので、
  
となります。

回路長の変化による変化分
可動導体が常に軸と平行になるように置かれて、2本の平行導体上をスライドすることで
閉回路の周長が変わるために電磁運動量が変化するというわけですが、Maxwellはこれも答え
だけ示しています。
  
情けないことに、無い知恵絞って考えてみたのですが、現時点、導出に至っていません。とり
あえずそのまま使うことにします。
これより増加分は、
  
となります。同様にして、長さの導体を軸と平行、軸と平行のときを考えますとそ
れぞれ、
となります。
今、軸に平行の可動導体の単位長当たりの起電力とすると、実際の起電力は
となります。これは前述の電磁運動量の減少分に等しいので、
     (x)
となります。同様に、をそれぞれ、軸、軸に平行の可動導体の単位長当た
りの起電力とすると、
     (xi)
     (xii)
となります。これらは「回路が動く」ことによる、(20)〜(21)に対する増分ですので、「回路が動く」
ときは
     (23)
     (24)
     (25)
となります。

(6)電気変位と起電力

誘電体に起電力がかかると誘電体は分極を生じます。したがって、電気変位は起電力の大き
さに依存しています。Maxwellは起電力の電気変位に対する比としてkを用い、単位長当たりの
起電力を、電気変位をとして、
     (26)
     (27)
     (28)
としています。
まだ残りがありますが、本項で重視していた分は終わりましたので省略します。

最後に、見慣れない用語などがありますので、現在のものと対応させておきます。
 :単位長当たりの「起電力」ですので、「電界の強さE[V/m]に相当します
 :磁力(単位面積当たりの磁力線数)「磁界の強さH]に相当します
 :電磁運動量、「ベクトルポテンシャルA」に相当します
 :導体電流、電流密度に相当します
 :全電流、電流密度に相当します
 :電気変位、現在は電束密度と言われることが多いです。Dです。
この時点では"μH"に相当するものは"μα、μβ、μγ"としてでてきましたが、まだ"B"とい
う概念は示されていません。これが示されたのは1873年の論文の中です。

一部、凡才ゆえに記されていないため、途中計算の所で導出ができていないままのところがあ
りますが、大体は示したつもりです。現在の電磁気学のようにベクトル解析と数学公式を駆使
して導入しているのでなく、地道に物理的に考えて導出されたものであることに是非留意して
いただきたく存じますm(__)m

ここまで言及しませんでしたが、INTRODUCTORYで「誘電体」に関して一つ興味深い思考がな
されていました。
一つは、「電気変位」を「完全な結合剛体の欠如による構造体や機械で起こしている力の作用
に類似した力の作用に対する一種の弾性曲がり(elastic yielding)である」としていることです。
そして、更に、誘電体に存在しる二つの現象、「導電性(conductivity)」と「電気吸収(electric
absorption)
」も別の「曲がり(yielding)」の一種とみなしています。
「導電性の曲がり」は、「粘性流体または最も小さい力で、力が働いている間、時間と共に増大
する永久変形を生ずる柔らかい固体と比較されてよい」とし、「電気吸収の曲がり」は「その空
洞に濃い流体を含む細胞質の弾性体のそれと比較されてよい;そして圧力が取り去られるとき、
それはその形をただちに復帰しない、なぜなら、物質の弾性は、それが完全な等価性を回復す
る前に流体の粘り強さを克服するのが段階的であるからである」と述べています。
誘電体に関する「マックスウェルの応力テンソル」もこういう思考が原点にあってなされたものと
思われます。
ただ、繰り返しになりますが、教科書などに記載されているように、決して「天才的発想で」「真
空中」にも適用したわけではなく、「電磁場」を作る「媒質」(æther)の存在を信じていたことから
の自然な発想だったと思われます。

(以上1865年論文関係はひとまず終わりです)

 ('17/7)

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