"NULL"と"NO NULL"の違い
科学の「実験観測」というのは必ず『目的』があり、大抵はある程度の結果の
「予測」あるいは「期待」を持ってなされていると思います。しかしながら、「予測
と実験観測結果が不一致」ということは現実科学世界では多々あることと存
じます。その場合、科学者はどういう行動をとられるでしょうか?
一つ目のポイントはこの「『予測』『期待』とは何か」ということです。
通常、『予測』は、「それまでの科学知見(科学常識、基本理論)に基づく
もの」でしょうし、『期待』は、「自己又は他者の仮説に基づくもの」でしょう。
二つ目のポイントは、その結果が「数値データ」の場合、『不一致』というのは
どんな程度なのかということです。
そして、三つ目は、その「科学知見の科学界でのそのときの位置づけ」で
す。
三つ目の問題についてはこれまで散々書いているので、ここでは触れず1番目
と2番目に関することについて考えます。
ちなみに「実験者」自身は必ずしも、「予測値」を肯定的に見てでなく、否定的に
見てそれが実験観測で否定されることを期待して行う場合もあるようですね。
「おやおや、わざわざそんな?」と考えてもいませんでしたが。
私はごく最近まで全然知らなかったのですが(恐らく、知らない方の方が多いと
思いますが)、ここで示したように、有名な" Michelson-Morley Experiment"はマ
イケルソンがローレンツなどの当時の主流科学者の説を否定するために行った
試験だったのでした。
それはそれとして(実は関係あるのですが)、本項のテーマは、その実験観測結
果の『数値データ』とその『解釈』についてです。
「不一致」というのは、「"NULL"と判定された」
というのと、「"NO NULL"だ
けど値が違いすぎる」という場合が考えられますが、いずれの場合にしろ、科
が科学であり続ける限り、「基本的には」否応なく、それまでの科学知見(科学常
識、基本理論)を修正変更せざるを得なくなります(「基本的には」とわざわざ書
いたのは、散々批判して来ている前述の三番目が行動を狂わせてしまう例がよ
く散見されるためですが本項のテーマではないのでそれはないときの話に絞り
ます)。
しかしながら、"NO NULL"と"NULL"ではその後が大きく異なっているのです。
なぜなら、
"NO NULL"の場合は、その値が出る理論を考える必要がある
のに対して、
"NULL"(と判定された)場合は、なぜそうなったかを考えるだけ
でよい
からです。要するに、"NO NULL"の方が「仮説を作るのには一段と難しい」
のです。
そこで、一つの問題が浮かび上がります。
それは、「"NULL"判定」の正当性・妥当性です。なぜならデータというのは、必
ず「バラツキ」を伴うからです。ですから、科学のデータ処理は統計処理を行うわ
けです。統計処理は現在ではある程度確立していて、科学技術分野ではそれが
使用されるのですが、過去の科学史を見ると、かなり「主観的」になされてきた
例が報告されているのです(例えば『背信の科学者たち』⇒ここで引用)。
あってはならないのですけど、データ処理に「恣意性」が入ることが多々あるので
す。データ誤差で"NULL"と判定するか、いや"NO NULL"と判定するかはその
判定が極めて重要になるのは、前述のように、根本的にその後の研究方針と推
定が異なってくるからです
実際、私が本コーナーを作った理由である「特殊相対性理論(Special Relativity)」
が生まれたそれ以前の科学史においては、ここで触れたように
「二つの"NULL"
判定」がありました。一つは「光行差」観測、もう一つは「マイケルソン=モーリー
実験」でした。前者はその後のフィゾー実験と共にフレネルの「(透明物質に限る)
部分引きずり説」の証拠にされましたが、少数派ながら別の説で解釈された方達
がいました。実はそれが" Michelson-Morley Experiment"が行われた理由でした
が、その結果はLorentzらにより"NULL"と判定され、それが彼のあまりにad-hoc
な"Lorentz ether thory"そしてそれの影響を受けその効果とエレガント性から、
意外に早々と当時の科学者の支持を得て現在に繋がっているEinsteinの「特殊
相対性理論」に繋がったのですが・・・
その"NULL"判定に異議を唱えた方の膨大な実験結果が当時ありましたけど、
誤差とかそんな扱いでうやむやにされてしまっているようです(⇒ここ参照)
なぜなら、"Lorentz ether thory"も"Special Relativity"も"NULL"であることが理
論の絶対的条件になっているからで、海外ではそれを問題視している学者さん
達が現れてきておられるようです。
以上より、"NULL"か"NO NULL"かどちらに判定するかはその後の科学に多大
な影響を及ぼしてしまう極めて重大なポイントだと思います。
(’14/3)
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