Nikola Tesla〜哲学と目指したことA

さて、Paperの本論をかいつまんで紹介しておきます。
"Increasing human energy"のためには何をなすべきか、そして、具体的に科学的になす
べきこと、Teslaが取り組んできていることなどが述べられています。

Teslaは"Increasing human energy"の方法として次の三つがあると述べています。
   THE THREE WAYS OF INCREASING HUMAN ENERGY

Teslaは、この図に関して

 "Such an antagonistic force is present in every movement and must be
 taken into consideration. The difference between these two forces is
 the effective force which imparts a velocity V to the mass M in the
 direction of the arrow on the line representing the force f.
 In accordance with the preceding, the human energy will then be
 given by the productMV^2=MV×V, in which M is the total mass of man
 in the ordinary interpretation of the term "mass," and V is a certain
 hypothetical velocity, which, in the present state of science, we are
 unable exactly to define and determine. To increase the human energy
 is, therefore, equivalent to increasing this product, and there are,
 as will readily be seen,
"
 「このような相反する力は全ての運動で現れ、考慮に入れなければなら
 ない。これら二つの力の相違は、力fを表す線上の矢印方向にて、massM
 に速度Vを分け与える有効な力である。上記にしたがって、人間エネル
 ギーは、そのとき、積MV^2=MV×Vにより与えられる、ここで、Mは、”mass”
 うとい語彙の通常の解釈である人間の全質量、Vは、現在の科学状況
 においては、我々が正確に定義し決定できないある仮説的速度である。
 人間エネルギーhuman energyを増大することは、それゆえ、この積を
 増大することと等価である。


と述べ、この結果を獲得するのを可能にするのは上の図の三つの方法のみであると主張
しています。以下それぞれについて考察しています。

(1)人間の質量(mass)を増やすこと

三つの内の一番上の方法に関する物です。「大気中の窒素の燃焼」という副題がついて
います。

彼は、人間質量を増大するには、

 @それを増大させる傾向にあるこれらの力と条件の助成と維持
 A減らす傾向にあるものへの対抗と阻害


の二つの方法があると述べています。尚、ここで述べているAは次の(2)とは異なります。

@について、Teslaは簡単な計算例を示した上で、

 "the most important result to be attained is the education, or the
 increase of the "velocity," of the mass newly added.
"
 「得られる最も重要な結果は教育であることないしは新たに加えられ
 た質量の「速度」の時代である


と述べています。抽象的でわかりにくのですが、更に

 " any addition of mass of "smaller velocity," beyond that indispensable
 amount required by the law expressed in the proverb, "Mens sana
 in corpore sano," should be strenuously opposed.
"
 「より小さい速度の質量の任意の付加は、『健全な精神は健全な体
 に宿る』のことわざで表現される法則により必要とされる必須の量
 にまして、厳しく阻害せられるべきである。


と[注:"Mens sana in corpore sano":ラテン語の諺]。
「教育」による「健全な精神」の養成、そして、それを支え続けるための「健全な体」を持つ
humanが"increasing mass"として必要であると説いているようです。

Aについては、

 " it scarcely need be stated that everything that is against the teachings
 of religion and the laws of hygiene is tending to decrease the mass.
"
 「宗教の教えと衛生学の法則に抗するものはそのmassを減少する傾向に
 あることは述べるまでもないことである


と述べていますが、「多くの生命を短くする要因であるウイスキー、ワイン、茶コーヒー、タ
バコ等多くの世代を通して従われて来た習慣の抑圧の厳格な尺度は称賛に値するとは思
わない。これらに対しては節制よりも適度を説くほうがより賢い。」とし、彼が留意すべしと
しているのは、「飲料水」であり、「刺激物の接種で死ぬ人より、『混じり物のある水』を
飲んで死ぬ人の方が多い」と主張しています。彼のいう『混じり物の水』というのは『病原
菌を含んだ水』を差していて、「殺菌」こそが重要課題だとして、そこに科学の出番があり、
その適切な方法として、彼は

 "By improved electrical appliances we are now enabled to produce
 ozone cheaply and in large amounts, and this ideal disinfectant
 seems to offer a happy solution of the important question.
"
 「改良された電気応用により、我々は今や、安価で大量にオゾン
 を生成することが可能であり、この理想的な殺菌は重要な課題の
 幸せな解を提供しているようである。


という高周波高電圧を目指した電気科学者としての自負心を示されています。

さて、paperの順通りに従っていますので話が前後しますが、次に@について、「食糧問題」
を取り上げているのですが、TeslaのPhilosophyよく表していて(私自身もかなり賛同しつつ
あるのですが)彼は

 "I do not mean here absolute want of food, but want of healthful
 nutriment.
"
 「私はここで、絶対的食糧難ののことを意味しているのではなく、
 健康的な栄養素不足を意味している


とし、

 よい豊富な食料を提供する方法は今日の最も重要な課題である

と述べています。そして彼が主張している最適な食料は、「野菜」であるとしています。

 "I think, therefore, that vegetarianism is a commendable departure
 from the established barbarous habit.
"
 「それゆえ、私は、菜食は確立した野蛮な習慣からの賞賛すべき
 離脱だと考える。


とまで主張されています(前述で私自身もかなり賛同しつつあると書いたのはこのことです。
これについては、何か常識的になされている栄養学に関して疑念を感じて色々と調べてい
るところで、いつか一文を掲げるかもしれません)。

そして、「野菜」をよく育てるには、土壌改良が必要であり、それにはよい肥料が必要だとし、
それは「窒素肥料」であると述べています。
で、「窒素」といえば、大気中の大半は窒素であることはよく知られていますよね。これを
酸化させて窒素化合物として使えるなら、材料費として窒素はタダですから窒素肥料は工
業的に非常に安価に大量生産できるはずです。ところが、「窒素」はよく知られているよう
に「不活性元素」。残念ながらそんな簡単にはならない・・・。Teslaは

 "Long ago this idea took a powerful hold on the imagination of
 scientific men, but an efficient means for accomplishing this
 result could not be devised. The problem was rendered extremely
 difficult by the extraordinary inertness of the nitrogen, which
 refuses to combine even with oxygen.
"
 「ずっと以前は、このideaは科学者達の想像力にしっかりと定着して
 いたが、その効率性が、この結果を成し遂げることが立案できない
 ことを意味している。その問題は、酸素とさえ結合を拒絶する窒素
 の途方もない不活性性により非常に困難であることが示された。


と現状を述べながらも、高周波高電圧電気科学者としてのTeslaは

 "But here electricity comes to our aid:
  the dormant affinities of the element are awakened by an electric
 current of the proper quality. As a lump of coal which has been
 in contact with oxygen for centuries without burning will combine
 with it when once ignited, so nitrogen, excited by electricity, will
 burn.
"
 「しかし、ここで、電気は我々の目的にかなう:
 要素の休眠状態の親和性は適切な量の電流によってめざめる。
 何世紀もの間、燃えないで酸素と接してきた塊炭が一旦発火す
 るとそれと結びつくように、電気により励起された窒素も燃える
 だろう。


と考えて研究を続けていたそうです(このPaper時点では研究途上)。

研究の成果が具体的に書かれています。

(a)放電の化学的作用は超高周波または振動率の電流を用いることに
  より、大幅に増大することがわかった
(b)その波形とその他の特徴的な様相の電流インパルスの電圧の効果
  が研究されてきた

(未完成で研究途上である)

(2)人間のmassの妨害を減ずる方法

三つの内の中央の方法に関する物です。遠隔自動装置技術という副題がついています。
ここでも「現実を考慮した」彼のphilosophyが現れています。
これに関して冒頭で、

 "the force which retards the onward movement of man is partly
 frictional and partly negative.
"
 「人間が前に動くのを妨害する力は、部分的には摩擦であり、部分
 的にはnegatve(否定)である


その具体的説明として、「私は、例えば、純粋ないくつかの摩擦力、または方向性を欠い
た抵抗として、無知(ignorance)・愚行(stupidly)・愚か(imbecility)と名付けるかもし
れない。一方、空想、精神異常、自滅的傾向、宗教狂信などは全て、特定の方向に働く
ネガティブな性格を持つ全ての力である。」と述べて"friction"と"negative"の区別をして
います。そして、この二つに打ち勝つには根本的に別の方法をとらなければならないと
述べています。そして、

 "A negative force always implies some quality, not infrequently a
 high one, though badly directed, which it is possible to turn to good
 advantage; but a directionless, frictional force involves unavoidable
 loss.
"
 「ネガティブな力は、悪い方向に向かうけれども、往々にしてよいアド
 バンテージに転換が可能な高度な品質であるところのいつも、ある
 本質を暗示している:しかし、方向のない摩擦力は役に立たない損
 失を含んでいる。


と喝破しています。

そして、

 " Evidently, then, the first and general answer to the above question
 is: turn all negative force in the right direction and reduce all frictional
 force.
"
 「明らかに、そのとき、上の第一の一般的な答えは全てのネガティブな力
 を正しい方向に向かわせ、全ての摩擦力を減じることである。


と結論付けています。

で、問題にしているのは「摩擦(friction)」の方であり、

 全ての摩擦力について、人間の動きを妨害するもの
 の大部分は無知であることは疑いもない


と主張しています(私もこれには賛同します)。これに付随して

 Not without reason said that man of wisdom, Buddha: "Ignorance
 is the greatest evil in the world."

  賢人仏陀が、「無知は世界中で最大の悪である
  と言ったのは無理もない


仏陀の言葉を引用して述べています。Teslaはその「無知」が齎した最大の「摩擦力」とし
て、『組織化された戦争』と主張しています。ただ、Teslaは、「大きな破壊力の銃の完成
が戦争を止めるであろうということが論議されて来た」がこれは間違いであるとした上で
(20世紀以降の現実世界を見ればその通りですよね)、

 "Nor do I believe that warfare can ever be arrested by any scientific
 or ideal development, so long as similar conditions to those prevailing
 now exist, because war has itself become a science, and because war
 involves some of the most sacred sentiments of which man is capable.
 In fact, it is doubtful whether men who would not be ready to fight
 for a high principle would be good for anything at all.
"
 「戦争は科学的又は理想的発展によってやめさせることができるとは私
 は信じない、それらが支配する同じ条件が今存在する限りにおいて。
 なぜなら、戦争はそれ自体科学になってきたこと、そして、戦争は人が
 許容できる最も神聖な感情のいくつかを含んでいるから。


リアリストだったんですね。これは1900年に発行された論文ですけど、実際にはその後の
世界歴史を見ればTeslaの言う通りです。彼は更に、

 "In fact, it is doubtful whether men who would not be readyto
 fight for a high principle would be good for anything at all.
  It is not the mind which makes man, nor is it the body; it is
 mind and body. Our virtues and our failings are inseparable,
 like force and matter. When they separate, man is no more.
"
 「実際、高度な原理のために戦う準備をしていない人間が、全
 ての事に対してよいのかどうか疑わしい。それは人を作る心で
 もなく、体でもない:それは身心である。我々の徳と失敗は力
 と物のようには分離できない。それが分離されるとき、もう人
 ではない。


とまで述べています。

paperでは長々とその後も述べられているのですが、省略してTeslaの考えた結論に飛び
ます。
Teslaは、「流血は野蛮な感情を維持続けるであろう。この獰猛な精神を休ませるために
は、過激な出発がなされるべきであり、完全な新規の原理−戦争に置いて前には存在し
なかった何か、強引に不可避に戦闘を流血なしの、単なるスペクタクル・遊戯・コンテスト
に転換させる原理が導入されるべきである。」と述べ、更に、「この結果を齎すため、人間
は無しで済ませなければならない:機械は機械と戦うべきである。」と述べ、「あたかも、
レバー、スクリュー、輪、クラッチそれ以上はない単に機械的工夫で、それが人間の一部
であるかのように動くことができるマシン、しかし、あたかも知力、経験、判断力、心をもっ
ているかのように義務を果たすことを可能にする高度な原理を具現化した構成のマシン
を製造することである。」と述べています。そして、

 "This conclusion is the result of my thoughts and observations
 which have extended through virtually my whole life, and I shall
 now briefly describe how I came to accomplish that which at first
 seemed an unrealizable dream.
"
 「この結論は、事実上、私の全人生を通して拡大してきた私の思考
 と観察の結果であり、私は今、最初に非実現的な夢に見えるような
 ことにどうのようにして達することができたかを簡単に述べよう。


Paperではこの後に、前述の少年の頃幻覚に苦しみ、再発したときどうしたかの話が出て
きています。そして、彼がその特異体質を克服して発明の才に転じたことによる一つの
成果が示されています。

"Telautomatics"(Wikipedia見ても英英辞典にもないのでTeslaの造語かもしれません。
まるっきり間違っているかもしれませんが「遠隔自動機械」とでもいうものですかねぇ)
だそうでボートでそれを実現したそうです。
写真がありました。バッテリー駆動のもののようです。制御については

 "I attained the result aimed at by means of an electric circuit the
 boat, and adjusted, or "tuned, placed within " exactly to electrical
 vibrations of the proper kind transmitted to it from a distant
 "electrical oscillator.
"
 「私は、ボート内に置かれ、離れた「電気発振器」からそれに伝えら
 れた適当な種類の電気振動に正確に合わせられたまたは「チュー
 ニングされた」電気回路によって狙った結果を得た。


という説明があります。前段に考えが書かれていますが省略します。な〜んだと言うかも
しれませんが、Maxwellの提示した「電磁波」は1890年代になって初めてHertzにより実験
的に観測されたばかりということを考えてみるならそれから10年もたたないときですの
ですごいことですよね。


   THE FIRST PRACTICAL TELAUTOMATON made by Tesla


ちなみに、これに関して、

 "Although I evolved this invention many years ago and explained it
 to my visitors very frequently in my laboratory demonstrations, it
 was not until much later, long after I had perfected it, that it
  became known, when, naturally enough, it gave rise to much
 discussion and to sensational reports. But the true significance
 of this new art was not grasped by the majority, nor was the great
 force of the underlying principle recognized.
  As nearly as I could judge from the numerous comments which
  appeared, the results I had obtained were considered as
  entirely impossible.
"
 「私は、この発明を何年も前に考案しそれを私の客に、私の研究室
 デモでしばしば説明したけれども、私がそれをなした後、、自然に十
 分に、多くの議論とセンセーショナルな報告を起こすときにそれが知
 られ始めたのはずっと後になってからであった。しかし、この技術の
 真の意義は大多数には把握されなかったし、原理の実現を遂行す
 る大きな力ではなかった。私が現れた数々のコメントから判断で来た
 限りにおいて、私が得た結果は完全に不可能なものと考えられた。
"

と嘆き節が書かれています。いつの時代も、人間は常識に囚われてしまって、見たものでさ
え信じようとしない生き物なんですねぇ・・・
(続く)
 ('16/9)

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