名古屋市の鉄道事情


前々から気になっている名古屋市内の鉄道について調べ、ど素人ながら考えてみま
した。多くの人がこの地の鉄道を『貧弱』と言い、私もそう思い込んでいたからです。
本当は『愛知県』という単位でそう考えていたのですが、愛知県の状況を調べている
中での『現実』に直面(ここに愛知県について調べたことをまとめています)し、矛先
を「名古屋市内」に絞ることにしました。

下の地図は名古屋市内の全『鉄道路線図』です。

市内鉄道網
            名古屋市内全鉄道路線図

こうやって地図を縮小すると意外にある感じがしますね。
ただし、よく見てもらえばわかりますが、名古屋市の鉄道密度を「稼いでいる」のは地
図上では茶色の線で示した名古屋市地下鉄なんですね。
恐らく特に「東京圏」から来た人などが感じている「名古屋は鉄道網が貧弱」という
のは実は『地上鉄道網』のことではないかと思います。そして、まさにそれはそ
の通りで、確かに「地上鉄道網」だけ見ればいかにも「貧弱」であることは間違いあり
ません。

『鉄道』と言えば、日本では旧・国鉄が前身のJRが真っ先に上げられる存在でしょう。
そして、そのJRは東京23区とか大阪市ではそこの住民にとって「日常の足」として
大きな存在となっている感がしています。すなわちそれだけそこの「住民」にとって便
利な「足」と認められるだけの状況
にあるわけです。

では名古屋市の場合どうでしょうか?
名古屋市内のJR在来線は下図のように旧・国鉄時代から引き継いだ東海道本線
中央西線関西本線三つのみです。
どうですか?すっかすかですよね(;一_一)

JR
            名古屋市内JR路線図

このうち東海道本線は愛知県内では人口1位(名古屋市)、3位(一宮市)、4位(豊橋
市)、5位(岡崎市)と2位豊田市を除く上位4都市を通っている路線です。
しかしながら、東海道本線はそもそも、東海道新幹線ができる前までは東京と大阪
を結ぶ国内1級大動脈路線であり長距離列車、貨物列車のための路線だったわけ
で、旧・国鉄時代は当地の人にとっては「日常の足」には程遠く、せいぜい「運賃」の
他に「特別料金」を払って遠くに行く時に使うだけ
という存在にしか過ぎないものだっ
たわけです。
国鉄の分割民営化による当地では名古屋に本社を置く「JR東海」の発足と「東海道
新幹線」の大衆化(昔の「特急列車」のようにハイクラスの人だけの存在ではなく我々
庶民が「普通に」利用するようになったという意味です)での東海道本線のローカル線
化に伴い、かなり周辺都市の方達の「日常の足」化は進んではいますが、旧・国鉄時
代に既に
複々線化されていて更には貨物専用線が別にある極めて優遇されていて
JR東・西がそういうインフラを引き継いでいる東京・大阪圏とは違い
、私に言わせて
もらえば「当地は旧・国鉄時代は地方と同様、one of themで極めて冷遇視され
ていたとしか思えない
」状態で、他の地域と同じ複線どまりで専用貨物線もない当
地なのに私鉄対抗上ではあるかもしれませんが(そういう競争は利用者にとっては御
利益がありありがたいことでとやかく言えば罰があたりますが(笑))JR東海が旧・国
鉄時代とは雲泥の差で頑張ってくれている気はしていますけど、物理的なダイヤ上の
制約はいかんともしがたいわけです。
で、名古屋市内で見ますと、この東海道本線は他の2路線に比し一番市内駅数は多
いのですが、それでも次のわずか7駅しかありません。

 (中村区)◎名古屋、(中川区)*尾頭橋、(中区)金山、 (熱田区)熱田
 (南区)笠寺、(緑区)大高、*南大高

上記のうち*印はJR東海になってから新設された駅です。また、元々は金山には東海
道本線の駅はありませんでした。したがって、旧・国鉄時代には東海道本線の市内駅
わずか4駅しかなかった
わけです。
そして、前述のダイヤ上の制約ですが、JR東海は後述の名鉄対抗のため、大垣(岐
阜県)〜豊橋間に沢山の「快速列車」を走らせていますが、そのしわ寄せは当然なが
ら普通列車に行って、普通列車は4本/時しかなく、その上、市内では快速列車は名
古屋駅と金山駅の2駅しか停まりませんので他の5駅は少ない普通列車のみの停車
なのです。繰り返しですが東海道線の複線の線路しかないのですから物理的に考えて
もどうしようもありませんよね。そして、市街地ですからたとえJR東海がその気になろ
うと今更複々線なんてほとんど絶望的なほど困難でしょう。
こんなもん私のようなど素人でもわかる論理です。

さて、他の二つの路線は名古屋駅が始発ターミナル駅になっています。

中央西線も東海道本線同様、複線どまりでここも貨物列車も走っています。
市内の駅は東海道本線と共通駅の名古屋駅、金山駅を含めても次の6駅であり、純粋
に中央西線だけの市内の駅は太字で示したわずか4駅にすぎません。

 (中村区)名古屋、(中区)金山、鶴舞、(千種区)◎千種
 (東区・北区)大曽根、(守山区)新守山

尚、千種駅は特急(しなの号)停車駅です。新守山駅だけは快速列車が止まりません。
ま、それでも、旧・国鉄時代に比べたらずいぶん改善されました。以前、1区間ですが
通勤で使っていたこともあります(引っ越ししたので今は通勤には使っていませんけど
JR利用する時には必ず市内区間で使っています)。

さて残る一つ、関西本線はまさしく旧・国鉄が当地をいかに冷遇視していたかを如実に
表している路線です。
電化こそしているものの、何と大都市・名古屋に乗り入れている路線かい?と呆れ果て
てしまっていますが名古屋駅付近からもう『単線なんです。
市内を通っている路線で単線というのはこのJR関西本線と存在理由がよくわからない
東海鉄道事業線(市内は西区、北区の庄内川の北側部分を縦断していて駅もあります)
の二つだけのはずです。地方でない古くからの政令指定都市内を「単線」で通している
のです。あまりにもふざけていませんか?
そして市内の駅は名古屋駅を含めても次のわずか3駅だけなのです。

 (中村区)名古屋、八田、(中川区)春田

JR東海になって後述の近鉄対抗で頑張ってはいますが、単線で貨物列車も走ってい
ますので、他の路線よりもっとダイヤ上の制約は多いですね。いかんともしがたいで
しょう。ネットでは沿線住民の方が複線化要望を強く叫ばれていますけど、たとえJR東
海がその気になろうと実現性という面で極めて困難でしょうね。

どうですか?これを見れば、とてもこの地でJRは市民の日常の気楽で便利な足という
存在から程遠いものだということがわかりますよね。
現在ではJRになってやっとなんとか近郊の方達が名古屋などに出てくるための足にな
りつつあるという存在なのですね<JR。

では補完するはずの同じく地上鉄道である「私鉄」はどうでしょうか?
確かに幅広く住宅地が綿々と広がっている東京圏などとは違うことを承知で書くのです
が、東京圏は前述のようにJR路線が優先的に沢山設けられていますけど、その間の地
域の足として私鉄網も沢山網の目のようにあり東京23区内でも多くの駅があります。
ネット調べましたら東京圏の鉄道網の充実さは世界一だそうですね。人口が巨大である
のは事実ですがそれでも差がありすぎのような感じがしています。

まずは名古屋に本社を置き、愛知県内の大半と岐阜県の一部に路線を有している名鉄
を見てみましょう。
名鉄の主柱は岐阜県の県庁所在地で最大人口の岐阜市から愛知県人口3位の一宮市、
政令指定都市・名古屋市、5位の岡崎市、そして東の端人口4位の豊橋市を結んで愛知
県を縦断する路線がまさにJR東海道本線とほぼバッティングする名古屋本線なのです。
市内の駅は、北部から、

 (西区)東枇杷島栄生(さこう)、(中村区)名鉄名古屋、(中川区)山王
 (中区)金山橋、(熱田区)神宮前、(瑞穂区)堀田
 (南区)呼続(よびつぎ)本笠寺本星崎
 (緑区)鳴海左京山有松中京競馬場前

の15駅です。特急電車は名古屋、金山、神宮前のみの停車です。
尚、名鉄名古屋駅は地下駅です。

神宮前駅からは中部国際空港(セントレア)まで乗り入れている常滑線が分かれていま
す。市内の駅は神宮前駅を出てから、全て南区に属していて

 豊田本町道徳大江大同柴田

の5駅でます。

北隣の清須市名古屋寄りのところで名古屋本線から別れている名鉄のもう一つの利益
頭である犬山線は西区の庄内川北側の旧・山田町地区を通りますので、ここに市内駅
として

 中小田井上小田井

の二つの駅があります。

名古屋駅を通っていない路線が二つあります。一つは瀬戸線で名鉄唯一の他の路線
と全く接続されていない路線です。これは始発駅が都心の栄にあり、市内の駅は

 (中区)栄町東大手、(北区)清水尼ケ坂森下大曽根、(東区)矢田
 (守山区)守山自衛隊前瓢箪山小幡喜多山大森・金城学院前

の12駅です。これは現在私が市内区間で通勤に利用しているものです。

残る一つは小牧線でこれは3セクの上飯田連絡線という地下鉄路線にて名古屋市地
下鉄との相互乗り入れの形で地下鉄名城線の平安通駅まで接続していますが、市内
の名鉄駅は

 (北区)上飯田味鋺(あじま)

の2駅だけです。上飯田は以前のターミナル駅でしたがそこから市内に乗り入れる鉄道
線はかってあった市電が廃止されてから長年ありませんでした。名鉄と名古屋市交通
局との間で色々あったようでわずかの区間なのに計画から完成まであまりにも長くかか
り遅すぎた感がしてなりません。小牧の桃花台のビーチライナが廃線化になってしまっ
た理由を関係者はよく考えるべきでしょう。

以上、名鉄は一応、5路線で35駅が市内にあることになります。したがって、ある程度は
市内日常の「足」になっていることは間違いないでしょう。
ただし、地図からわかるように名鉄もJR同様、場所的に偏っているんですね。
そして瀬戸線を除き市内の多くの駅が「普通」しか停車しない・・・。

もう一つ、愛知県の西隣の三重県に多くの路線を持つ大阪本社の近鉄が名古屋駅まで
乗り入れています。名鉄名古屋駅と同様、近鉄名古屋駅も地下駅となっています。
市内の庄内川東側ではほぼ完全にJR関西本線とすぐそばで平行しています、
市内の駅は

 (中村区)近鉄名古屋米野黄金烏森近鉄八田
 (中川区)伏屋戸田

の7駅あります。勿論複線です。運賃的にはJRですが、単線と複線、駅数からここでは
JRは近鉄に今のところ勝ち目はありません。

以上見てきましたように、地上鉄道であるJRも私鉄の名鉄・近鉄も場所の偏りから市内
での利用者は限定されていて広範な名古屋市民の「日常の足」には程遠い(名鉄瀬戸線
のように守山区を縦断している線は除いて)存在なのです。
驚くべきことですが、都心の「栄」にはJRは通じておらず近年になってやっと名鉄瀬戸線
だけが乗り入れしました。

結局、名古屋市は昔は沢山巡らされていた「市電」網が市民の「鉄路」としての足となって
いたようです。そして市電が廃止された今、冒頭に述べたように実は地下鉄が市バス
と共に多くの名古屋市民の「日常の足」になっているわけです。
今では、路線としては以下があります。

 東山線:中川区高畑〜名東区藤が丘と東西を結ぶ地下鉄1号線。
      中村区・中区・千種区・名東区を通っています。名古屋駅と都心の栄、
      歌にも出てくる飲食街の今池、動植物園のある東山公園を通るメイン
      の路線です。
 名城線:国内では珍しい地下鉄環状線です。右回りと左回りがあります。
      中区、北区、東区、千種区、昭和区、瑞穂区、熱田区を循環していて、
      都心の栄、大須、県庁、市役所、名古屋城、JR駅との乗り換え駅とし
      ての金山・大曽根の2駅、熱田神宮(西側)、八事、そして名大前など
      を通っています。栄駅・本山駅で東山線、上前津駅・八事駅で鶴舞線、
      久屋大通駅・新瑞(あらたま)駅で桜通線と交差接続しています。
      長さでは大阪のJR環状線より長いとか。
 鶴舞線:庄内川北側の西区上小田井駅〜市外・日進市の赤池駅を結ぶ南北
      路線。名鉄と相互乗り入れしている路線であり、上小田井駅で前述の
      名鉄犬山線と、赤池駅で名鉄豊田線と接続しています。
      西区・中区・昭和区・天白区を通る路線です。
      丸の内駅・御器所(ごきそ)駅で桜通線、伏見駅で東山線、そして、
      前述のように八事(やごと)駅で名城線と交差接続しています。
 桜通線:中村区役所前〜徳重間を結ぶ路線。名古屋〜今池間は東山線のバ
      イパス用として作られたようです。東山線は広小路のすぐ一つ北側
      に平行して東西に伸びる錦通の下を走る路線ですが、桜通はそのも
      う一つ北側の通りです。
      今池からは南下して、昭和区・瑞穂区・南区・天白区と通り緑区まで
      の路線です。長く天白区の野並駅が終点でしたが、最近延長されま
      した。
      前述のように、久屋大通駅・新瑞駅で名城線、今池駅で東山線、丸
      の内駅・御器所駅で鶴舞線と交差接続しています。
 名港線:金山〜名古屋港の路線です。元々、名城線の一部でしたが、名城
      線が環状線になったために別路線となりました。ただし、大曽根発
      で名城線からの乗り入れ車も現在はあります。

もう一つ、名城線・平安通駅〜上飯田までの1区間の上飯田連絡線がありますが、名鉄
小牧線との相互乗り入れ路線で今や大半は名鉄車両のようです。尚、この線路は3セク
のようです。元々の計画の一部のみやっと実現したといういわくつきの路線です。

結局、名古屋市は昔は沢山巡らされていた「市電」網が市民の「鉄路」としての足となって
ところで、市交通局は当面はこれ以上の新路線とか延伸は考えていないようです。
しかしながら、地下鉄は市電ほどきめ細かく設営できませんし、かつては市電が届いてい
た古くからの市街地でも今は市バスしかない地もあります。また、かつては何もなかった
所で土地区画整理事業により宅地化・市街化されたところもあります(名東区、天白区、
緑区など)。

しかし、名古屋の交通局(地下鉄、市バス)は赤字が長く続き、市も財政難。
そして古くからの中央地区と異なり、周辺の新興地区は不便ゆえにどちらかという「車社
会」。作っても乗客があるかという心配もしているらしいです。後述のあおなみ線の意外
な大苦戦もありますしね。

地下鉄は施工に莫大な費用がかかるため、名古屋市は代替もいくつか用意しました。
純粋な鉄道としては3セクのあおなみ線があります。
これはかつての旧・国鉄の貨物線の西臨港線を転用したもので、名古屋駅から港区の金
城ふ頭までの短い区間のものです。JR名古屋駅構内に専用の改札口・ホームを有してい
てJRからも別の乗り換え改札がありますが乗り換え可能です。
駅は

 (中村区)名古屋、  (中川区)小本荒子南荒子中島
 (港区)名古屋競馬場前荒子川公園稲永野跡金城ふ頭

全10駅です。
どうも業績がよくないらしく、名古屋駅から途中にある名古屋貨物ターミナル(ここまで貨物
列車と共用)までイベント列車のSLを走らせる計画があり、どうやら本格化決定で2月に試
運転することが決まり、希望者を公募したら全国から沢山の希望者が集まったと新聞にあ
りました。図書館にパンフレットが置いてありました。2月16,17日だそうです。
この話を最初に耳にした時、「ええっ、あおなみ線にSL???」と思いましたけど、その区
間なら元々は西臨港線でしたし、今は電気機関車が貨物列車を引いて走っていますから
いいかも。
名古屋貨物ターミナル行きはSLが先頭ですが、転車台がないので後部にDLを連結して
いて帰りはそのDLが先頭になるそうです。
尚、他からの情報ではJR西日本から機関車、客車、機関士を借りるとのことです。

計画倒れに終わるのではないかと思っていましたが、市も市長も議会も苦戦しているあお
なみ線の活性化を色々と考えているようです。他にも、大須にある御当地アイドルグループ
(OS☆U/全国区になってしまったSKE48以外にもあるんですよ)のイベント電車も
走らせるそうです。応募数の多さに気を良くした河村市長は鉄道の聖地にしたいなんて言っ
てますけどね。あおなみ線の終点の金城ふ頭にはJRリニア鉄道館が昨年春に開設されまし
たし、新たに「レゴランド」の設置が決定したそうですから鉄道ファンとしては是非業績好転し
てもらいたいですね。これがうまくいかないと今後の市内鉄路の新設は夢物語に終わりそう
ですから。

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