「量子」について(3)

私が最近よく参考にさせていただいている 『EMANの物理学』というサイ
トがあります。教科書などでは説明を「はしょってしまっていて」実は、そ
れゆえに物理を学ぼうとする人に混乱や誤解を招いてしまっているので
はないかと思うようなことについて結構深くつっこんでの解説がされてい
るので、「正統派科学」についてきちんと奥まで知ることができ、私には
大変ありがたいサイトで重宝させていただいております。

ここの『量子力学』というコーナーに『粒子性の正体』というページがあ
ります。で、読んでいたら、最初の方ではいかにも「粒子性」を否定する
かのような説明がなされていますが、途中で「ここまでの話にすっかり
納得してしまった人はこれからの生活でも気をつけた方がいい。」と読
者をずっこけさせるような記述があり、最後の方で、

 「波動関数が空間全体に広がっていようと、一点に集中していよう
 と、 どんな形であっても、それは 1 粒子であることに変わりないの
 だ。
 物理学者が考える粒子とは、大きさの無い一点のことではない。
 またどこにあろうと関係ない。そんなことにはこだわってはいない。


 数えることのできる存在を粒子と呼んでいるだけ。

と書かれています。

このような説明はかつて目にしたことがないので驚きました。
確かにこのサイト主さんは専門で物理学を学ばれた方のようですが、こ
れは実際の物理学者さん共通の考え方なのでしょうか?大変失礼なが
ら、サイト主さんとせいぜい接触された学者さんの範囲での話ではない
かなぁと思うのですが・・・。すなわち、「粒子」を「もの」として捉えている
のは素人さんだけではないのではと思うのです。

はからずしもそこに書いてありますように、多くの科学者は「量子」と云わ
ず「粒子」と言うそうです。Einsteinは「光は粒子のように振る舞う」と言っ
ただけであり、「光子」というのは後世の学者がそう呼んでいるだけとあり
ましたけど、その後世の学者はわざわざ「光子」と名付けたということは
「もの」としての「粒子」を想定していたのではないかと思うのです。
(2)で示しましたように、わざわざ「電子は波だ」と言明されている先生も
いらっしゃるんです。更には、ボームはド・ブロイ同様、パイロット波説に
固執していたようですし。
また、ハイゼンベルグのマトリックス力学は「粒子」に拘って導出されたも
ので、シュレディンガー方程式よりこちらを重視される方もいます。
ですから、この方の上の説明自体はなるほどとは思えますけど、大変失
礼ながら、「本当に物理学者は皆が皆そう考えているの?」と疑問に感
じてしまうのですが・・・。

量子力学には『波束』という概念が出てきます。「幅も長さも狭い範囲に
限られた波」です。この概念は理解できます。理論的に見ると、物質波の
波束は動きながら次第に形を変えて行くものだそうです。
量子力学は「確率」で示したものということになっていますので、期待値
などというものが出て来ていて、それを用いての「エーレフェストの定理
なるものがあります。位置の期待値を<>とすると

となり、これを用いて数式展開をしていくと、

が導出されます。ここで、Ψ(r,t)はシュレディンガー方程式の波動関数で
あり、(1)で触れたように

は規格化された絶対確率です。「エーレフェストの定理」というのはこの
式よりの考察から導かれた

 粒子の位置決定に相当程度の誤差を許せば、粒子の運動はそ
 の誤差程度の広がりを持った確率波の波束で表され、その波束
 の重心の運動は粒子が古典力学に従うとした場合の運動に一致
 する

 (裳華房『量子力学(T)』(基礎物理学選書)より)

というものです。確かに、この説明をよくよく考えれば、EMANさんの御主
張の通りなのかもしれませんね。ただ、市井の一般市民が誤解するの
は啓蒙書の類ではいかにも「もの」としての「粒子」を想定するかのよう
な説明になっているからではないでしょうか?で、それらの本の著者は
ちゃんとわかっている上で、「素人にわかりやすいように」書いているの
か、それとも、やはり、本当に「もの」としての「粒子」と思っているのか著
者のレベルが不明なのでそこらへんがわからないんです。
ネット見ていますと、よく「啓蒙書の類には間違いが多い」という指摘を
目にしていますので・・・。

ところで、この定義をよく読んだとき、気になりませんか?
「確率波」という「抽象的なもの」の重心って何?という疑問です。本に
はよく普通の本にもあるところの「雲状の球体」が「波束」だとして軌道
上に描かれていますけど・・・
私的には、「確率波」だとか「可能性の波」などという「抽象的な」概念
での説明を「それが自然現象にマッチしているからそう思え」と言われ
てもなぁ・・・という気持ちです。「気持ちが悪い」という意味では無く、
「物理学者さん、そんなんでお茶を濁さずもっと考えてよ」という気持ち
ですが・・・。つじつまわせしよと言っているのではないのですけど。

この項、竜頭蛇尾でちょっと中途半端になってしまいました(^_^;)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(追記)
この項、不勉強のまま書いてしまいました。まだまだ私の不勉強での勘
違いがあるかもしれませんが、上記教科書を読み進める中で、
 @ブラウン管などの工業応用レベルの許容誤差範囲なら、電子を質点
  での古典力学の範囲で求めても特に問題なく使える
  (上記のエーレンフェストの定理がそれを示している)
 A波動性が問題になってくるのは、原子内などに束縛された電子状態、
  トンネル効果、二重スリット実験結果など
ということがわかりました。

しかしながら、私は、やっぱり、
 本質は量子力学⇒マクロの近似が古典力学
と考えたいのですが・・・

ところで、調べている中でとても気になる記述を目にしました。
すでに別項で綿々と書き散らしていますが、私はこの4年間、相対性理論
には相当な疑問を抱いてしまっています。しかるに、量子力学に関して調
べている中で、「非相対的」とか「相対性理論」とかローレンツ変換まで出
てきてしまい、混乱と反発を覚えてしまって困ってます(^_^;)。

上記教科書でも、「非相対論的速度範囲」での説明というような断り書き
がありました。また、(1)のA式で示した運動量と波長の関係式を調べた
ら、ネット上では皆、ローレンツ変換使って説明してます。
かなり昔に学んでずっと離れてしまって失念してしまってはいますが、私
が40年以上前に工学部で学んだ「量子力学」ではそういう相対性理論に
関した説明など教科書にもなかったし習った記憶もなくて困惑してます。

また、「場の量子論」は「相対性理論」と相性がよいような言明をされてい
るのを多々見るのですが、相対性理論反対論者の方の主張で、逆に「相
対性理論」が足を引っ張っている(発散問題)というものもあり、なんだか
なぁという気もしています。

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