熱力学の第二法則についてC(’17/3)

熱力学の第二法則についてBの続きです。
さて、いよいよ、本来の主題の熱力学の第二法則(クラウジウス著書ではCHAPTERVとして、
"SECOND MAIN PRINCIPLE OF THE MECHANICAL THEORY OF HEAT"と称してい
ます)に入ります。所謂、「カルノーサイクル」が基本で、彼は前述のように一般化して"Cyclical
Process
"と呼称していて、これは、1周期の始点と終点が全く同じ状態の可逆プロセスを示して
います。そして、クラペイロンに従いPV線図を使うと書いています。
まず「カルノーサイクル」については§1で"Description of a special form of Cyclical Process"とし
て説明されています。きちんと所謂「逆カルノーサイクル」についても詳述されています。
これを読んで、私なりにやっと十分に理解できた気がしています。以下、引用紹介します。

図1は、著書の図(まさに基本的カルノーサイクル図)に、私が青線寸法補助線で体積等を書き加
えたものです。

      図1

図のa点を始点(initial point)=終点(final point)としています。尚、ab,bc,cd,daの四つの曲線につい
ては、先にCHAPTERU"ON PERFECT GASES(完全気体について)"の§9"Determination of the
External Work done during the change of volume of a gas(気体の体積の変化中になされた外部
仕事の決定)"という節に説明がありました。それによると、「温度一定」条件時の曲線ab,cdは
等温曲線(Isothermal Curve)」と称さられ、「完全気体」では両座標軸を持つ直角双曲線
(equilateral hyperbola)
だと述べられています。次に、「断熱」で勾配の急な曲線bc,daは現在の
テキストでは「断熱曲線(Adiabatic curve)」と称せられていますが、これはRankineという方が
名付けたものだそうで、クラウジウスはそういう説明をしながら、彼が最初に提案したものとして
これを「等エントロピー曲線(Isentropic curve)」と以下では呼称しています(そこまでにはま
だ、「エントロピー」の説明はなくなぜそう呼称するのかの理由説明もなくて呼称だけ先に出てき
ていますが)。ちなみに、このCyclical Processを行う気体などの物体のことを著書では"variable
body(可変物体)"と称しています(以後、私は「可変物体」と訳して使います)。一般的に曲線の勾
配は、Isentropic curve>Isothermal curveです。

まず、所謂「順カルノーサイクル」と現在のテキスト等で称せられるプロセス(a→b→c→d→a)につ
いて彼の説明をベースにして私の理解で述べておきます。"reservoir"というtermが出てきます。
熱力学の第二法則についてAで触れましたがカルノーの使った用語が流用されています。
温度一定で「熱を蓄えておくもの」という意味だと思いますが適切な日本語の一般名には不案内
ですので、以下、そのまま"reservoir"と書きます。私だけかもしれませんが、よく説明で使われ
ている「高熱源」「定熱源」という用語には少し抵抗を感じていますので使用しないことにしますm(__)m。

以下、図1を参照してくださいm(__)m
------------------------------------------------------------------------------
まずは可変物体の膨張プロセス プロセスを考える。
可変物体のに初期条件として、始点に圧力 体積を与えることとする。そして、
この始点から、可変物体に、"resevoir"として働く温度で一定 の物体を接触させ
可変物体の体積をからまで 膨張させる。膨張プロセスなので、断熱状態なら温度は
下がるが、温度一定の"reservoir"に接触させているため、可変物体の温度は低下せず
に保たれる。したがって、始点から、体積がと なる点までの曲線
等温曲線(Isothermal curve)」となる。この間、可変物体は温度 を維持するため、接触
させている物体から熱の供給を受けている。
次に、点で、可変物体から物体を切り離して そのまま、体積がになる点ま
で膨張させる。このプロセスでは可変物体の温度低下が起き、温度は からまで低下
する。すなわち、点の温度は である。この時の曲線は「等エントロピー曲線
(Isentropic curve)(断熱曲線(Adiabatic curve))」となる。
さて、膨張プロセスは以上で終わり、次に元の体積に戻すため、圧縮プロセスに入る。
可変物体は断熱膨張プロセスにより 点で体積、温度 となっているので、
まず、この点から可変物体を温度が 一定の"reservoir"として働く物体を接触さ
せて体積がとなる点まで圧縮する。 断熱状態なら圧縮では温度が上昇してしまうが、
"reservoir"としての温度が自身一定を維持させている物体 を接触させているのでプ
ロセスは「等温曲線(Isothermal curve)」となる。
最後に、体積が、温度が点で物体を切り離し、引き続き体積が初期の
に戻るまで圧縮を続ける。この時、温度が初期の に戻れば、始点に戻ることに
なる。このプロセスの曲線は「等エントロピー曲線(Isentropic curve) (断熱曲線
(Adiabatic curve))」となる。

------------------------------------------------------------------------------
以上のCyclical Processにおいて、一般テキストではあまり強調されていないのですが、

に留意する必要があります。

さて、次にこのCyclical Processにおける熱と仕事についてみていきます。
仕事量は次式で与えられます。
・・・(1)
したがって、可変物体(気体など)体積から体積まで 膨張する場合、外部に対してな
す仕事は
・・・(2)
となります。圧縮の場合は、外部から可変物体になされる仕事となります。
これより、膨張プロセスにおいては、プロセスのときの外部に対する仕事は図1では四角
となり、プロセス のときの外部に対する仕事は図1では四角形となり
ます。一方、圧縮プロセスにおいては、プロセスのときの外部からなされる仕事は図1で
は四角形となり、プロセス のときの外部からなされる仕事は図1では四角形
となります。後者の二つの量は圧縮中の低い温度ゆえに前者の二つより小さくなります。
したがって、前者から後者を差し引いた分である四角形は外部仕事の過多分となり、
このCyclical Processにより外部になされた正味の仕事となります。
・・・(3)
このように、このCyclical Processにより得られた仕事量 前項B(11)式より、値において
はその生成に必要な熱量と等しくなります。
今、可変物体は、物体と繋がれている膨張プロセス の間、物体から熱量
を得ます。一方、と繋がれている圧縮プロセス の間、可変物体は、物体に熱
をを与えます。膨張プロセスと圧縮プロセスの間は、可変物体は熱を与え
ることも貰うこともありません。今、全cyclical processにおいて、熱量は、前述のようになさ
れる正味の外部方向の仕事が吸収しますので、物体より可変物体が受け取る熱量
は、可変物体が、物体に与える熱量より大きくなります。
したがって、その差に等しく

・・・(4)

となります。
これより、可変物体が物体から引き出された熱量 の中で二つの部分に分離され、そ
の一つは仕事に変換され、一方、他の は物体に熱を返していることになります。

クラウジウスはこの結果から次のように言えるとしています。

 
 

さて、以上は順方向サイクルについての説明でしたが、クラウジウスは逆順についてもきちんと詳
述してくれています。それについても述べておきたいと思います。図1での説明です。
逆順も始点は、で、そこでは体積は 、温度はとします。
まず、最初に、可変物体には熱は与えられず、体積となる 点まで膨張させます。この
プロセスの曲線は「等エントロピー曲線(Isentropic cuve)」となります。このとき、可変物体
の温度は下がりますので、それはからに低下したとします。すなわち、点の温
度はとなります。次にここから可変物体に温度一定の物体を接触させながら
可変物体の温度を一定のに保ちながら体積点まで膨張させます。彼の説明
では、このプロセスでは、可変物体が物体から熱を引き出している間という言い方
をしています。ちなみに、このプロセスは「等温曲線(Isothermal curve)」となります。
それから、次に点から圧縮プロセスに入り、まず、断熱状態(熱の出入り無し)で体積
ら体積点まで可変物体を圧縮します。このとき、可変物体の温度はから
に上昇したとします。このプロセスは「等エントロピー曲線(Isentropic curve)」となります。
最後に、点から、可変物体に、温度一定の物体を接触させながら、元の体積
の元の点まで圧縮を続けます。このとき、彼の説明では、可変物体は物体に熱
を与えるという表現を使っています。この最後のプロセスは「等温曲線(Isothermal curve)」
となります。

後、この逆サイクルについても仕事、熱の関係についてクラウジウスの説明から述べておきたいと
思います。
プロセスに対する仕事量(図1で四角形)とプロセスに対する仕事量(図1で
四角形)はなされた仕事または正のものであり、プロセスに対する仕事量(図1で
四角形)とプロセスに対する仕事量(図1で四角形)は吸収される仕事ま
たは負のものであり、後者は前者より大きい値になります。したがって、両者の差である四角形
この場合、吸収される仕事となります。
可変物体は物体から熱量を引き出し、物体に熱量を与
えます。これは前述の(3)式と同じ形ですね。が構成されている二つの部分のうち、
は吸収された仕事に相当し、他の部分は、物体から物体に熱として渡され
たものとなります。

クラウジウスはこの結果から、逆サイクルに対しては次のように言えると述べています。

以上によれば・・・
順サイクルでは、「等温曲線」プロセスでは、「物体が可変物体に熱を与え」、「等温
曲線」プロセスでは、「可変物体が、物体に熱を与える」としているのに対し、逆サイ
クルでは、「等温曲線」プロセスでは、「物体が可変物体に熱を与え」、「等温曲線」
プロセスでは、「可変物体が、物体に熱を与える」という表現になっています。
すなわち、順サイクルと逆サイクルでは、可変物体(気体など)と物体の間の熱流の方
向が逆になると言う事です。実に「エアコンの暖房が逆サイクルを利用している」ということはこの
ことを意味していたということがやっと理解できました(^^;。

ま、私がこんなことを特に強調するのは、現在のテキストで使用されている「高熱源」「低熱源」と
いうtermはそんなのはお前だけだと言われてしまうかもしれませんが、ニュアンス的に誤解を招
きやすいと思うのです。現にネット上に「熱を吐き出すのに『低熱源』というのはわかりにくい用語」
だみたいなことを書かれていた自分の大学の教材?に書かれていた先生がおられました。
これまで触れてきましたが、カルノーもクラウジウスも、その働きを"reservoir"とした温度一定の
"body"という用語を使っています。そしてこの"reservoir"としての二つの物体は温度差があり、そ
の温度差は"infinite small(無限小)"でよいとしています。わずかな温度差があればよいわけです。
以前の私のようにこのことを誤解したりしますと、逆カルノーサイクルがわからないことになってし
まいます。前述のように、順カルノーサイクルと逆カルノーサイクルでは、言わば気体に熱を与え
る熱源と熱を吐き出す熱源が逆になります。エアコンの「暖房」はいわば「低熱源」の外気の熱を
取り込んでいるわけです。

尚、なぜ、このカルノーサイクルが理想的な最高効率なのかということは以上の説明を考えれば
明白であり、私は納得できました。ポイントは、前述で留意すべきと先に書いたのですが、繰り返
しておきますと、カルノーサイクルにおいては、

ということです。可変物体と物体を接触させるときに温度差があると、可変物体の温度
をその物体の温度にするための余分な熱量が必要となります。これは「ムダ」な熱損失です。
ですから、大変失礼なことを言うなら、わざわざあんな何か屁理屈臭い証明など不要ではないか
と思うのですがどうでしょうか?ちなみに「準静的状態」だからという話は別にしてです。

尚、クラウジウスは現在「カルノーサイクル」と称せられているこの基本的な"Cyclical Process"を
"Simple Cyclical Process"と呼称しています。そして、留意すべきはこのカルノーサイクルは
可逆(reversible)サイクル」であることを大前提にしたものであるということです。

さて、輻輳するのですが、クラウジウスのこのCHAPTERVの§3というところでカルノー(Carnot)
に言及しています。まずは時代背景をよく表している文章が冒頭にありましたので紹介しておき
ます。

 In his time the doctrine was still generally prevalent that heat was a
 special kind of matter, which might exist within a body in greater or
 lesser quantity, and thereby occasion differences of temperature. In
 accordance with this doctrine it was supposed that heat might change
 the character of its distribution, in passing from one body into another,
 and further that it could exist in different conditions, which were
 denominated respectively ‘free’ and ‘latent’; but that the whole
 quantity of heat existing in the universe could neither be increased
 nor diminished, inasmuch as matter can neither be created nor
 destroyed.

 (彼の時代には、熱は、多かれ少なかれ物体内に存在し、それによって温度差
 が起きている特別な種類の物質であるという教義がまだ、流行していた。この
 教義に従って、熱は一つの物体から他に移る中でその分布の性質を変え、そ
 れは、それぞれ「自由に」「潜在的に」と名付けられた異なる条件で存在できる
 ;が、宇宙に存在する全熱量は、物質は創造も破壊もできないので、増加も減
 少もできないと仮定されていた)


「特別な種類の物質」というのは"Caloric"の概念です。そして、「自由に」と「潜在的に」というのは、
この本でも述べられていましたが、かつては熱は"free heat"と"latent heat(潜熱)"からなるという
一般的な考え方があって熱計算がそれによりなされたという歴史的事実を示しています。
Carnotが「熱力学の第二法則」のプロトタイプと言うべき"Carnot's Theory"を示した「回顧録」は
1824年に発行されていますが、まだ当時はそういう時代だったわけで、「"Caloric"を信じて」と
言うのは言い過ぎではないかと思います。急速に考え方が変わったのは、少し後のことで、摩擦
で熱が発生するという経験的事実に着目する科学者が増えて来て、前に示しましたように、仕事
と熱の等価性を注意深い実証実験でジュールが示したのは1843年のことですからね。
そういう「熱」に関する科学界の定説はこの19世紀中期に大きく転換したということでしょう。で、
クラウジウスはその新しくなった「熱」の考え方をグッドタイミングでいち早く体系化した科学者で
あったということでしょう。その上で、前に述べたように、埋もれていた"Carnot's Theory"に着目
してワットが使い始めたというPV線図でその概念を図式化し、数学的説明を与えたクラペイロン
の仕事があった
ゆえに、時の科学界の大御所のケルビン卿(トムソン)が目をつけ、クラウジウス
は新しい「熱」概念でそれを再解釈し発展させて「熱力学の第二法則」を公理化したというわけで
す。

話を元に戻しますが、クラウジウスは、続けて、

 Carnot shared the views, and accordingly treated it as self-evident
 that the quantities of heat, which the variable body in the course
 of the cyclical process receives from and gives out to the surrounding
 space, are equal to each other, and consequently cancel each other.
 (..) he says: “we shall assume that the quantities of heat absorbed
 and emitted in these different transformations compensate each other
 exactly. This fact has never been in doubt; admitted at first without
 reflection, it has since been verified in many instances by experiments
 with the calorimeter. To deny it would be subvert the whole theory
 of heat, which rests on it as its basis.”
 (..)he laid down the principle that the quantity of work done must
 bear a certain constant relation to the ‘passage of heat’, i.e.
 the quantity of heat passing over at the time, and to the temperature
 of the bodies between which it passes; and that this relation is
 independent of the nature of the substance which serves as a
 medium for the performance of work and passage of heat. His
 proof of the necessary existence of this constant relation rests
 on the principle “That it is impossible to create moving force
 out of nothing”, or in other word, “That perpetual motion is an
 impossibility”.

 (カルノーはこの見解を共有化し、したがって、周期的プロセスにおいて可変
 物体が周辺の空間から与えられまた与える熱量は互いに等しく結果的に
 キャンセルされることは自明の理であると扱った。(中略)
 彼は「我々は、これらの異なる変換において、吸収され放出される熱量は
 厳密に互いに補填し合う。この事実は、決して疑われなかった;熟考なし
 で最初に、カロリーメータによる実験から多くの実証で確認されたと認め
 られた。それを否定することはそれをその元においている全ての熱理論を
 覆すことになるだろう」と述べている。(中略)
 彼は、なされた仕事量は、「熱の通路」すなわちそのとき通過する熱量と、
 通過する間の物体の温度とある一定の関係を持たねばならないと言
 う原理、この関係は、仕事の遂行と熱の通過に対する媒質として補助する
 物質の性質には独立であるという原理を主張した;彼の、この一定関係の
 必然的存在の証拠は、「無から運動する力を作り出すことは不可能である」
 または言い換えるなら「永久運動は不可能である」という原理に置かれて
 いる。)


と述べ、更に、

 This mode of dealing with the question does not accord with
 our present views, inasmuch as rather assume that in the
 production of work a corresponding quantity of heat is consumed,
 and that in consequence the quantity of heat given out to
 the surrounding space during the cyclical process is less
 than that received from it.

 (その問題を扱っているこのやり方は、我々の提示した見解−むしろ、仕事
 の生成において、対応する熱量は消費され、結果的に、周期的プロセスの
 間、周囲空間に吐き出される熱量はそこから受け取るものより少ないとい
 う想定とは一致していない。)


と述べています。尚、その上で彼は、

 (..)Accordingly not only must the principle enunciated by
 Carnot receive some modification, but a different basis
 of proof from that used by him must be discovered.

 (したがって、カルノーにより断言された原理はいくらかの修正を
 受けなければならないばかりか、彼によって使われた証拠とは異
 なる基礎を発見しなければならない。)


と述べ、次の§4"New Fundamental Principle concerning Heat"で彼の立場を明確化し
ています。
詳細は省略しますが、基本概念として、まず、

 "Heat cannot, of itself, pass from a colder to a hotter body”.

 「熱は、それ自身では、冷たい物体から熱い物体へは通過できない」(※1)

と述べています。クラウジウスは自分が述べている(※1)の中の"itself(それ自身)"というtermに
ついての完全な理解のためには著者の論文の種々の部分で与えられた更なる説明を必要とし
ていると述べ、簡単に二つの立場を示しています。

 In the first place they express the fact that heat can never,
 through conduction or radiation, accumulate itself in the
 warmer body at the cost of the colder.

 (第一の立場では、それらは、熱は、決して、伝導または放射を通し
 て、より冷たい物体の対価で、より暖かい物体の中に自分自身を蓄
 えたりしないという事実を表している。)


  In the second place the principle must be applicable to
  processes which are a combination of several different
  steps, such as e.g. cyclical processes of the kind
  described above.

  (第二の立場では、その原理は、例えば、前述のような種類の周期
  的プロセスのような種々の異なるステップの組み合わせであるプ
  ロセスに適用可能であらねばならない。)


そして、

 “A passage of heat from a colder to a hotter body cannot
 place without compensation”

 「より冷たい物体からより暖かい物体への熱の通過は代償
 なしでは起きることができない」
(※2)

を宣言していますが、これについては多くの反対があったそうで、その理由として彼は、

 the objections raised were due to the fact that the phenomena,
 in which it was believed that an uncompensated passage
 of heat from a colder to a hotter body was to be found,
 had not been correctly understood.

 (起きた異議は、そこにおいて、より冷たい物体からより熱い物体
 への代償のない熱の通過が発見されるべきであると信じられて
 いた現象が正しく理解されてこなかったという事実によるもので
 あった)


と述べています。これについては

 It is true that by such a process(..)heat may be carried
 over from a colder into a hotter body; our principle
 however declares that simultaneously with this passage
 of heat from a colder to a hotter body there must either
 take place an opposite passage of heat from a hotter to
 a colder body, or else some change or other which has
 the special property that it is not reversible, except
 under the condition that it occasions, whether directly
 or indirectly, such an opposite passage of heat. This
 simultaneous passage of heat in the opposite direction,
 or this special change entailing an opposite passage of
 heat, is then to be treated as a compensation for the
 passage of heat from the colder to the warmer body

 (このようなプロセスにより、熱がより冷たい物体からより熱い物
 体に伝わるかもしれないことは事実である;しかしながら、我々の
 原理は、より冷たい物体からより熱い物体への熱の通過と同時
 に、熱い物体から冷たい物体への熱の反対の通過ないしは可
 逆ではない特別の性質を有する何か他の変化のいずれかが、
 直接的か間接的かに係らず熱の逆の通過のようなことが起きる
 条件下を除き、存在しなければならないことを明らかにしている。
 この反対方向での熱の同時通過、または、この反対の熱通過を
 必然的にともなう特別の変化は、そのとき、より冷たい物体から
 より暖かい物体への熱通過に対しての代償として扱うべきであ
 る)


という根拠を挙げています。彼の考えを明確に示していますので多く引用しました。

そして、この見解の上で、「仕事に変換される(または、ここで、そのプロセスが逆順で仕事により
生ずる)熱量Qと同時により熱い物体からより冷たい物体(または逆)に流れる熱量Q2との間には、
変換(transformatin)と移動(transfer)の媒質として働く可変物体の性質には独立の関係が存在し
ている」とし、まず、

 “If where two different variable bodies are used, the
 quantity of heat Q transformed into work is the same,
 then the quantity of heat Q2 Q_2, which is transferred,
 will also be the same.”

 「もし、二つの異なる可変物体が使われている所で、仕事に変
 換される熱量Qが同じなら、そのとき、移動される熱量Q2はま
 た同じであろう」


と述べて、省略しますがその証明をしています。この考察より、
は可変物体の性質には独立であるので、それはただ、reservoirとして働く二つの物体
の温度のみに依存することができるとし、更にその時
であるので、商もreservoirとして働く二つの物体の温度のみ
に依存することになるとして、多くのテキストで証明されていますので証明は省略しますが
・・・(5)
という式が導出されています。繰り返しますが、クラウジウスの概念によれば、
は、高温(温度)側のreservoirとしての物体から可変物体に供給される(放出さ
れる)(逆サイクルのときは可変物体から流入する)熱量、は、低温(温度)側のreservoir
としての物体に可変物体から流入する(逆サイクルでは可変物体に供給する)熱量です。
この熱量はreservoirから流出する・reservoirに流入するという方向性があります
のでこれら熱量自体に正負の符号(sign)を含めますと、(5)式より、
・・・(6)
という式が導出されます。これは一般の熱力学のテキストに出てくるものです。

このように二熱源の場合は理解できましたが、実はそこから発展させた「多熱源」の式
・・・(7)
・・・(8)
(注:クラウジウスのテキストの表記)
又は
・・・(9)
(注:一般のテキストの表記)
と書かれる式が恥ずかしながらよく理解できませんでした。
で、見た限りのウェブ上のテキスト・解説では詳細に触れられていませんで
したが(というより、どうも大半は前項で指摘した理解に基づく説明による数学的説明になってい
る感がしていますが)、クラウジウスはこれについてもずばりその考え方を示しており、やっとなん
とか理解できました。彼はまずは簡単な例として次の図2のCyclical Processで説明しています。
              図2

図2の説明をしておきます。
曲線は一定温度での膨張を表します(等温曲線)。
曲線は熱の出入りの無い膨張でその間、温度はからに低下します(等エントロ
ピー曲線)。
曲線は一定温度での膨張を表します(等温曲線)。
曲線は熱の出入りの無い膨張でその間、温度はからに低下します(等エントロ
ピー曲線)。
曲線は一定温度での圧縮を表します(等温曲線)。
曲線は熱の出入りの無い膨張でその間、温度はからまで上昇します(等エント
ロピー曲線)。
膨張では、可変物体は正の熱量で起き、圧縮は負の熱量
でおきます。
今、図に示すように、等エントロピー曲線の延長上に破線で示した等エントロピー曲線
を仮定します。その結果、全プロセスは、単純プロセスに分割されます。
圧縮の間に取り込まれる負の熱量を、第一の部分は圧縮の区間で、第二の
部分は圧縮の区間で取り込まれる二つの部分に分割されると仮定します。
このとき、に対しては
・・・(10)
に対しては
・・・(11)
となるので、(10)(11)を加えると、
・・・(12)
となります。ここで、
・・・(13)
であるので、(10)(11)より
・・・(14)
となります。やっと(7)式がどのような考え方から出て来たものかが理解できました。
いずれにしろ、結果としてという形の分数の代数和となっていますが、留意すべきことは、
この分数式において、熱量は温度のreservoirから流出・流入する熱量であるという
ことです。

では、積分形の(8)ないし(9)式はどうでしょう。私は安易に(7)式の拡張で納得したのですが、これ
についてもクラウジウスは考え方をきちんと示しています。§9という所で、「我々は最後に、等エ
ントロピー曲線と等温曲線で考えられない図で示されるような周期的プロセスを、しかし一緒の一
般的な形で考えるべきである」として考察しています。
これについては、まず、図3のような考え方を示しています。

                  図3

彼は、「そこで熱の取り込みなしで温度が交番的に変化するのと、温度変化なしで熱を取り込ん
でいる、非常に多くの大変小さい変動からなるような変動を考えてよい」とし「この一連の連続変
動は図3の場合、またはのコースにに沿って、交互の等温要素と等エントロピー要
素からなる不連続線によって表示されるだろう」としています。そして、「断続曲線が構成されてい
る要素が小さければ小さいほど、それは連続線とずっと近くなり、もしこれらを無限小にするなら、
その一致は無限に接近するだろう。この場合、取り込む熱量と温度の関係において、もし、連続
線によって示される変化に対して断続線で示される無限に多くの交番変化を置き換えるなら、無
限小差を作ることができる」と述べています。
そして、その上で、「熱の取り込みが温度変化と同時であり、なんであれ、任意の形の曲線または
下図4のような単連続閉曲線で図的に示すことができる完全周期プロセス」に関して考察を進め
ています。この閉曲線の面積は消費される外部仕事を表しているのはこれまでの説明からも明白
ですね。そこで、点線で示すような隣接等エントロピー曲線によって無限に薄い小片に分割し、こ
れらの曲線を、その長さを通してどこでもそれと無限に接近して一致する与えられた曲線を切る、
無限小等温曲線の要素で上と下で結び付けようと述べています。繰り返しますと、図の点線は無
限小の分割をした「断熱曲線(等エントロピー曲線)」、曲線に沿うギザギザ形の線は「無限小等温
曲線」を示します。これから、彼は、この点線の隣接する二つの「等エントロピー曲線」と曲線に沿
うギザギザの対向する二つの「等温曲線」で構成された無限小四角形は"Simple Process"となり、
結局この"Cyclical Process"は無限に多いこの無限小四角形で表される"Simple Process"からな
ると考えてよいとしています。この考え方から、(8)ないし(9)式が導出されているわけです。

                  図4

説明が輻輳して冗長的ですが、図4において、一番左側の始点から体積が最大の点までのプロセ
ス(膨張)とそこから始点までのプロセス(圧縮)を無限小分割して、二つの断熱曲線(クラウジウスが
等エントロピー曲線と称したもの)で結んで無限小カルノーサイクルを作りそれを加え合わせれば、
図4のサイクルの仕事は閉曲線で囲まれた面積であり、それはこの無限小カルノーサイクルの面
積を合計したものであることは間違いなく、また、図3の考え方を発展させれば、(8)式は、温度
の無限小分割reservoirから流入出する(したがって正負の符号を持つ)熱量に対しての商
の代数和と考えてよいと思います。くどいですが、クラウジウスのテキストにそこまでくど
くどと書かれているわけではないのですが、上記で私が勝手に「無限小分割reservoir」と書いたも
のは、この閉曲線を図3の考え方で無限小分割してそれを無限小カルノーサイクルの「等温曲線」
とみなし、その「等温」にするreservoirとしたものです。したがって、(8)式の積分項における
は1無限小分割reservoirに対するものであり、の形で刻々変化していくもの
となるということです。

ちなみに、国内サイトを色々と検索していた時、この図4を示されていたのはある大学の先生の多
分学生教材テキスト用だと思いますが、PDF文書くらいしかありませんでした。多分に大変失礼
ながら多くの方は(5)〜(7)式が誤解されているのでではないかと思うのですが・・
多くのテキストにある何か微小カルノーサイクルをまるでタイル・モザイク画のようにしきつめた説
明ではなぜそうできるのかという論理的理由が不明確だと思います(私は理解できませんでした。)
繰り返しますが、等温曲線と断熱曲線の間にできる閉曲線からカルノーサイクルが思いつかれた
わけではなく、あのP-V線図はカルノーが若死にし、彼の埋もれていた"Carnot's Theory"に注目
した物理学者のクラペイロンという人が描いた図であり、カルノーはあの図から思いついたのでは
ないということです。タイル・モザイク画的分割で説明されている方は大変失礼ながらそういう事実
をご存知ないのではないか、クラウジウスの説明をご存知ないのではないかと思います。
(続く)
 ('17/3)

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