『砂の器』のドラマ(1977年フジ系放映)について(’20/1)
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ネタバレ記事ですので、ご留意くださいm(__)m
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松本清張作・『砂の器』については原作ファンである私は、本コーナーでドラマ化されたものへの批判を
したためたりしていましたが今回、AXNミステリーで早い時期にドラマ化された仲代達矢主演のドラマが
一括で放映され見てみました。
Wikipediaによれば、これは1977年の作品だったとか。実は、かなり以前にリアルタムだったか再放送を
見たのかは忘れたのですが、ちらっとNHKで見た記憶があり、その時は、仲代達矢さん演じる主人公(
ちゃんと主役扱いでした)の警視庁捜査一課の今西栄太郎刑事の性格・生活が原作とあまりにも変え
てあったためきちんと見る気が起きなくてそのままになっていて悪いイメージを抱いたままだったでした。
しかしながら、それは私の偏見だったことを知りました。確かに大きく設定は変えられていました。
・時期を原作より大幅に後年に設定
・今西栄太郎は、巨人軍の勝利だけに興味を示す、アパートに独り住まいの男で、いつも咥え煙草。
不注意で息子を事故死させてしまい、二人目も流産した奥さんとは離婚している
それ以後かつての敏腕刑事は腑抜けみたいになった変わり者と言われるように。
−原作では、今西はベテランの名刑事(巡査部長)。借家でよくできた奥さんと10歳の一人息子
の三人暮らし
・原作にない−しかしながら事件とは無関係な−今西に恋心を抱いているヒロイン登場。
離婚した今西の奥さんの妹という設定。真野響子さんが演じていました。
−原作では川口で小さなアパートを経営していて鋳物工場に勤める夫のいる既婚者の今西自身
の妹が登場している
・相棒となる西鎌田署の吉村刑事(配役は山本亘さん)とは最初の事件捜査で知り合う形でその
ときはその変人ぶりに驚く。
−原作では、既に今西とは顔見知りで、今西家にも訪れていて奥さんも顔見知り
・本浦千代吉の病気を『精神病』と変え、それを苦にした妻は息子・秀夫を連れて飛び降り自殺
するも秀夫は奇跡的に助かった
−本浦千代吉は『ハンセン病』。妻はそれで離婚
・作曲家の和賀英良(配役は田村正和さん)とフィアンセの大臣の娘でピアニストの田所佐知
子(配役は小川知子さん)とは留学中に向こうで知り合った
−原作の田所佐知子は新進の彫刻家
・和賀英良、その隠れた愛人・成瀬リエ(配役は神崎愛さん)、評論家・関川重雄(配役は中尾
彬さん)は京都の高校時代の同級生。成瀬リエには京都に母親がいる
−原作ではそういう関係は三人にはない。和賀英良と関川重雄はヌーボークラブでの交友関係。
和賀英良だけは京都の高校中退。成瀬リエの母親という存在は出てこない
・今西は吉村と秋田県の羽後亀田に出張するが、帰りに今西のおごりできりたんぽ鍋を食べてい
る時店で成瀬リエと宮田邦郎のカップルを目撃
−原作ではそんな出会いはない。今西・吉村が駅で目撃したのはヌーボークラブの和賀英良、
関川重雄らであった
・紙吹雪の女については成瀬リエの母親が二人で信州旅行した帰りに成瀬リエがなしたことで
あることを何のためにしたのか知らず(破いた恋文だろうと思っていた)に刑事の訊問でばら
してしまった
−原作では、たまたま今西が帰りに買った週刊誌のエッセイから思い付き、著者→著者に話
をした新聞文芸部記者から事情聴取して知ったこと。その女性はそのときはわからずじま
い。
・中央線沿線でのばらまかれた布片を暑い盛りに今西・吉村の二人で探した
−原作では、今西一人でなした仕事
・成瀬リエは自殺を図ったが(和賀英良が婚約発表したため)未遂に終わり、母親ともども行方
不明だったが、母親が京都の自宅に戻り、結局、成瀬リエは今西らの訊問で白状した。
−原作では成瀬リエ子は自殺し、たまたま今西の自宅近くのアパートに住んでいたことがそ
れでわかった
・関川重雄の愛人・三浦恵美子(配役は奈美悦子さん)は今西の元妻の妹のアパートの隣室に
住んでいた
−原作では関川の指示で引っ越しで今西の妹の経営する川口のアパートに引っ越ししてきて
今西にその存在を知られるところとなった
・ニュース映画の中に和賀英良を発見し、被害者・三木謙一が伊勢から急遽東京に向かった理
由を、その映画を見て今西に完全にわかった。
−原作では映画ではなく、伊勢の映画館にそのとき掲げられていた写真を見てとしている
などです。
いずれにしろ、主人公が今西栄太郎刑事となっていたこと、関川重雄・三浦恵美子の関係も描かれてい
たこともあり、自分的には満足出来ました。
勿論、誰からも好かれ誰ひとり恨んだり悪口をいう人がいなかった人が被害者になってしまったこと、そ
の事情は同様で、犯行の動機は悲しいものでした−このドラマの中では今西が発想を変えて、お世話に
なったことを忘れてもらいたい人間というのはいると・・・思って調べ直したという風にしていました。まさに
そういう事件だったわけですね。
ま、その前の1974年に発表された野村芳太郎監督の松竹映画の反響が大きすぎ−ハンセン病を扱って
いたため−その後、ともすると主人公の今西栄太郎がこつこつと犯人を追いつめて行くということが軽く
扱われてしまった−犯人・和賀英良が主人公のドラマみたいな扱いになってしまった−ということで原作
ファンの私としてはいらいらしていたのですが、このドラマはそういう風には作られていなかったので善
かったです。
('20/1)
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