『砂の器』旅情(’13/9)


松本清張『砂の器』については既に書きましたが(ここ) 国内広範囲に渡る
場面が出てくるので、初めて野村芳太郎監督で映画化(松竹映画)される
まで、映画化は困難と言われたようです。ま、不満もありますが、映画化・
ドラマ化されたうちではまだ、一番原作に近い(それでもかなり変えられて
いますが)のはこの最初の映画のような思いが私にはあります。

さて、原作の『主人公』はドラマと違い、犯人を追いつめて行く警視庁捜査
一課の今西刑事です。
それまで、名探偵物とか海外ミステリーばかりしか読んでいなかった私が、
初めて読んだ国内の『社会派推理小説』がこれで、私にとっては強烈な印
象があって、それ以後、こういう『社会派推理小説』も私の読書範囲になり
ましたから、私にとっては一番思い入れもある記念すべき作品です。

ま、事件捜査の専門家である『刑事』が事件を追うというのは当たり前のこ
となんですが、それまで読んでいた名探偵ものでは、対照的に、警察のだ
らしなさが描かれていましたから、そういう意味では私にとって新鮮な思い
がした覚えが有ります。ま、昨今は警察小説・警察ドラマがはやりになって
警察機構が描かれていますが、そういう観点から見ると、この今西刑事っ
て資格は何かな?と考えてしまいます。実在した有名刑事さんの地位から
見て警部補なのかそれとも巡査部長刑事なのかって・・・。45歳のベテラン
刑事ですからねぇ。ま、どうやら今は本庁で警部補なら主任のはずですか
ら、多分今なら巡査部長刑事ってとこでしょうが、昔は今とは体制が異なっ
ていたかもしれません(不案内です)し、そこまで厳密に調べて書いたわけ
でもないのかもしれません。所轄(蒲田署)との合同捜査ですが、指揮官を
「捜査主任」と書いていますから。ま、映画では確か警部補だった気がしま
す。

さて、前置きが長くなりましたが、この作品には『旧・国鉄』がいくつも出てき
ます。

・・・・以後、若干、ネタバレありますのでご注意!!・・・・・・


そもそもの事件の発端が、国電・蒲田駅の電車基地でしたし。古い作品で
すから、まだ寂しい一帯として描かれています(私は東京地区には不案内
ですが、当然ながら、現在は全く違っているのでしょうね)。

そして、最初の今西刑事の出張は所轄の吉村刑事を伴っての東北出張で
す。捜査本部が人名と考えていた『亀田』を今西が地名ではないかと提案
したことから今西刑事が出向くことになったというわけです。結局、このとき
無駄足でしたが。

行き先は、秋田県の『羽後亀田』。当時ですから、夜行急行全盛時代。
秋田行き夜行急行の『羽黒』という列車で上野〜羽後本庄、羽後本庄で普
通列車に乗り換えて『羽後亀田駅』まで行っています。
これは、上越線→羽越本線という経路なんですね。若い頃、時刻表好きで
したので、この急行『羽黒』という列車名は記憶がありますが、こんなルート
だったことは覚えがありません(乗ったわけではないので)。
むしろ、そういうルートの秋田方面列車があるとは思ってもいませんでした。
現在、唯一、上野から秋田方面の夜行列車として残っているブルートレイン
の『あけぼの』がこのルートを通っているようですが、元々は確か奥羽本線
経由だったはずです(秋田新幹線が出来て在来線ではそのルートがとれな
くなったため、上越線・羽越本線経由になったのではなかったかな?私の思
い込みかもしれませんが)
いずれにしろ、『羽後亀田駅』は羽越本線の駅ですからこういうルートでの
出張だったんですね。秋田だったら多分、当時、奥羽本線経由だった『津軽』
が使われたでしょうから。
ま、上野駅で満員の車両という表現がありますから、昔は多くの人がこうい
う普通の夜行急行の座席車を利用されたんですよねぇ。今西刑事達も自由
席座席車で出張しています。前述の映画でも今西刑事と吉村刑事が羽後亀
田に出張しますが、何で行ったかについては記憶がありません。

後は今西刑事が単独で出張、または休暇利用で自費で出張しますね。
伊勢とか北陸とか大阪とかそしてメインエベントというか『亀嵩』(かめだけ)
これらは事件が未解決なまま、捜査本部が解散になった後、被害者の身元
がわかってからですから単独とか気兼ねして休日利用の自費とかになった
というわけですが。

さて、『亀嵩駅』ですが、これは島根県にある駅で、島根県・宍道駅〜広島県・
備後落合駅間のローカル線(現・JR西日本)である『木次線』の駅です。
ローカル線の小さな駅ですが、この作品で一躍有名になりましたね。「かめだ」
ではなく語尾に「け」がつくのですが、この地方の言葉のなまりがズーズー弁
に類似していて、語尾が不明確だということから「かめだ」と聞こえたというの
が真相のようです。被害者が昔、この付近にある三成署の警察官だったこと
から今西が発見した地名で一人で出張し、人に恨まれたりしないよいおまわ
りさんだっという評判ばかりでこのときは得ることがなくがっかりして今西刑事
は帰ったんですが・・・。やはり、このおまわりさん時代のあることが事件の遠
因だったんですね。「よいおまわりさん」すぎたのが裏目に出たという悲劇。

さて、この『木次線』ですが、三重のスイッチバックがあるんですね。降雪も
多い山地のローカル線ですね。YouTubeに雪の中を無理やり走る気動車前
面展望映像がありました。この厳しいスイッチバックを雪で線路が見えない
のに、そして乗客はこの撮影された方一人だけなのに運行している映像です。
ま、なぜか私はこの木次線の位置関係を勘違いしていてもっと西の方にある
と長い事思い込んでいました(^_^;)。

ちなみに、今西刑事は東京からは、昔存在した、急行の出雲』で京都から、
山陰本線経由で行っていますが、映画の今西刑事(丹羽哲郎さん)は岡山ま
で新幹線、岡山から特急「まつかぜ」で行っています。まつかぜって今は山陰
本線の一部だけの列車ですね。ま、京都から山陰本線に入るブルートレイン
の特急『出雲』も廃止されてしまって、今は伯備線経由の二階建寝台特急電
車の『サインライズ出雲』となり、最早、京都から綿々と山陰本線経由で山陰
方面に行く優等列車は無くなってしまいました。

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