再び、「数学」≠「物理学」と主張します

私は、無限について考察した項(ここここ)で、
 「数学」≠「物理学」
という主張をしました。そして、その根拠を、多くの数学者が主張している
ように、
 『数学』は『自然科学』の範疇では無い
ということに置きました。

しかしながら、ネット検索してますと、
 ・数学は自然科学では無いと言う意見があるが、私は自然科学と思う
 ・物理学=数学である
 ・数学は物理学から生まれたものだから、物理学が数学の上にある

などいうような意見を目にしました。

私自身、長い間、『数学』という学問体系の本質を知らなかったこともあり、
えらそうなこと言える立場にはありませんが、調べてみて、じっくりと自分
で考えて得た私なりの上記結論から考えとき、このような意見は、数学と
言う学問の本質を誤解されている・理解されていないものだと強く反論し
たいのです。

前述の項でも述べましたが、もし、『数学』を『自然科学』の範疇にするの
なら、かつてブラウワーが主張したように、数学は『数学的直観主義』で
あらねばならなくなると思うのです。まずは、『自然科学』とは何かと言う
ことを考えていただきたいのです。『自然』と矛盾していては『自然科学』
ではないのです。『自然科学』は自然に忠実であって初めて『自然科学』
なのです。

しかるに、現代の『数学』という学問体系は、数学者自身が言明されてい
るように、必ずしも自然に忠実とは限らないのです。中味をちょっと見れ
ば、これは明らかです。

ネットに、「日本における学校の数学教育(大学の数学科の教育を除く)
は『計算重視』の教育である」という主張がありました。
確かに、私自身も振り返ってみればそうだなぁと思います。いずれにしろ
特に日本の数学者以外の理系人間はその意味で数学への思い違いが
ある気がします。

一方で、西欧での学校の数学教育は『論理学』から入るそうです。そして、
数学の基本体系は西欧で確立されていることもあって、
 数学は「論理的矛盾がない」ことが正しさの証拠
であり、命題が自然に忠実であるかどうかは問題視されていないのです。
だからこそ、物理学にも顔を出していた、ポアンカレーが先駆者とされて
いる『数学的直観主義』は多くの数学者には受け入れられなかったので
す。そして、そういう論理矛盾を消しながら数学におけるツールの適用
性を維持するための恣意的公理を含めているのです。

では、逆に、物理学の理論を眺めてみましょう。確かに、数学が多用され
ていますが、数学と言うより『数式』であり、更に、そこには、数学世界で
は認められない「論理飛躍」が顔を出している
のです。「自然現象をうま
く説明するため」と科学者が考えているという理由だけで。

結局のところ、前述の項でも述べましたが、『数学』と『物理学』の間には
 『数学』では『論理』と『数式』がその学問そのものであるのに対し、
 『物理学』では『数式』は自然現象を説明するための理論をうまく
 表現するためのツールでしかない

という決定的な相違があるのです。

したがって、『自然科学』である『物理学』においては、少なくともアプリオ
リな面に反することがないよう、十分注意して、制限付きで『数学』を流用
する必要があるのです。
数学にあることは全て現実にあると思うのは、数学という学問体系を理
解していない思い込みでしかないのです。受験数学が得意だった人が必
ずしも数学者になれていないのはなぜかをよ〜く考えてみる必要があり
ます。

前述のようなネットで見受けられる誤解(私は誤解と主張します)は、前
述のように、日本における学校数学教育が『計算重視』の教育であるこ
とによるものであり、恐らく、数学≒受験数学くらいにしか考えていない
ことによるものじゃないかなと思うのです。

前にも書いたような覚えがありますが、「数学科志望だったが、教授か
ら君には向いていないといわれて理論物理学に進んだ」と書いている人
の言を目にした事があります。理由については触れていませんでしたが、
私にはわかる気がします。公理・定理を知っていて数式を使いこなすだ
けでは数学者にはなれないということではないかと(大変失礼な推定で
すが)。

ただ、私は、「公理・定理を知っていて数式を使いこなすだけ」では、真の
『自然科学』者にもなれないのではないかと思うのですけどね。『自然科
学者』というのは、寺田寅彦さんがおっしゃっているように(ここ
 人間の頭の力の限界を自覚して大自然の前に愚かな赤裸の自分を
 投げ出し、そうしてただ大自然の直接の教えにのみ傾聴する覚悟が
 あって、初めてなれる

と思うからです。大変失礼な言い方をするなら、「高等数学をいくら使い
こなせても、『自然』というものを素直に観察できない方は、自然科学者
とはいえない、数学者崩れでしかない」と思うのです。

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