京極堂シリーズ「塗仏の宴」(ネタバレ)(’18/8)


-----------------------------------------------------------------
 完全ネタバレですので、ご留意くださいm(__)m
-----------------------------------------------------------------


塗仏の宴」は「宴の支度」と「宴の始末」の2巻からなっていて、講談社ノベルズ・京
極夏彦作品では「絡新婦の理」に続く第六巻、第七巻となっています。私はいつこれらを購入したか
まるで記憶がありませんが、発行年月日は、「宴の支度」の方は1998年3月30日第一刷、「宴の
始末」の方は1998年10月29日第三刷とありました。宴の支度」の方に載せられている京極夏彦
氏の写真では、若い感じで手には黒手袋をはめられています。共に、600ページ以上で上下二段
組みの分厚い長編小説ですが、この順で両方読まないとこの物語は完結しません。
風呂敷を広げに広げ、最後には全て畳み込んだ−そんな小説です。近年、広げた風呂敷を畳まず
放置するというのが多々見られますので、その点ではよかったと思います。

前に塗仏の宴 宴の始末を読んでという簡単な一文をアップしましたが、支度と始末の両方通して
完全ネタバレでもう少し詳しく触れたいと思います。

とにかくこの物語にはあまりにも沢山の人物が登場し、例によって、めまぐるしく映画のシーン切り替
えの如く畳み込むようにそれら各人々に関わるエピソードが続きますので、普通に読んでいるとわけ
わかめというか混迷してしまう−恥ずかしながら私がそうでしたが、ネット見ていると似たような方もお
られるようで、メモしながら読んだという方たちも見られます−そんな小説世界です。

そういう感想はあまり見受けられないので、これは私だけの思いかもしれませんが、私にとってはこ
の作品は、意図的に人間の精神世界をその人間が気が付かないまま弄んだ恐るべき物語という位
置づけで、一種の恐怖を感じさせたものです。そこには催眠術による記憶のすり替えと後催眠により
植え付けられたキーワードが無意識の行動を起こしてしまうという怖さがてんこ盛りであるゆえです。
私は催眠術については不案内ですが、現実性を感じてしまってそこに怖さを感じたのでした。

最初からネタバレになってしまいますが、この物語は、大きな恐るべき存在である郷土史家・堂島
静軒
を名乗る堂島大佐が戦争中に準備し、終戦とともに本格的に、但し密かに進めてきた悍ま
しい実験−ゲーム−と、その存在を気が付くとしたら唯一の人物である京極堂=中禅寺
秋彦
がまだ気が付かないままそれに不用意に触れてしまったことにより、中禅寺のそれ以上の
関与の阻止と中禅寺に対する嫌がらせがゲームとは別の所でなされ、凡てを悟った中禅寺自身は
自分の動きが仲間達全員への更なる被害の拡大を恐れて語らず、我慢していたのですが、結局は
そのゲームの一つの綻びと探偵・榎木津礼二郎の唆しもあって、不本意ながら覚悟の上で
立ち上がり、その「ゲーム」の全貌と中禅寺の動き封じと嫌がらせでなされた事件の事実を知らしめ
てそのゲームの完遂を阻止したというお話です。

タイトルにもなっているテーマモチーフの妖怪『塗仏』については「宴の始末」における中禅寺と妖
怪研究家・多々良勝五郎との会話で触れられていますが、多々良は「よくわからない」、
中禅寺も「判り難い」妖怪と。塗仏は、中禅寺の座右の書である石燕作『画図百鬼夜行』の後半に出
て来る

 見越(みこし)しょうけらひょうすべわいらおとろし塗仏、濡女、ぬらりひょん、元興寺(がごぜ)
 ()うに、青坊主、赤舌、ぬっぺっぽう、牛鬼、うわん

 (黄色表示のものは、「宴の支度」の各章のタイトル名になっています)

の一つで、中禅寺は、これらは渡来人−異文化という側面から彼らを捉えて妖怪化されたもの、
その背後には異国の神−仏教ではない信仰が見え隠れしている
とし、塗仏は揚子江生まれ−
蜀の国のものと推測しています。そして中禅寺の主張である、「解体と再構築」の象徴として解り難
い塗仏をタイトルに使ったのではないかなというのが理解力に乏しい私の推測です。


これは私だけの思いかもしれませんが、面白く読んだのですけど2点鬱憤が残っています。

 @完全なハッピーエンドではなかった−見逃してはならない巨悪のラスボスに手が出
  せなかった
 A理不尽な目に遭って苦しんだ幻想小説家・関口巽関口雪絵夫妻に対する
  事件後のフォローが示されていないこと

以下、宴の支度、宴の始末の区別及び文章の順序は無視してがらがらぽんで再構築しています
のでご了承のの程m(__)m


事の発端は、昭和10年、当時の内務省高級官僚だった山辺唯継不老不死の薬を探し求
める極秘プロジェクトを発足させたことにありました。ただ、この山辺という人は殺人・暴力というの
を極端に嫌う人だったゆえに、持って来いの人材だった人物が協力をしたのでした。やがて、山辺
氏は失脚し、最後は孤独の中で自分のなしたことを詫びつつ亡くなったのでしたが。

そこで、中禅寺秋彦の過去です。関口らは中禅寺秋彦は徴集されなかったものと思っていたのです
が「魍魎の匣」の中で関口らに、そしてこの「宴の始末」の中で青木文造刑事らに明らかにした
ように、中禅寺は内地配属となり、その配属先は陸軍科学研究所の中の秘匿されていた12研。当
時、中禅寺は「魍魎の匣」で出て来る現・美馬坂近代医学研究所(大きな箱館)の2階の部屋が宛が
われていて、研究員は互いに顔を知らない配慮がされていましたが、美馬坂幸四郎とだけは面識が
ありました。中禅寺は大団円となる場所に行く道すがら青木刑事に、重大な秘密、そこでなされてい
た研究に関して次のように明かしました。

 「先ず命にかかわること、そして精神に関すること

で、中禅寺は嫌々ながら洗脳実験をさせられていて、建前上は属国民の神道への強制改宗とされ
たが、実際には命にかかわること−生きるということを研究していた美馬坂の研究を補完する形で
企画され、そこでの研究テーマは、

 記憶とは何か。意識とは何か。我々は何によって我々足るのか−

そして、

 −視るとはどう云うことか。聴くとはどう云うことか。我々はどのようにして
 世界を識るのか−これは美馬坂の何故見えるのか何故聞こえるのか何
 故考えられるのかという美馬坂の研究と対をなすもの


そこでは、他の造兵廠と異なり、殺傷能力を持つ兵器開発ではなく、敵を殺さずに済ます・・・・・・・・・研究がな
されていた−戦意喪失も催眠誘導も、凡ては殺し合うことを忌避するため・・・・・・・・・・・・・ため考え出されたもの−。
「殺すのも殺されるのも嫌な連中」が集められ、当然の結果として研究の執着点は二極化。

 命−不老不死。
 精神(意識−否、記憶)−記憶操作


この研究は参謀本部も詳細を知らず、中禅寺が配属される前からある男が中心になって隠密裏に
進められていたのでした。
そう、ある男とは、今は郷土史家・堂島静軒を名乗っている堂島大佐でした。戦時中、この12研を
牛耳っていました。当時、中禅寺はこの堂島大佐の懐刀と称せられていたようですが、中禅寺が世
界で最も嫌いな男と言っているように、終戦後は完全に離れたのでしたけれども、堂島大佐は中禅
寺の実力を知っていたのでした。
前述の山辺氏の極秘プロジェクトに協力したのは実にこの堂島大佐だったのです。愛国心など無
縁の堂島大佐は敗戦を予測していて、山辺失脚後、或る実験を準備し、終戦とともにそれ−悍まし
き、人間を弄ぶゲーム−を密かに本格的に開始し進めてきたのでした。悍ましい自分の楽しみ
で。

「宴の始末」の方の「私」はこの堂島大佐です。プロローグは彼のモノローグでしょう。彼の思想がそ
のまま現れています。抜粋しますと・・・

 我々の住む世界は元来傾いている
 だからほんの一寸押すだけで好い
 何も大きく歪める必要はないのだ
 傾いた方に、少しだけ押せば済む

 気づいた時にはもう遅い。止めることなど出来はしないのだ
 舞え歌え、愚かなる異形の世の民よ。
 浄土の到来を祝う宴はさぞや愉しいことだろう


そのことに気が付く人間がいたとしたらそれは中禅寺秋彦ただ一人でしたが、彼は戦時中にそうい
う計画がなされた準備が進められていたことをそれをした堂島から直接聞いていたのですけど、終
戦後忘れてしまっていましたし、気が付いたとしても隠遁生活を送っているという彼は介入するつ
もりなど毛頭ありませんでした。ゲームのルールとしてそれが露呈する恐れがある殺人というのは
なされないだろう−警察沙汰になるような目に見える犯罪はないだろうと考えていたからです。

前述の山辺の求めた不老不死の薬は徐福伝説に基づくものであり、徐福伝説が伝わっていた家族
を調べだし、そこに伝わる不老不死の薬を奪い取るというものでしたが、殺人・暴力を嫌う山辺の意
向を受けて堂島大佐がなしたことは、家族を内部崩壊させ、記憶をすっかりすり替えて非暴力的に
他の地に移してしまい、その後で家を家探しするというもので、紀州熊野の新宮の村上家とその
隣三軒両隣及び現在は韮山の一部になっている「へびと村(戸人村)」にあった旧家・
伯家
そしてへびと村民全員がそれをなされたのでした。村上家には何も残っていませんでした−
恐らく佐伯家にあるようなことを示唆した伝聞はあっただろう−が、佐伯家には代々引き継がれ守っ
て来た白沢図というのと不死の生き物と目された「くんぼう様」があったのでした。
堂島は家族の確執に乗じて崩壊させ記憶操作をして解体させた佐伯家の人々を、彼の悍ましき実
験−ゲーム−の駒にし、それぞれに真実を隠して誑かされた協力者を配し、多くの人を巻き込んで
進行してきたのでした。堂島自身の真意を知っているかどうか不明ですが、ゲーム全体を司どり、
そこでのゲームの障害役もなしていた主催者側実働隊は、薬売りに扮していた凄腕の催眠術師・
尾国誠一(元山辺機関員・雑賀誠一)と堂島から中禅寺の技を仕込まれ、照魔の術を使う霊感
少年・藍童子(彩賀笙)でした。尾国は一つの彼の人間的弱さから最後の最後にそれを見抜いた
藍童子の姦計によって命を落としてしまいますが。


しかしながら、中禅寺はそれに気が付かないまま、彼らのゲームに不用意に関与してしまい、堂島
大佐は中禅寺がゲームの妨げになる・・・それで、ゲームとは別の所で中禅寺の動きを封じる手立
てを開始した
のでした。で、関口巽が運悪く−彼等には飛んで火に居る夏の虫になってしまい−今
回事件の理不尽なその最大の被害者となり、また、中禅寺の妹・中禅寺敦子も標的になりま
した。


一挙にゲームの駒にされた人物と協力者を以下に示します。

成仙道指導者曹真人−佐伯甲兵衛[隠居祖父]
                                     −協力者刑部昭二

韓流気道会師範韓大人−佐伯癸之介[当主]
                                     −協力者;師範代岩井崇

漢方薬局・条三房長寿命講主催通玄(張果)−佐伯玄蔵[分家]
                                      −協力者宮田耀一

太斗風水塾羽田製鉄の経営コンサルタント南雲正陽−佐伯亥之介[嫡男]

徐福研究会主催東野鉄男−佐伯乙松[当主の弟]

みちの教え修身会会長磐田純陽−岩田壬兵衛[養子に行った甲兵衛の弟]

霊媒師華仙姑処女−佐伯布由[娘]協力者尾国誠一

成仙道の刑部は、元12研の研究員・刑部博士で、音を使う研究をしていたのを成仙道の布教に活
かしています。条山房の宮田も元12研の研究員・宮田博士で、薬を使う研究をしていて、薬を使っ
て後催眠をしています。韓流気道会の岩井は、堂島大佐の元部下・岩井中尉でした。アクシデント
があり、佐伯家の解体と村人の移動には尾国誠一、宮田耀一、岩井崇、刑部昭二が関与しています。
実は佐伯家に同居していたのは7人、上記には二人漏れています。亥之介と布由の母・癸之介
の妻
佐伯初音、玄蔵の息子で長じて使用人扱いされていた佐伯甚八です。すでに尾国
の工作によって内部崩壊の兆しがあり、それによる佐伯家の解体を目論んでいたその直前にこの
二人の間に事件が起き、それを利用して前述の佐伯家の人々は悍ましい形の記憶改竄をされてし
まいました。事件とは、家族が玄関先・屋外で口論で争っているとき、甚八が初音を強姦してしまい、
怒った初音が甚八の頭にを鉈を叩きつけて殺害するという殺人事件が起きてしまったことでした。
で、堂島の差し金でこれを利用し、佐伯家を解体しただけではなく、更に身重だった初音以外の岩
田を含む佐伯家の人に自分は家族及び村人全員を皆殺しにしたという偽の記憶を植え付けたので
した。

で、堂島が発動した実験と呼ぶにはあまりに悍ましいゲーム、それは

 己の15年間の人生は嘘なのだと誰が最初に気が付くか
 最初にこの部屋に辿り着いたものだけが真実を知る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ことが出来る・・・・・・


そう云うゲームだと大団円で中禅寺が皆に告げたのでした。

実は、刑部、宮田、岩井の三人も騙されて協力者になっていたのです。刑部、宮田は不老不死とさ
れる「くんぼう様」が勝利者となったら与えられる、そして岩井は、その地にゼロ戦などが大量に隠
されていてそれが与えられると。「くんぼう様」は既に昭和12年頃分析されていて粘菌であることが
解明済み−不老不死の英物などではなかった−、また、その地に岩井が欲しがったような武器など
隠されてはいませんでした。ああ、愚かなり。

尚、佐伯家以外のへびと村住民は自発的に−そう仕向けたのですが−村を離れ宮城県に移住し、
へびと村時代の記憶はきちんとありましたが、誰も皆一斉に村を離れたことには気づいていません
でした。家庭不和は佐伯家だけではなく尾国の工作でへびと村全体で起きたのでした。


一方、村上家の解体は堂島にとってたやすいものでした。
厳格な父が恐く、弟妹ばかりにかまかける母親が憎く、高慢な兄が嫌いで、口煩い縁者が疎ましく、
家業[農業]が苦手、田舎の気風が気性に合わなかった
ことからたびたび家出をし、その都度発見
されて連れ戻されていた次男の村上兵吉が15,6年前、父親との激しい口論の末家出し神社
の岩の陰に隠れていた時、不老不死の薬を捜し求める−薬屋さ・・・と言った黒い伊賀袴、三角形を二
つ重ねた籠目の紋のついた黒い着物を着た男−間違いなく堂島でしょう−が現れ、お前の家族は
居なくなる・・・・・かもしれぬ−良いのだな
と言って攫った−それで兵吉は本格的に行方不明になってし
まったのですが、このことで、父親から責められた長男の村上寛一は、父親の心が、長男とし
て口煩い父親に反抗せず粛々と従ってきた自分ではなく、常日頃父親に楯突き、挙げ句に家出失
踪してしまった弟兵吉にあったことを悟った寛一も初めて父親に楯突いて家を出てしまい、いとも簡
単に農家だった紀州熊野、新宮にあった村上家は解体されてしまったのでした。尚、残りの村上家
と向こう三軒両隣の住民は、記憶を改竄されて伊豆方面に移住、寛一・兵吉が家を出た村上家の
残り、叔父らは記憶を改竄されて住民がいなくなったへびと村に移住させられたのでした・・・


さて、前述のように中禅寺秋彦が知らずに関与してしまった発端は、昭和28年1月3日に関口夫妻
が京極堂に新年の挨拶に行ったとき、来ていた中禅寺の友人で川崎の方で小さな和書専門の古本
屋を営んでいる宮村香奈男−元教師、中禅寺は宮村先生・・ と呼んでいる、このとき関口は初
めて紹介されたのでした(いつも関口を虚仮にしていると心の中で怒らせているように、中禅寺は関
口を「知人」だと)−が来ていてこのとき宮村が中禅寺に持ち込んだ話でした。

宮村は「『ひょうすべ』はかっぱでしょうね」と聞き、中禅寺は「違う」とひとくさり蘊蓄を垂れたのでした
が、宮村のお世話になっている女性−中禅寺はすぐに見抜いたように、『小説創造』の前・編集者の
加藤麻美子女史=気鋭の歌人・喜多島薫童−が「ひょうすべ」を見たという話をしたのでした。
その話とは・・・

 ・昭和8年、子供の時祖父・加藤只二郎と歩いている時、頬にQBB絆創膏を貼っ
  た猿のような顔の男と出会った。その時、祖父は、あれは「ひょうすべ」。あれを見ると
  祟りがあるぞと−実際に次の日父親が脳溢血で他界した
 ・昨年生まれたばかりの子を亡くし、離婚になり雑誌記者も退職する目にあったが、その
  数日前全く同じいでたち(服装も頬のQBB絆創膏も)の男を見たことを思い出し、祖父
  に話したら、その昭和8年の話を強く否定されてしまった
 ・祖父は最近「みちの教え修身会」の熱心な信者であり、洗脳されて記憶を消されたの
  ではないか


関口が2か月後の3月に原稿を届けに奇譚舎に出向いたところ、そこで宮村に出会い加藤女史と初
対面で紹介を受け(中禅寺はとっくに知っていたのですが、鈍感な関口はそこで初めて彼女が気鋭
の歌人・喜多島薫童であることを知ったのでした)、宮村は加藤女史に関口を「心理学に造詣が深い」
(関口自身は齧った程度と自覚してはいましたが)と紹介し、「みちの教え修身会」やり方について加
藤女史に語らせたのでした。どうやら、既に中禅寺から宮村に入知恵がなされていたような感じです。
宮村は、只二郎は「みちの教え修身会」の磐田純陽会長の尋常小学校の同級生であること、加藤
女史が見たというひょうすべはその磐田純陽
であったことを明かし、関口には意味不明の質問、彼
女が全部記憶していたはずだった鉄道唱歌について二十五番より後・・・・・・・はどうしましたと聞くのでした。
加藤女史は祖父は「みちの教え修身会」に誑かされ洗脳され後催眠で記憶も消されてしまっている
と強く思い込んでいるのですが、薬の行商人−尾国誠一でした−と話をしたことを述べています。
その話の中で宮村は驚いたように「その人は−ひょうすべを知っていた・・・・・・・・・・・いたのですか」と問いかけ
ています。また、鈍感な関口はそれがどういうことかまで気が付きませんでしたが、このとき、外で癇
癪玉が破裂する音がし、その時加藤女史が手を前に出して固まってしまった
のを目にしました。関
口でさえ、加藤女史の話を聞くうちにどこかおかしいという気がしましたが、京極堂から「思い込み五
割」とくさせられているため、それ以上深くは考えませんでした・・・

で、4月下旬に、関口は中禅寺から呼び出されました。カストリ誌『実録犯罪』編集記者の鳥口守
が来ていて、鉄道唱歌を歌わされていしまた。時間を測っていたようです。そして、宮村が加藤
女史を連れてやってきました。そこで、中禅寺は解明した一連の加藤女史に起きた真相を暴露しま
した。

 ・只二郎が記憶を消されたのではなく、加藤女史が誤った記憶を植え付けられた
  (加藤女史が只二郎の財産目当てだとする「みちの教え修身会」犯行説は濡れ衣)。
 ・彼女が子供を死なせたのは、癇癪玉が聞こえると手が硬直してしまうよう後催眠をかけ
  られていたからである−再度、直接その場で確認しています
 ・それをやったのは尾国誠一である。理由は、加藤女史を霊媒師・華仙姑処女の信者に
  するため


加藤女史が狙われたのは祖父の加藤只二郎が所有する土地ゆえだったのでしょう。
事件の後、尾国の思惑通り、加藤女史はそれまで拒否していた華仙姑処女の信者になってしまい、
京極堂の話を最初はなかなか信じようとしませんでしたが、彼女が昭和8年に見たというひょうすべ
のしていたQB絆創膏は当時はまだ世の中にはなかったことを暴露するなどしたことによりやっと自
分が京極堂のいうように尾国誠一のわなにはまっていたことを悟りました。ちなみに尾国誠一は決
定的誤りをしていたのでした−九州出身の尾国が、一般的でなく九州でしか使われていない「ひょう
すべ」という言葉を使ったこと、もう一つ、動くのを渋る中禅寺を最後に動かしたのは、益田が、この
加藤女史の赤ちゃん死亡−実質殺人−事件を中禅寺に改めて告げて思い出させたことにありまし
た−そう、ゲームのルールに反する瑕疵を尾国は犯していたのです−これで中禅寺は「このゲー
ムは無効だ
」と。ただ、この時点では中禅寺はまだ堂島の悍ましき「ゲーム」が遂行されていること
には気が付いておらず、なぜ加藤女史が狙われたのかは把握できていませんでしたが、修身会と
華仙姑処女が同根を持っているのではないかとは思っていました。


しかしながら、この時点では中禅寺は気が付いてはいませんでしたが、このことは堂島を刺激してし
まったのでした。彼の遂行している悍ましき実験ゲームに支障をきたす恐れのある中禅寺の動きを
封じる手立てを開始したのでした。

堂島側にとってはチャンス、そして関口にとっては極めて不運な事態が起きたのでした。


一か月半後の5月下旬、関口宅に、小説だけでは食っていけないため関口が生活の糧として楚木
逸己名で寄稿しているカストリ紙「実録犯罪」の編集者鳥口守彦の上司・妹尾友典編集長が自
らやってきて(鳥口は、その時、悪質な霊媒者として華仙姑処女を追っていて多忙であったため)。
要件は

 「村を・・・・・・探してくれませんか

赤井の古い友人で室内装飾業者の光保公平が、古い友人でこの雑誌「実録犯罪」を発行して
いる赤井書房の赤井祿郎社長−関口は面識あり−に持ち込んだ依頼でした。

光保公平は元静岡県の警察官で、昭和12年春に「へびと・・・村」という18戸、人口50人くらいの小さ
な山村の駐在所勤務の辞令を受けて勤務。約1年の勤務の後、翌年昭和13年5月、日中戦争の
出征欠員で出征。光保は出征後12年間大陸を転々とし、昭和25年に帰国。で、昨年(昭和27年)
その村を訪れたら彼の記憶の中の村がなくなってしまっていた・・・
村の入り口にあった雑貨屋・三木屋は雑貨屋ではなくなり全然別の違う人が住んでいたが、もう
70年もそこに住んでいるという・・・。それで混乱した光安は偶々似たような場所・地形に来たのかと
中心部に向かって歩いたら道がそっくり。路肩の地蔵とか柿木が記憶通り。記憶にある家々がその
まま−ただ、記憶の中にある人とは別人が住んでいて昔からここに住んでいる等−。更に村の中心
に向かっていながら、景色が全然似ていない村外れみたいに。それで光安はもう間違っていたと確
信までしたのですが、もう長いこと誰も住んでいないような廃墟にはなっていたのですけど、記憶通
りの構えの大きな建屋の佐伯家があったのでした。
それで光安は警察で調べて貰ったら、戦禍で資料は焼失、警察関係者はほとんど死亡、警察法が
改正され記憶が残っていない・・・役所で調べても記録なし。で、一つの結論は、

 へびと村は光安の頭の中だけに存在する村だった

しかしながら、古い新聞記事を見つけました。それぞれ1回限りで続報はなしでしたが。

 ・全国紙記事(昭和13年7月1日付):[三島にて桐原記者発]静岡県の山村で大量殺戮か−
 ・地方紙記事(昭和13年6月30日付):[韮山発]村人全員が忽然と消えてしまった。中伊豆
  にあるH村。18戸51人。巡回砥師・津村辰蔵さんが気づいて届けた


関口は断り切れず、とりあえず詳しい話を聞くため、紹介されて光保に会いに南千住にある室内装
飾の光保装飾店を訪れました。光保は、すぐにはその話に入らず、「のっぺらぼう」の話を持ち出し
たのでした。そして「百鬼図」という絵巻の中にある「ぬっぺらぼう」とあるものを示しました。で、そ
の絵にはハーンの小説に出て来る狸が化けたという顔のないものとは異なり、手足らしい物のある
ぶよぶよとした肉の塊−巨大な顔に手足がついている感じ−でした。で、光保は「ぬっぺら」(のっぺ
らはつるつるしたという形容詞であり、「ぼう」は本来、ほう・・ではないかと考え、 で、「ほう・・とは何かが
積年の課題だった」と。ただ、一介の魚屋の倅だった光保には調べようがない−偶然にも、鍵は静
岡にあったと。
そもそもは、会津の光保に静岡県の沼津在住の国史を齧り古い本を所有している伯父(母の兄)か
らぶらぶらしているなら鍛えてやるから来いと云われ沼津に行った途端伯父は死亡。で、伯母から
形見分けで、前述の「百鬼図」−「鳥羽僧正真筆」とあるが京極堂はそういうものは嘘だと云ってい
たが)と古い本を何冊も貰ったが、読めないためその絵巻以外は売り払ってしまったのでした。
で、静岡に来て光保は警察官に奉職していて、昭和10年三島の駐在になっていたとき、本を売った
沼津の古本屋から、その中の一つ「一宵話」という江戸時代の随筆が読んでみたら面白かったと光
保に手紙をよこしたと、で、その本屋に行き古本屋の語る内容を聞いて、ある言葉に引っ掛かり、結
局その本を取り戻したと関口に示したのでした。その中にある「異人」という一節の中に、徳川家康
がいた駿府城にへんなもの・・・・・が現れ、それは形は小児の如くで肉人とも云うべくとあると−光保はこ
れは、前述の「ぬっぺらぼう」ではないかと−。で、更なる記述として、気持ちが悪いからと山の向こ
うに追い出してしまったが、ある男がやってきて、こりゃ惜しいことをした、その肉人を喰らえば百人
力になりと、そしてその男はこれは、「白沢図に出て来る(ほう)というものに違いない」とありました。
それで光保は探し求めていた「ふう」はこの(ほう)だと・・・しかし大学の先生に尋ねたところ、「白沢図」
などというものは現存していないと。ところが、

 へびと村の佐伯家に白沢図と(ほう)があった

と。
光安によれば、へびと村は戸人村−駿豆鉄道(現在の伊豆箱根鉄道駿豆線/三島〜修善寺)の原
木駅と韮山駅の中央辺りから山に登る道に入り毘沙門山を越えた辺りから道なき道を北上したとこ
ろにある−。で、彼の記憶では・・・

 道の入り口に三木屋という雑貨屋。その先に、小畠という馬を飼っている農家。小畠姓は
 後5軒。皆貧農。久能姓が6軒。八瀬姓が3軒。村の中央には佐伯家。
 佐伯家は、当主:癸之介、妻:初音、先代の隠居:甲兵衛、当主弟:乙松、跡取り息子:亥
 之介、娘:布由、分家の子で使用人のように使われている:甚八、山口に漢方医:佐伯玄
 蔵(甚八の父親)
 駐在(光保でした)は佐伯家の傍の空き小屋を利用


実はこの駐在はこのときだけの臨時のものでした・・・

ある時、新しい薬屋(尾国でした)が村を訪れ、そのとき「白沢図」が会話に出て来るのを光安は耳ざ
とく聞いてしまいました。亥之介は佐伯家の秘密だとしましたが、結局、光安に、「白沢図」と「くんぼ
う様」−不死身の肉、前述の「封」−があることを打ち明け、当主になった暁には必ず見せると約束
したのでした。で、光安はそれが見たいためにへびと村を捜していたのでした。


関口は戸人(へびと)村捜しに出かけました。6月4日に伊豆に入り、6日間を取材に費やした−静岡、
三島、沼津にも行き、県庁にも問い合わせ考えつく手は全て踏んだが予想されたように誰も戸人村
など知らず何の記録も残っていなかった。もっと古い資料に当たるべきだが関口はそれは不得手、
で、出発前に中禅寺に相談しようとしたがその時に限って留守で諦めたのでした−、そして、麓にあ
る韮山の派出所で駐在所の若い脇淵巡査と話を。光保のことは憶えていましたが・・・。そのと
き、郷土史家・堂島静軒を名乗る男が駐在所の傍を通り・・・6月10日のことでした。堂島を怪しま
ずに脇淵巡査と一緒について行って、「戸人村」地域に入り、色々と話を聞き、熊田家−実は前述
の移住させられた村上家の残りの一人、後述の村上貫一刑事の叔父−という家に。そこで来ていた
手紙の差出が皆東京であることを堂島は関口に示し、更に秘密の一端を関口らに話したのでした。
そして、とうとう廃墟となっていた佐伯家に。そして「くんほう様」も目に。そのとき肩が叩かれ、薬売
りが。そして燈が消えて・・・。

関口のモノローグでは、その後の記憶が途切れてしまっていたのでした。堂島一派の術作に嵌った
のでした。彼等にとっては「飛んで火に入る夏の虫」、関口は中禅寺グループにおけるおあつらえ向
きの人物でした。

ふと考えたのですが、どうして堂島は関口が戸人村を捜して韮山まで来ていることを知ったのでしょ
うかねぇ。何も書かれてはいませんが、中禅寺も、そして大団円のしまいに中禅寺らの前に姿を現し
た堂島自身も語っているように、この悍ましいゲームの存在に気が付くとしたらそれは中禅寺しかい
なかったわけで、中禅寺とその一派の動向を監視していたのでしょうね。方法はわかりませんが。
光保はなにもされていませんから、中禅寺一派の関口がやってきたことが「飛んで火に入る夏の虫」
になったのでしょうね。関口の災難は中禅寺の長い間の知人だったゆえであることは間違いありませ
ん。

私は地理的位置を誤解してしまっていたのですが、下田と韮山の位置は下図です。前述の原木駅
は韮山より北方(三島寄り)です。

    図1 伊豆半島(下田、韮山)

気が付いたら、関口は大きな樹に殺されて吊り下げられていた裸女を見上げていて警官隊に取り囲
まれていました。そして、どうやら催眠術がかけられていたようで、関口は

 女を吊るしたのは、私なのだ・・・・・・・・・・・・・と思う。
 何故なら、私はここに立っている私を見ている・・・・・・・・・・・・・・からだ。そして私はここから逃げたのだから。
(※1)

と、見たまま・・・・を告げたのでした。よ〜く聞けばおかしなことを言っているのですが、警察は関口が犯
行を自白したと受け取り、関口は下田署に現行犯逮捕されてしまったのでした。

で、この女性の身元は直ぐに判明しました。なんと「絡新婦の理」の織作家のたった一人の生き残り
(実は中禅寺は気が付き事件後会いに行って直接告げたように、その事件を企て陰で糸を引いてい
た−物証があるわけでもなく、心優しき中禅寺は警察には告発せず見逃したのでしたが)織作茜
でした。前作「絡新婦の理」のラスボスが次作「塗仏の宴」であっさり殺されてこの世から退場となった
のでした。実は、織作茜だったからこそ殺害されたわけで、ああ、織作茜も関口同様、堂島グループ
にとっては「飛んで火に入る夏の虫」だったのでした。織作茜が殺害されたのは関口をわなにはめて
逮捕させるためだったのでした。で、真犯人はなんと、「姑獲鳥の夏」の医師見習い・内藤赳夫
でした。しかし、織作茜と内藤赳夫に接点などありません。内藤は精神をいじくられ殺人実行犯に
仕向けられたのでした。被害者=織作茜、真・実行犯=内藤、現行犯逮捕=関口というのは、堂島
グループによる中禅寺に対する嫌がらせと中禅寺の性格に付け込む封じ込め対策
の一環だったの
でした。恐るべき堂島の調査力と力量・・・関口=「中禅寺が心を癒した人」、織作茜=「中禅寺が罪
を見逃してやった女性」、内藤=「中禅寺が呪いをかけた男」
だったのでした。で、内藤を操ったのは
中禅寺に対抗心を抱く藍童子でした。


なぜ織作茜が出てきて「飛んで火に入る夏の虫」になったのでしょうか?「宴の支度」の「おとろし」に
そのいきさつが示されていました。

事件で一人生き残り織作家の全財産を受け継いだ織作茜は、会社の方は、元々柴田財閥傘下だっ
たゆえ、暫定的に柴田グループから新社長を迎え経営を委託することにし、茜の祖父の実弟で茜が
嫌っている老人、羽田製鉄取締役顧問の羽田隆三に屋敷の処分を依頼。そのとき、羽田の秘
書の津村信吾の説明で、経営コンサルタント「大斗風水塾」の南雲正陽は架空の経歴を申告、
本籍なども全て虚偽と判明、いつでも解雇できる状況にあるものの、南雲は羽田曰くボンクラ社長
に伊豆の土地を買えと進言しているがなぜなのか(社長曰く土地の持ち主は売らん・・・と云っている)そ
れを知りたい−榎木津礼二郎・探偵を紹介してくれないかと。これには柴田財閥を介して取り計らう
ことを約束しました(柴田財閥は「魍魎の匣」で父親の榎木津幹麿を通して榎木津礼二郎のところに
顧問弁護士の増岡則之を派遣し調査依頼したことで榎木津礼二郎そして中禅寺秋彦一派と
パイプができていたのでした)。羽田は、茜にもう一つ依頼。「徐福研究会」を手伝わないかと。羽田
は徐福を遣わせた秦の始皇帝が求めた仙薬とは「不老不死」の薬ではなく、「回春剤」だっただろう
と云い、表向きとは違い、裏の目的としてそれを捜す目的で徐福研究会を作ったと。その研究会は
東野鉄男という在野の研究家に主催させているが、東野は羽田に、資料館を作るよう進言、伊豆の
方によい土地がある、そこしかないと言っているのですが、羽田は良い土地には思えない、で茜が
右腕になるなら買うと。

土地売買も無事終わり、安房の地を離れることになった茜は、中禅寺に尋ねたいことがあり、会う
依頼をしていたが、中禅寺は都合で来れないとして代理で妖怪研究家の多々良勝五郎がやってき
ました。先に来ていた多々良は、奇譚月報に掲載することになった原稿を書いていたといい、その
ときテーマの「おとろし」について蘊蓄を語りました。茜は中禅寺から預かって来た謝罪の手紙に書
いてあったように多々良を信頼できそうな人と感じ相談事を。で、相談事とは、屋敷を手放すことに
なり代々あった墓地を別の場所に移したくその墓地を管理している寺で永代供養をしてもらえること
になったが、代々祀っているいる屋敷神−茜は記紀に載る神が二体−石長比売命、木花咲耶毘売
命までは引き取れないと言われ、どこに奉納したらいいかということでした。多々良はひとくさり蘊蓄
を垂れ、駿河富士と下田富士に奉納するのが相応しいとアドバイスしたのでした。

茜は羽田邸を訪れました。羽田は事情は後述しますが、榎木津礼二郎にすっぽかされたといい、責
任をとれと。それは、徐福資料館に協力することだと。インチキ風水師−南雲の企みを暴くことと徐
福資料館建設が繋がったと。秘書の津村の説明では、東野鉄男という男も経歴偽称していて戸籍
上該当するものはいないと。そこで更に調べたら、南雲と東野が云っていた土地はぴったり一致。
そして津村に出させた米軍の航空写真にはそこに大きな屋敷がくっきりと写っていた・・・・・・・・・・・・・・・・−羽田の指示
で茜は津村とその地の実地検分にでかけたのですが、さすが、絡新婦だった茜さん、秘書の津村の
正体を見破っていました。津村は、前述の関口が見せられた新聞記事にあった津村辰蔵の息子で
した。茜が喝破したように、津村は、東野鉄男の尻尾を掴むために・・・・・・・・・・・・・羽田隆三に取り入った」のでし
た。父親の辰蔵は行方不明になり廃人になって戻って来て一ケ月後首を括って自殺、母親もそれが
原因で心労を患いやがて死亡−津村信吾は父を陥れたやつがどこかにいると・・・。津村は、それ
が殺人事件なら、必ず犯人がいるはず。もし村人の生き残りがいた・・・・・・・としたら−そいつは犯人か、
仮令犯人でなくても犯人側の関係者
と考えていたら、津村はついに、彼の少年時代、昭和9年、父
親に連れられて行った佐伯家で見た男を発見、それが東野鉄男だったのでした。

茜は、下田富士に屋敷神−石長比売命−を奉納するために津村に無理を言って、先に下田に回り
ました。で、そこには郷土史家を名乗る男がいたのでした。そう、堂島静軒がいたのでした。彼は茜
に、「ここに祀られているのは石長比売命ではなく木花咲耶毘売」だと・・・。そして、

 「どうやら知るべきではなったかもしれませんねえ。織作茜さん
 「織作さん、世間には、本当に−畏ろしいものと云うのがある。触れてはならぬ見ては
 ならぬ聞いてはならぬものがある

 「私は凡てを知っている。ご忠告申し上げたまで

と言い、更に

 「この世にはふしぎでないもなどないのです

と中禅寺の口癖と全く逆のことを宣ったのでした!で、彼の能力をもってすれば記憶をいじくるだけ
で済むはずでしたが、茜は「中禅寺が罪を見逃してやった女性」だったために、殺されてしまう役割
を与えられてしまったのでした。

茜は蓮台寺温泉に行き、温泉に漬かり、色々と思索を・・・そして、

 騙されているのは騙している方だ・・・・・・・・・・・・・・・

その後、茜はその後荒縄で首を絞められて殺されてしまい、裸のままで傍の高根山山頂付近の樹
に吊り下げられて・・・そこに催眠術を掛けられた関口が置かれたのでした。


    図2 蓮台寺温泉、高根山

ところで逮捕後の関口です。関口は下田署の諸崎刑事による人権を無視した連日連夜の暴行と暴
言による取り調べを受けていました。そのときに関口の心情は、「宴の支度」の各章の後に掲載さ
れている関口のモノローグで示されています。抜粋しますと・・・

 お前がやったお前がやったお前がやった−と、ひたすら同じことを鸚鵡のように反復
 している

 私はただ、まるで呆けたように弛緩して、男の善く動く口許を、焦点の暈けた瞳で見
 つめるだけだ。

 −監禁。
 それから長い時間が多分刻々と過ぎて、厭と云う程闇の気配に染み込んで、もう情景
 と同化するばかり脱力し続けて、それで漸く私は自分の置かれている状況を、ある程
 度把握するまで回復することができた。これは−現実だ。
 私は−逮捕されたのだ


私は実は最初にこれを読んだとき、「関口だから」だと思い違いしていたんですが、どうも関口は催
眠術にかかっていて当初は事態を把握していなかったのでした。

監禁生活4日目

 そもそも対人恐怖症のきらいのある私は、日常生活の中でさえ上手く喋れない
 質なのである。強く問われる程動揺して結果口籠る。気の利いた回答など出来
 る筈もなかった。それに加えて私の場合、記憶と云う奴は遍く曖昧模糊としたも
 のなのだ
(※2)。

 大体体験と雖も所詮は個人的な認識に過ぎぬ訳だから、それが客観的な事実かどうか
 など、体験者自身には判断不能ではないか。


このとき関口は、

 終いには他人ごとになった。私は既に体から遊離し、苛められている私を傍観する第
 三者になってしまっている。
 だから私は殆ど反応しなくなった。

 無味乾燥なこの檻も、今の私にとっては安息の場所である。


五回目の尋問

 私は逮捕されて以降、理性的に思考することを放棄してしまった。

 酷く殴られて、目が眩んだ
 ふ−と、意識が飛んでどうでもよくなる。
 考えないことは何て楽なことなんだろう


六度目の夜

 妻は何を想っているだろう。
 困っているか、多分迷惑していることだろう。

   肉体的な痛みこそ、今の私に残された最後の生の証しなのだ。
  痛ェと感じているうちは大丈夫だ−
  躰が生きたがっている証拠よ−。
  −木場。
  二人きりで敗走した夜−。
  前線で聞いた、戦友の言葉だ。



 もう壊滅的に私は壊れていた

 殴られた。
 また殴られた。

 気の狂れた話ばかりすると云って係官は怒るけど、何も話すことはないんです。
 もう一度殴られた。
 腹を蹴られ、背中を蹴られた。


酷い話ですね。

 そして係官は・・・  「被害者とは面識があったんだろ?計画的な犯行だな!
 関口「面識−誰と?
 「何だ。お前は馬鹿か。馬鹿野郎、何度も何度も云っているだろ。貴様が殺した、あの
 織作−


 私は−漸く凡てを了解した。

 「わ、私は−織作茜さんを殺したのですか・・・・・・・・・・・・・

この刑事・緒崎は関口を猿以下だとか馬鹿だとか罵倒しまくっていますけど、自分の方の愚かさに
はまるで気が付いていません。「計画的犯行」するような人間が、殺人現場でぼ〜っと立ち竦んでい
て(※1)という自白もどきのことをするか?についてまるで考えていません。単細胞的に、自白したか
ら犯人に決まってると決めつけ、動機が不明−関口に茜を殺さねばならないような動機などないの
で当たり前なんですが、吐け吐けと殴りつけてもそりゃ言えませんよね−なので送検できないため
に苛ついて勝手に思い付きをぶつけているだけなんですものね。

それにしても恐ろしい話です。関口は催眠術をかけられ、真犯人の内藤を「もう一人の関口」と思わ
され、それでよく聞けばおかしいと思われるはずの(※1)のようなことを口走ったのでした。関口とい
う男の性質を見抜いていて、すっかり関口が犯人であるかのようにお膳立てがされていたのですが、
当然、関口には茜を殺す動機など皆無。取り調べの下田署・緒崎刑事は動機を明白にさせないと検
察への送検が困難なため、それを吐かせようとしゃかりきになったのですが、酷すぎますね。猿以下
・馬鹿だと罵倒しまくり、上司の警部補の有馬・老刑事に「尖がるな」と眉を顰めさせたくらいでした。
絵に描いたような暴力刑事そのものです。無罪放免になった後、この刑事はどうしたんでしょうかねぇ
・・・どこかに関口は結局、告訴はしなかったとありましたが。
関口にとって絶望的だったのは、(※1)のようなことを口走ったことだけでなく、沢山出て来た証言は
5人が成仙道信者、残りは催眠術をかけられていたことと、脇淵巡査も熊田家の当主も関口が来た
ことを否定−当然催眠術をかけられて−したことで(※2)である関口の申し述べたアリバイも否定さ
れて精神病を装った戯言とされてしまったことでした。これも私は大変恐怖感を感じました。

この小説内では何らフォローされていませんが、「陰摩羅鬼の瑕」の中に関口のモノローグとして後
日譚が少しだけありました。

 乱れ崩れた私の精神の均衡は、伊豆で起きた或る事件に関ることで完全に失われ、私
 は−。
 −一度崩壊(こわれ)たんだ。
 つい先日のことである。
 子細あって旅先で拘束され、そこで毀れてしまった私は、見知らぬ街の見知らぬ病院の
 見知らぬ病室に転送され、そこで矢張り見知らぬ医者に訳の判らない治療を施された
 否、治療自体は正当なものだった。慥かに私はそこで人として息を吹き返し、人の像を
 整えることが出来たから。


元々精神的にもろい関口が自ら「毀れてしまった」と言うくらいですから、多分、「人間性」が破壊され
てしまったということでしょうね。凡てを悟った中禅寺は、「警察の人権を無視した尋問によって−彼
が壊れてしまわないことを祈るだけです
」と言っていますが、残念ながらそうなってしまったのでした。
しかし、雪絵夫人の発言と、陰摩羅鬼の瑕における関口のモノローグを見ていると、むしろ雪絵夫人
を一番不憫に感じたのは私だけでしょうか?


さて、中禅寺に対する嫌がらせの魔の手は、妹・中禅寺敦子にも伸びてきました。「宴の支度」
の「わいら」の章で述べられています。

ある日、中禅寺敦子は街を歩いていて路地に入り行き止まりだったため踵をかえしたとき、路地に
人形のような一人の女性が佇んでおり、敦子に、−あぶない、そして私も追われています・・・・・・・・・と。案の
なかった敦子は意味が解りませんでしたけど、とにかく彼女を家に匿い、警察に届けにいこうとした
のですが、女は、それは−危険です危険なのは、私ではなく敦子の方・・・・・・・・・なのだと。
女性曰く、男達が敦子の姿を見つけるや否や血相を変え、罵声を上げながら一直線に敦子目掛
けて駆け出したが、敦子が不意に路地を曲がったため見失ってしまった
奴等は韓流気道会だ

この女性は、なんと巷で話題の前述の加藤女史物語に出て来た霊媒師・華仙姑処女でした。彼女
は、私は先のことが判る・・・・・・・のですと言ってから、未来予知は嘘だと思っているといい、

 「私が云った通りに、誰かが細工をしているんじゃないかと思っている
 「怖いのです。もう嫌なのです。いいえ、ずっと嫌だったのです

と。

敦子は、「魍魎の匣」で相模湖で関口に紹介されて知り合い、その後情報交換をしあっている鳥口
守彦が華仙姑処女を極悪非道の許すまじき偽占い師だとして追いかけていたことを知っていて、先
月末にようやく尻尾を捕まえたと聞いていたのでしたが、事実は異なっていた−裏で暗躍する人間
がいて利用されていただけ−のでした。実は、鳥口はそのことを掴んでいたのでしたが。

とうとう韓流気道会は敦子の家を探り当ててしまいました。敦子は気道会の男らに暴力を振るわれ
気絶。気が付くと華仙姑が、そしてにこにこした小男がいて、三軒茶屋の漢方薬局・条山房の薬剤
師・宮田耀一を名乗ったのでした。宮田曰く、暴漢を追い払い敦子を助けたのは宮田の師である長
寿命講主催の通玄であると。

敦子は、奇譚月報で韓流気道会に批判的記事を書いたことで自分が韓流気道会から狙われたと
考えたのでしたが、実は、記事を書いたのが中禅寺敦子だったからこそ・・韓流気道会から狙われた
のでしたけど、兄の中禅寺さえまだ堂島のゲームが発動され、なりいきとはいえ、不用意に阻止方
向で関与してしまったことにまだその時点ではきがついていなかったくらいですから、当然ながらそ
のとき敦子はそのことを知る由もありませんでした。敦子は、編集部と兄・秋彦に事件のことを連絡
しようと思いましたが、華仙姑がいるため結局、それについて連絡しませんでした。

家のディスクの上に、多々良勝五郎の奇譚月報に掲載する絵がありました。絵の名前は「わいら」。
かろうじて形と名前だけが残った妖怪で、絶滅したと云うものでした。それを聞いて華仙姑は、

私みたいだな・・・・・・と思った

と。敦子に答えて華仙姑が述べたこと・・・

 開業している訳でもなく、看板も出していないし宣伝もしてないのに人々が相談に訪れるが
 依頼人や相談者のことは善く知らない・・・・・・


そして、「会った途端、もう、話すことは決まっています・・・・・・・・・・・・」「私の語った口から出任せを、きっと誰か
がその通りに・・・・・・
」と。華仙姑は気が付いてはいたものの、一方では感謝されるのは嬉しく状況
に甘んじてきたようです。更にその前の経歴として次のように語りました

 15年ばかり前に15,6で上京。生きていくために躰を売る以外の女ができるありとあら
 ゆる職業に就いてきた。開戦の前年、親切な人の斡旋で、築地のある高級料亭で住み
 込みで働くことに。2年後(昭和17年)仲居に。料亭の馴染み客が彼女の能力に気づき、
 中ると評判になった。しかしながら−

   「何を云ったか善く覚えていない・・・・・・・・・・・・・・何故そんなことを云ったのか・・・・・・・・・・・・・が解らない

 その後料亭を辞め、お金は溜まっていたので有楽町の外れに小さな家を買って隠匿生活
 を始めたが一か月と立たないうちに男が相談事があると訪れ、それ以後、人が増えてきて・・・


そして、「私は、酷く大切なものを−失ってしまったのです。今の私には、何かが欠けている」と云
うのを聞いて敦子は華仙姑が上京する前のことを語っていないことに気が付き、華仙姑のいう「欠け
ている」ものとは「記憶」だと考えたのですが、華仙姑は失った過去などないと否定。更に、過去を
絶対に語れない理由・・・・・・・・・があると。敦子から名前を聞かれ、佐伯布由と名乗りました。な、なんとまだ敦
子は何も知りませんでしたが、華仙姑処女は佐伯家の娘だったのでした。

敦子は華仙姑処女=佐伯布由を榎木津礼二郎の所=薔薇十字探偵社に連れて行きました。榎木
津はこれは怪我だ!と叫び、敦子の無謀を嗜めて散々説教をしたのでした。しかし、榎木津は敦子
が説明しようとする前に布由を見て、何だその変な男は・・・・と云い、そのま椅子から動かないで沈黙し
てしまったのでした。仕方がなく敦子らには和寅が話しかけ敦子はいきさつを話したのでした。和寅
はこの後、お客=羽田隆三−多分使いの者が来ると。やがて、ずっと布由を見ていた榎木津は、

 「お前は誰だ」「僕に隠し事は出来ないぞ

そう言って、自分の部屋に入り戸を閉めてしまったのでした。榎木津は布由の記憶の何かを見たの
でした・・・。仕方がなく敦子は謝る和寅に礼を言って探偵事務所を後にしました。

敦子は榎木津の非礼を気にしたのでしたが、布由は気にするどころか、あの人には−隠し事がで
きないのですね、あの人は−きっと見抜いたのでしょう。私は−許されない過去を持っているので
と言い、驚くべきこと−私は十五の時に両親兄弟、家族全員−いや、村人全員を殺害して・・・・・・・・・郷里
を出奔した女です
−を打ち明けたのでした。

布由は敦子にお礼を云うとともに、もうこれ以上自分には関らないようにと言い残して敦子から離れ、
路地を曲がったのか敦子の前から消えてしまいましたので、敦子が探しますと、布由が気道会に囲
まれているのを目撃。敦子に気が付いた気道会は師範代の岩井崇がいて、会長指示で敦子を殺せ
と。敦子危うし。で、今度は正義の味方が現れました(笑)。喧嘩には滅茶苦茶強い榎木津礼二郎が
颯爽と登場です(^^♪。岩井も含めてあっという間に一網打尽。榎木津曰く

 「喧嘩は卑怯な方が勝つのだ。成文化した卑怯こそ武道だ!」(笑)

そこに榎木津の薔薇十字探偵社の探偵助手の益田龍一も現れ、

 ・一昨日華仙姑失踪との報せが入り鳥口から頼まれて探していた
 ・鳥口は調べているうちにどうも華仙姑処女は誰かに操られているのじゃないかと
  疑い始めた
  −華仙姑宅に毎日のように出入りしている男がひとりいて、相談者の斡旋もして
   いるらしいが御本人はその男のことは知らないらしい


と告げたのでした。

これに対し、華仙姑は昔の知り合いに善く似ているが彼は15年前に亡くなっていると。その男とは
尾国誠一でした。で、益田は、

 「尾国さんは生きています・・・・・・。しかもこの十年、頻繁にあなたのところに出入りしています・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「憶えてない筈ですよ。何故なら尾国と云う男は、凄腕の催眠術師なんです

と尾国のなしたことをばらしたのでした。最初は信じられなかった布由も最後にはやっと納得したの
ですが・・・改竄され口にされるものではなく、相手が真に体験していることの記憶画像を見ることが
できる体質の榎木津は

 「あんた、まだ騙されているな

と。そうなんですよね。敦子に漏らした大量殺人の過去も実はすり替えられていた偽の記憶でしたか
ら。榎木津は更に、

 「何だか知らないが僕は騙せない。それは家族か?だったらそれは欠けていないぞ・・・・・・・・・・
 その変なものは何だ!判ったクラゲだな


榎木津は「くんほう様」まで見たようですね。そして、敦子には「−京極の馬鹿が心配しているぞ」と。
敦子は連絡しようとしたものの躊躇ってやめたのですが、中禅寺は既に敦子が兄に内緒で何かをし
ていることに気が付き榎木津にも連絡していたのでした。

翌日益田が薔薇十字探偵社に行くと、そこに華仙姑と敦子が泊まっていたことを知りました。
で、益田は尾国に就いて調査した結果を話しました。尾国は置き薬の販売員であるものの何処に所
属しているか曖昧であること、一軒だけ雇ってはいないが知っているという薬屋−「金色髑髏事件」
(「狂骨の夢」)ででてきた元憲兵将校、現在は越中富山の薬売りをしている一柳史郎の実家、
一柳薬品−があり、益田は一柳史郎に話を聞きに行くつもりであることなどを述べ、その前にと華仙
姑に詳しい事情を話させたのでした。

 佐伯家は旧家。父親は怖い人だったが布由にだけは優しかった。母親は楚々として綺麗な人。
 いつも台所仕事をしていた。兄が一人、又従兄の兄と一つ違いの甚八のは三人兄弟のように
 育つ。甚八は長じて使用人に。兄は妹・布由を溺愛していた。祖父は厳格だったが村人から
 尊敬されていた。家には父の弟の乙松がいて、東京の難しい学校を出て学問をしていたが体
 が弱く帰って来ていた。同居人は布由入れて以上7人。他に甚八の父・玄蔵が村外れに小屋
 を建てて暮らしていた・・・養子に行った大叔父−祖父の弟、勘当されて養子に行ったらしい−
 の息子で、大叔父と縁を切り佐伯姓を名乗っている、漢方医。

 尾国は昭和十二年秋に初めて村に。その時、村にお巡りさんが派遣されてきた、1年居ただけ
 尾国は翌年の正月にも来て−それまで来ていた薬屋は春、秋年二回−5,6日逗留。春先にも
 来たため村中で顔馴染みに。

 その春過ぎ−尾国が帰った後村の中がおかしくなり、駐在も居なくなった。

布由は、家族というものを、たとえなにがあろうと、凡てを承知で日常生活・・・・を送れるものと思ってい
たのですが

 兄と甚八のいがみ合い、父は怒鳴るようになり、母は床に伏せ、伯父は穀潰しと誹られて部屋に
 閉じこもり、祖父は村の人を叱り飛ばして−そこに、6月の終わりころ、尾国と大叔父が。
 大叔父は、今日こそは見せてもらうぞ・・・・・・・兄貴、それが幕開けの言葉。兄が止めたが甚八が割り込ん
 で見せてやれ・・・・・、あんたも見るんだ−と。そして修羅場。布由は悲しくなってふらふらと入り込んだと
 き、危ないからどけと云った甚八の額に兄が俺の妹に何をすると叫び大叔父が持っていた鉈を奪っ
 て振り下ろし、それを見た布由は兄から鉈を奪って兄の額に振り下ろして・・・次々に家族を。起きて
 きて止めようとした母には肩口を。更に怖がっている伯父も殺害。近づく者凡てを次々に・・・

ふと振り向くと尾国が立っていた。尾国は次のように布由に言ったと・・・抜粋すると

 一人逃げて村に知らせに行った。...これだけのことをしたのだ。君は捕まる。捕まったら
 死刑だろう。ここは私の任せて逃げろ。韮山の駐在に行って、いいか、ここで起きたことは
 何も云わずに、いいね、一言も云わずに、山辺と云う人を呼んで貰うんだ。山辺と云えば判
 るから−


やがて−血達磨の尾国が転がり出て来て、そして尾国の悲鳴が聞こえた・・・

駐在は山辺の名を聞くと何かを了解し、どこかに電話をかけ、暫く話した後でなぜか納得して、布由
にお金を渡し、「東京に行きなさい」「後は向こうでなんとかしてくれる」と。
実はこの駐在は、現・下田署の有馬警部補でした。彼はこの後すぐに下田署に転勤になったとのこと。

更に布由は益田の質問に答えて、開かずの間には、死なない方・・・・・くんぼう様・・・・・と。

その時外には成仙道が音を鳴らしながら練り歩いていて・・・榎木津は「苦情を述べに行くのだ!」と
喚き散らして外に出て行ってしまったのでした。ところがその隙に、そこに眼鏡を掛けた見知らぬ男
が・・・−ふよくえんやくししここが−宜しいかとと男が云った途端敦子はすっと立ち上がった・・・眼
鏡の男は条山房の宮田、彼が為したのは後催眠を使ったものでしょう。益田は多分宮田に薬を掛け
られたのでしょう。倒れてしまい、その間に敦子と布由は宮田に攫われてしまいました。
但し、布由=華仙姑は二人が後催眠で操られて条山房に行く途中で藍童子に攫われてしまいまし
た。ま、そもそも条山房が三木春子や布由を確保しようとしたのは、宮田の意向。玄蔵=通玄(張果)
は土地を有していなかったゆえです。で、結局、条山房の手に残ったのは敦子。で、張果は武道に
優れていて敦子の命まで狙っていた韓流気道会は条山房の手にある敦子には手を出せませんで
したので榎木津が成仙道を追って行方がわからなくなったとき、腕力に劣る益田らだけでは護るこ
とは困難だったのですから、結果的に敦子は守られていたことになりますね。布由が奪われたこと
は宮田にとっては不本意だったでしょうが。


さて、解体された村上家の長男・村上寛一は今は関口が逮捕されてしまった下田警察署の刑事。
下田に移り住んで15年、所帯を持って14年になる村上寛一。彼は復員後、知人の推挙を得て警
官になり下田署に奉職、今は刑事課に所属する刑事。彼は下田署で警察官として奉職後、妻の訴
えも無視し、休みもとらず仕事一徹で過ごしてきたのですが、優しくおとなしかった息子の村上隆
に不覚にも突然文鎮で殴られ怪我をして珍しく休んだのでした。関口逮捕の茜殺人事件は、村
上が警察官になってから一度も経験して来なかった殺人事件で、村上の初めての休暇を見計らった
かのように発生した−そう村上が感じた−のでした。で、隆之は母親・村上美代子も押し倒し
てそのまま家出してしまい行方不明・・・。それを苦にした美代子は、藁をも縋る思いで成仙道に入
信。それがもとで夫婦喧嘩が始まり、寛一が成仙道に入るのを拒んだことから美代子は家を出てし
まい、村上寛一家はいとも簡単に崩壊してしまったのでした。ちなみに隆之は養子でしたが、隆之の
振舞はそれにつけ込んだ人間−恐らく藍童子−の仕業でした。

で、村上寛一は彼の記憶にある村上家崩壊の再来であることを自覚しました。前述のように村上家
の崩壊は次男・兵吉の家出(実は兵吉了承の元で攫われたのでしたが)が発端でした。
その後、村上兵吉はどうなったか・・・これについては「宴の支度」の「うわん」に示されています。

本物語にはきっぷのよい姉さんが二人登場するのですが、その一人、一柳朱美 がここで登
場します。一柳朱美は、「逗子の事件」または「黄金髑髏事件」(「狂骨の夢」)で登場した佐田朱美で
す。前述の一条史郎は夫。夫婦は事件後、逗子を離れ、今は沼津に住んでいます。夫は置き薬の
販売をしているため、1年のうちの半年以上は家に不在。
朱美は夕餉の食材を買うために松林のところを歩いていて、一人の男−村上兵吉でした−が首を
吊ろうとして失敗したのにでくあわせました。男は腰を打って辛そうでしたので朱美は家に誘いまし
た。「狂骨の夢」での伊佐間一成(中禅寺グループ、榎木津の海軍時代の部下)がそうであっ
たように、兵吉も夫不在で女性一人の家に上がり込むことに遠慮したのですが、買い物に出かけて
来るから暫く家で休むようにと言い残し、家を出ようとしたら隣の松嶋ナツの怒鳴り声が−成仙
道のしつこい勧誘に対してでした。

朱美は村上が、憑き物が落ちましたと云ったのを疑い不安に。朱美は逗子の事件で

 真実と云うのは思ったよりいい加減なものである。言葉にすると元居た場所から微妙に
 ズレる。そして不思議なことにズレた場所に収まってしまうものなのである。そのズレが
 殺意を無効にすることもある


ことを学んでいて、気になり出し途中で−帰ろうと。そうしたら、何と村上は敦子は朱美の家の中で
再び自殺を図っていた−ぶら下がっていた−のでした。大騒ぎで助けを借り、町医者に運んで貰い
命はなんとか食い止めたのでした。

ただただ謝る村上は朱美らに身の上話をしたのでした。小説では、朱美の家にやってきた尾国誠一
−この「うわん」は、小説では前述の中禅寺による加藤麻美子に関わる尾国がなした事件の顛末よ
り前にあるため、この時点ではまだ読者には尾国の本性はかなり隠されています。夫一柳史郎が
越中富山の薬売りになるとき、随分尾国に世話になり、それで朱美は尾国とは顔見知りで夫が不在
でも家に上げる仲でした。今の沼津の家も尾国が斡旋したもの。−に、村上から聞いたそれを語る
形で示されています。

肝心のなぜ首を括ったかについてははっきりしない−兵吉は

 「何かが欠けているのです・・・・・・・・・・・
 「それが何かわからないから怖くなった

とだけ・・・。語られた前述の家出後は以下。

 兵吉はその後、中野の監獄のような建物で基本的な教育を受けた。場所や名称は聞くこと
 が許されなかった。男は二度と顔を見せなかった(中禅寺曰く、中野学校が設立される前に
 堂島により?設けられたもの。兵吉を間諜にしようとしたようである)。
 3か月後、恐くて脱走、家に帰りたかったが兵吉を攫った男に捕らまるのを恐れて帰らず。
 全国を転々としているとき太平洋戦争勃発。住所不定の兵吉には赤紙は届かず。
 戦時中茨城にいた。身の上を偽って町工場に就職、経営者は全てを了解し、彼を匿った。
 経営者の息子は徴兵され戦死。戦争が終結し、息子が戦死してしまった経営者は村上を
 養子にして跡取りにしたいと言うがどだい無理な話。で、一度郷里に戻ったが家族も親類
 も知人も誰もおらず、家は焼け、兵吉は昭和13年に15歳で死亡したことになっていた。
 村上に財産を相続させたい経営者は一計を案じ策を弄して村上に財産を相続させられる
 よう新しい戸籍を与えた。昭和26年経営者死亡で相続したが、経営難のため結局、相続
 した螺子工場を閉鎖し、東京に出て臨時雇い募集していた郵便局に勤務。仕事は手紙の
 検閲。向こう三軒両隣、都合七軒の、集落の一角全部の名前、更には生き別れの兄か
 ら生き別れの父親に宛てた手紙
まで発見、ただ、奇妙なことに、東京の郵便局に投函さ
 れているのに、宛先は全部伊豆。差出人も皆伊豆。下田、白浜、堂ヶ島、韮山、沼津。
 大家の勧めで「みちの教え修身会」に入会していた兵吉は全てを話し、身の上相談を。
 「みちの教え修身会」からは、「自分の気持ちを見極めよ」と研修を受けさせられ、親兄弟
 に会う決心をし、まず兄と会おうと行ったが会えず、誰にも会えないまま次々と辿って最後
 に沼津にやってきた。

ただ、朱美が話をするにつれ、尾国の様子がおかしくなっていました。
しごく本能的だが、そうしたこと・・・・・・に関する嗅覚が鋭い朱美はこのとき尾国に不信感を感じたのでした。
やがて、尾国は、その話を聞いたのは朱美だけかと尋ね、朱美は妾だけですと嘘を(なつも聞いてい
ました)。で、尾国は顔をこちらに向け、緩々と朱美に手を伸ばしたのでした。−何を
・・・恐らく尾国らにとって不都合なことを朱美が知ったことから何かを朱美にしようとしたのだろうと思
われます。しかしそこに邪魔が入りました。ナツの怒声。玄関の戸を開けるとそこに呆然とした成仙
道の人間が・・・どうやら話を聞いていたらしい。

その時使いの者が村上がなんと病院で三度目の自殺を図ったと知らせに。朱美はすっ飛んでいき
ました。で、病院に成仙道の刑部昭二が村上を勧誘にやってきました。そして・・・わん、わんと犬が
吠えた途端、村上は死ぬ、死ぬんだと暴れ出して・・・そして刑部が「臨兵闘者皆陳烈前行−」と唱え
て窓に輪をかざして、かん−と鉦が鳴った途端、村上が鎮まり、刑部は「禁呪を断ちました」と。で、
兵吉が信じかけたとたん、そこに尾国が出現。刑部のいんちきを暴いたのでした。
兵吉はみちの教え研修会で既に後催眠の術を掛けられていた−犬の鳴き声が契機になる・・・・・・・・・・・犬が鳴
いている間だけ気鬱の病になる
−刑部はそれに気づいてインチキをやったのでした。
後催眠は尾国のお得意。朱美の話を聞いただけで見破ったのは当然でしたね。

こうして成仙道を退けた尾国は村上に取り入り、

 「足が治ったら参りましょうよ。手前は丁度そちらを廻る。お供しますよ−韮山に・・・

と。そのとき朱美は兵吉の「欠けているもの」のことを考えていたため、尾国が何故その場所・・・・を知っ
ているのか気にも懸けませんでしたが、兵吉は実際には尾国によって韮山ではなく伊豆七島の島に
連れていかれてしまったのでした。


ところで、木場修太郎刑事です。木場修太郎が独自の動きで関与することになった状況は「宴の支
度」の「しょうけら」の章で示されています。もう一人のきっぷのよい姉さん−池袋の居酒屋・猫目
の女主人・お潤こと竹宮潤子(「絡新婦の理」で登場)が出てきます。猫目堂は木場の行きつけ
の酒場で、木場は一杯やってました。そこで、お潤は相談に乗ってあげてと友達という三木春
を紹介、春子は覗かれていると訴えたのですが、木場の興味の対象外。まともに取り合わず・・・。
で、お潤は諦めて、怪しい子供−藍童子−の話を持ち出したところ木場は食いついてきました。
春子は木場とお潤のやり取りを聞いていて、諦めて

 「−その、今日明日どうなるとか、命に係わるとか云う話でもありませんし。ですから
 私、藍童子様にご相談をしてお伺いを


と。さすがに、商売柄被害者をたくさん知っていて占いの類が大嫌いな木場には聞き捨てならないこ
とでした。春子の話を改めてじっくり聞くことにしたのでした。三木春子は

 静岡県出身、戦後上京一昨年から東長崎の縫製工場に勤務し、工場の宿舎の一室で
 独り暮らし


で、訴えと云うのは、

 近隣に住む新聞配達員・工藤信夫は執念深く付きまとっている。そして、終日監視
 をしている


一旦は新聞屋店主に訴えてやめさせたのだが、それで済みませんでした。

 「私、視られている気は全然しない・・・・・・・・・・・・・んです。いいえ、視られている筈がない・・・・・・・・・・んです。

ひと月ぐらいしてから、工藤から一日の春子の行動を克明に綴った手紙が来るようになったのでし
た。毎週、一週間分の春子の行動を事細かに綴って・・・既に7週間−49日分が。

木場が聞き出したところでは、春子と工藤が知り合ったのは、長寿延命講だと。健康診断は漢方薬
の薬剤師の通玄先生によりなされると。庚申の日から次の庚申の日までの間、細かな指示をした生
活指導がある。しし虫・・・と云って寿命を縮める悪さをする虫が衰えて長生きできると。 指導を守らない
と一発で守らなかったからここが悪くなったと中てられてしまう・・・処方する薬は高価。
春子は行くのをやめてしまったと。それは−藍童子のご託宣ゆえで・・・

木場は京極堂を訪れました。庚申について聞くことと工藤の話で・・・
木場は中禅寺は何かに気が付いたが確定しないとそれを口にしないことを知っていた。で、中禅寺
のアドバイスは、手紙を読んでいる場面がその手紙に書かれていたか、多分書かれていないだろう
と。

木場は三木春子を訪ねて行き、それについて確かめた。やはり書かれていなかった。「読んで貰え
ましたか?」とあった・・・これは間違いなく、手紙を読んでいるところを見てはないこと。あと、中禅寺
の指示に従い、長寿命講が何をするかを詳しく聞き出したのでした。
で、工藤は軽犯罪を犯しているとして春子と一緒に工藤に会うため新聞店に行ったら・・・
木場の知り合いの所轄(目黒署)の岩川真司警部補が工藤を新聞店から連行するところでした
−「窃盗容疑」で。そもそも長寿命講に関して被害届が出されていて捜査しているとき、有力な情報
提供−長寿命講の詐欺性を証明するある書類・・・・・・・・・・・・を工藤信夫がこっそり盗み出して隠匿している−を
得たと。木場はそれを見て驚きました。春子に関するものがあり、この紙に書かれていた通りに春・・・・・・・・・・
子は生活していた・・・・・・・・ことになると
・・・
そこに藍童子が現れました。照葉の術を使うとかで、警察捜査に協力しているらしい。有力情報と云
うのはどうやら藍童子が齎したものだったようです。藍童子は、

 「その人はそこに書いてある通りに暮らしていた・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「貴方達は−云いつけを守れないようプログラムされてしまった・・・・・・・・・・・・

 「一見宗教儀式のようですけど、この仮眠こそが、それから後の貴方達の行動をこと
 細かに誘導する後催眠の罠なんです


そして、藍童子は、

 「さあ岩川刑事。この工藤さんはきっと長寿命講の秘密を知っている筈です。この人は
 きっと素直に自供してくれるでしょう。これで−あの邪な漢方医を摘発できますね。さあ、
 貴方も−証言してくださいますね?


そういって、春子を木場から離し岩川刑事の方に送ったのでした。
木場は−物凄く凶暴な面相になったとあります。木場の思いとは異なる展開になったゆえでしょう。

なぜ、長寿命講は三木春子を取り込もうとしたのでしょうか?
三木春子は財産−土地−を受け継いで所有していました。その土地がポイントです。
羽田隆三が調べていたように、南雲正司が羽田製鐵に買わせようとしていた、そして東野鉄男が会
館をつくるのによい土地と云った同じ土地の入り口側が三木春子の所有する土地だったのでした。
ちなみに山側は加藤只二郎が所有している土地でしたが、大きな屋敷のある部分は不明でした。
長寿命講は三木春子の土地を狙ったのでした。

その後、三木春子はお潤から木場の住処を聞きお礼に行き2〜3回木場と会ったようですが、、突
如失踪してしまったのでした。それで大島課長に訴えたのですが、条山房捜査は空振り、捜査を指
揮していた目黒署の、木場曰く「『出世亡者』(木場と青木は警視庁に行く前、目黒署にいたのでした)
の岩川警部補は不惑を迎える前に」退職した表向きの理由は嘘っぽい・・・木場は大島から首を突っ
込むのを戒められてしまい、青木刑事の、

 「先輩はまだ僕を信用してくれていないのですか

という訴えも軽くいなし、その後、1週間の休暇届けを出し、失踪してしまいました。木場の独断単
独暴走が始まったのでした。


そんな折、目黒署捜査二課の、後で、青木が猫目堂のお潤に「木場二号」と紹介した河原崎松
が訪ねてきました。河原崎は、退職した岩川警部補の部下で長寿命講・条山房捜査に参加して
いたこと、条山房捜査が不発に終わり、なぜか意気込んでいた岩川が自ら捜査を打ち切ってしまい、
その後退職してしまったことに納得がいかず、単独で勝手に捜査をしている等。その捜査の過程で
木場刑事の存在を知り、青木を訪ねて来たとのことでした。
青木は木場が、条山房でないなら藍童子か?と呟いているのを耳にしていました。で、河原崎曰く、
霊感少年・藍童子に頼っていたのは目黒署総意ではなく岩川の個人的行為だったこと、よく中るので
上司も目を瞑っていたと。で、前述の証拠書類、裏付ける証言がない限り証拠能力は皆無、で唯一
証人になり得る人物−女工の三木春子−が「誘拐された」(木場は失踪したと言っていたが)のでした。
河原崎の話では・・・

 ・3/22 関係者(工藤信夫)逮捕、証拠書類入手
 ・3/30 捜査令状を取り条山房に立入捜査
 ・4/2  捜査打ち切り決定
 ・その10日後岩川退職


表向き捜査打ち切りになったのですが、河原崎は個人的に張っていた−三木春子には何度も接触、
週2〜3回するという外出時が危ないと気にしていたら2週間前姿を消してしまった・・・・・・
河原崎は必死で捜査、条山房を張ったが動きなし、それで工場で徹底的聞き取り調査−その結果、
週一回外出して木場と会っていたらしい。ただ河原崎は木場を疑ったのではなく、春子に関する目
撃情報を入手−春子は韓流気道会に攫われていたのでした。河原崎は中禅寺敦子が奇譚月報に
書いた記事を読んでいて、聞き込んでいた風体の男に記憶があり、それが目黒署が一度検挙して
いた岩井でそんな男が師範代になっていることで禄でもない団体だろうとし、春子を攫ったのは韓
流気道会と断定したのでした。ちなみにそこの師範は韓大人で日本人らしいが素性不明。そして
河原崎は韓流気道会に単独で乗り込んで三木春子を奪回し、駐在所時代世話になったある香具
師の元締めに預けて匿ったと口外発度と断りながら青木に打ち明けたのでした。で、春子の聞き
取りから河原崎は次のような推定をしたことを青木に語りました。

 ・三木春子は単なる詐欺の被害者ではなく、条山房事件は彼女ありきで計画されたもの
 ・三木春子は大勢いる被害者の中の一人ではなく、春子を騙すためにその他大勢の被害
  者が用意された
 ・条山房も韓流気道会も彼女の所有している土地を欲しがっている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


春子は木場のことをしきりに気に懸けているので、河原崎は木場が何か掴んでいるのではないかと
青木刑事を訪ねてきたのでした。河原崎の捜査では、木場は一度小石川の実家(木場石材店)を訪
れたらしい・・・実家は父親が脳溢血で倒れ、母親は華仙姑処女の信者になってしまって。そして、
実家を引き継ぐ意思のない修太郎に代わって同居している役場勤めの義弟・保田作治の妻で
ある妹・保田百合子は木場石材店の近代経営化を目論んで、みちの教え研修会の研修に参
してしまっていて、そういうのを詐欺と考えている修太郎は、「何だって俺の身内はこう揃いも揃っ
て馬鹿なんだ
」と石工の留めさんに言い、義弟の作治には、「頼りになるのはあんただけだ、馬鹿家
族を守ってくれよ
」と言い残して去って行ったとのこと。

一方、青木は河原崎から尋ねられて語ったのですが、青木は木場の下宿を訪れ部屋を見て木場が
いないこと(死んだりしていない−木場が珍しく青木に死ぬのは怖ェと言っていたこともあったのか?)
を確認し、手土産の塩せんべいを渡して下宿の小母さんから木場に就いて聞き出していました。

 ・3月の終わりから4月の初めにかけて木場がいようがいまいが週一度くらい女が訪ねて
  きていた(午後8時頃、曜日は決まっていなかった)
 ・木場は最初のうちは門前で追い払っていたがやがて二階(木場の借りていた部屋)に上
  げた
 ・木場の失踪の直前−5月の終わりころ、女は一人の男を連れて来た


青木は当初この女は三木春子かと思ったのですが河原崎の話を聞くと違うらしい・・・
いったい誰だったのでしょうか?後で判明するのですが、成仙道の信者、男は刑部だったようです。
そして三木春子は河原崎が預けた香具師のところから連れ出されて行方不明になったのですが、
実は木場と示し合わせて二人そろって成仙道に偽装入信したのでした。

青木は木場の動向を探るべく、河原崎を連れて猫目堂へ。河原崎は木場がお潤を介して春子と知
り合ったと。ところがそこに師範代・岩井と韓流気道会が。乱闘。そこに顕れたのは長寿命講の通玄
(本名・張果)と丸い眼鏡の条山房の宮田。岩井「貴ッ様−張だな。邪魔盾する気か?」−青木は、
−こいつらも−敵か。その時、遠く筋向いのビルの上には、異様な黄金の仮面をかぶった人物と異
国の風体の一団を目にしたのでした。−そう、成仙道が現れたのでした。三つ巴の三木春子を奪い
合い。三木春子の土地はそれだけ彼等には重要な土地。


さて、織作茜殺人事件で関口を逮捕した下田署です。村上寛一刑事が復帰してきました。なぜか県
警は積極的に動かず下田署任せ−関口を猿以下だとか馬鹿だと罵倒し、動機を吐かせようと暴力と
暴言で終いには関口が毀された取り調べの緒崎刑事は茜の後援者の柴田財閥や、秘書の津村が
被害者・茜に同行していた羽田隆三に気を使っていると勝手に決めつけているのですが−。警部補
の有馬・老刑事が捜査指揮を任され、捜査会議を開きました。とても不思議なことに、なぜか一人称
「私」−これは堂島静軒でした−がそこにいて捜査状況の一部始終を聞いているのです。誰も気にし
ていなかったのが不思議ですが、さすが老練な有馬はその存在に気が付き「県警の方か」と尋ねた
りしましたがはぐらかされしまいました。

有馬警部補は、各人の分担を決め、きちんと関口の供述−村人が宮城の人など−の確認がとられ
ていないこともしり、実は騒々しい下田にいたくないこともあって、自分は相棒の村上を誘って「韮山
に行く」と。で、「私」はそっと外に出て行ったのでした。

有馬と村上は韮山に行く列車に乗り込みました。
有馬は村上に、村上が隆之の捜査願を出したのを知っていて、山辺の話を持ち出しました。有馬は
山辺から村上と息子・隆之のことをよろしく頼むと云われていたこと、山辺は有馬の竹馬の友、そし
て内務省の高級官僚であったことなどを話しました。で、山辺は村上寛一の恩人でしたが、考えて
みると、村上は山辺のことは何も知らない、有馬から内務省役人と聞いてなぜ内務省の人間が自分
をと驚き、

 −俺の人生は。
 見知らぬ男が作っていたのか・・・・・・・・・・・・・


と。事実は、山辺が崩壊させてばらばらにしてしまった村上家の村上寛一への償いとしてなしたこと
でしたが、そんなことは村上は知る由もありませんでした。有馬はこのときはまだ隠していた秘密を
抱えていたのでした。有馬はただ悲しそうな顔をしてそっぽを向き、その唇は声には出さずに、済ま
なかったな
と動いたのでした。
また、有馬は戦前、15年ほど前韮山で駐在をやっていたことを明かしたのでした。村上は自分が山
辺と知り合ったのもその頃、しかしどうやって知り合ったかは皆目判らなかったのでした。

そのとき有馬から列車内がなにかおかしいと言われて村上が気が付きましたが、有馬と村上が乗っ
ていた列車の他の乗客は成仙道の信者ばかり・・・でデッキに「私」も乗っていて村上が近づいてい
くと身を隠し、最後のデッキには黄金の仮面をかぶった怪しき人物−巨大な耳、尖った鼻、潰れた
顎−(指導者・曹真人でしたが)が。悲鳴を上げた村上の耳には、遠くで有馬が自分を呼ぶ声と、刑
部の「宴の支度ができました」という声が。成仙道はいよいよかの地目指して動き出したのでした。
実は漁夫の利を得るかのように、前述の如く、三上春子の身柄は春子が信者になったことで成仙
道が手に入れたからでしょう。


ところで、薔薇十字探偵社では、前述のように条山房に後催眠で攫われてしまった中禅寺敦子、佐
伯布由=華仙姑処女ばかりか榎木津礼二郎まで行方不明。がっくりきている益田と和寅の前に、
榎木津の旧友の司喜久男黒川玉枝を伴ってやってきました。内藤赳夫を捜してほしい
と。玉枝は「姑獲鳥の夏」の久遠寺医院の元看護婦で、今は内藤の情婦。街で玉枝が必死になって
内藤を捜しているのを見て司喜久男は義侠心から榎木津探偵のところに連れてきたのでした。実は
このとき内藤は堂島と藍童子に攫われていたのでした。裏事情に詳しい司は、

 内藤は−怪しい男に唆されて、面倒なことに巻き込まれた疑いがある。背後には藍童子
 がいる(司は藍童子のことを知っていて犯罪者を食い物にするとんでもない奴だと)。で、
 7日前の6月5日、丁度藍童子に会ったその日の夜、内藤が静岡方面に向かう電車に乗る
 ところが目撃され、薬売りの尾国が同行したと。


益田は引き受けることにしたのでした。
続いて伊佐間がやってきました。ゴタゴタ続きで益田が会いに行くつもりだった一柳史郎のところに
行けないため手紙で打診していたのですが、一柳は三箇月神奈川を行商で回っていて自宅に連絡
して手紙のことを聞いたが自宅に戻るのが先になるのでという連絡を行商の途中で伊佐間の所に
寄って依頼し、会わせて、奥さんの朱美の様子が変だという話をしたと。催眠術がどうのこうの、朱
美の関わった事件の被害者が尾国に連れ去られた、尾国を追って韮山に行くとかどうのという話で
した。
そしてその後、羽田隆三が、警察に発表を控えて貰っている内密の話として身内が殺されたこと、経
営指南・大東風水塾の南雲と羽田が興した民間研究団体・徐福研究会世話人・東野の不審な行動
を洗っていた矢先のことであり、二人を捕らまえてくれと依頼。そして殺されたのは織作茜だと。
益田は羽田の置いて行った資料を読みました。益田は混乱してしまいました・・・茜・内藤。朱美。敦
子。榎木津。尾国。藍童子。条山房。韓流気道会。南雲。東野。−何だ、どうなっている!

結局、益田は京極堂を訪れたのでした。その日、京極堂には鳥口、多々良、光保が来ていました。
光保は、中禅寺・多々良の塗仏談義に居合わせた鳥口が、大陸情報ならうってつけの人が居るとし
て連れてきて紹介したのでした。何と云う偶然!

益田は、司、伊佐間、羽田からの情報を話しました。内藤の話をしたとき、中禅寺の顔が曇りました。
続いて、羽田からの資料の中の地図を広げて、益田がここですね、この場所に織作茜さんがと言お
うとした途端、光保が強い反応・・・彼が探していて関口に調査を依頼した「へびと村」でした!場は
大混乱。

次に眩暈坂を登ろうとやってきたのは青木刑事。彼は前述の猫目堂での乱闘のとき、助けられた条
山房の通玄、宮田に催眠術をかけられ意識が飛んでしまっていました。彼は三木春子と木場を追っ
ていただけで、勿論、敦子に降りかかった災難そして敦子と華仙姑処女が薔薇十字探偵社から催眠
術で攫われ、今や、条山房の支配下に置かれてしまっていることなど知る由もありせんでした。青木
が気が付くと枕元には敦子がいましたが、場所がわからない・・・青木が猫目堂に行ったのは6月6
日、この気が付いたのは6月10日。青木は丸四日間も昏倒していたかと思ったのですが、敦子は
昏倒などしていない、意識障碍ではないかと。場所はなんと韮山。河原崎もいてやはり混乱している
が歩いて敦子の所にきたと。で、韓流気道会が三木春子、華仙姑処女を狙っている理由を聞き青木
は耳を疑った・・・そして、条山房の云うことを信じるのかという青木に、河原崎は、自分が信じるの
は−この己だけといい、条山房が自分と目的を一にすると云うのなら−手を組むことも吝かでは
ない
と。河原崎の目的は三木春子を救い出すこと、春子らしき女性が宗教団体の先頭に立っている
という情報が入っていて、警察に知らせるべきだという青木に、河原崎はもう公僕として失格している、
警察が来る前に春子がどうなっているかわからないとして河原崎は(通玄に支配されてしまっている)
敦子と一緒に救い出しに行くと。青木は一人取り残された。そこに華仙姑処女が藍童子と。敦子は
条山房の催眠術にかかっていると。青木は、肚を決めて僕は東京に帰ると。で、それを聞いた藍童
子は「−くれぐれも軽挙妄動はお慎みくださいますよう、中野のお方にお伝えください・・・・・・・・・・・・・」と。
自転車を必死に洗っている駐在所の巡査(脇淵でしょう)からお金を借り、東京に戻って来た青木は
丸一日下宿で寝、心配した下宿の女房が作ってくれた重湯を飲んで人心地付き起きてから無断欠
勤になってしまっていた警視庁にただ只管謝りの電話を入れてここに来たのでした。

そのとき、増岡弁護士も丁度やって来て一緒に京極堂へ。
先客が既に4人(鳥口、多々良、光保、益田)いるところに新たに二人。中禅寺の千寿子夫人は
「今日はどうしたことでしょう。もう六人もお客様が来て−」と。
中禅寺君、落ち着いている場合ではないぞ、大変なことになったと増岡弁護士。織作茜が下田蓮台
寺温泉の傍の高根山山頂付近の樹に絞殺死体で吊るされ、関口が被疑者として現行犯逮捕された
と。皆は混乱して大慌て。で、中禅寺は、慌てるな。何一つ事件らしい事件は起きていないじゃない
か−
」と。しかし茜は殺されしかも犯人は関口だと。で、中禅寺は一緒にするなと言う。違う事件かと
問えば、違わない。ただ一緒にしてはならないと。多々良が、中禅寺はまさかゲームが続いている
んじゃないだろうな
と言っていたと言っている−中禅寺には全貌の概略がわかってきたみたいだが
軽々しく口にしない・・・わからない周りは焦り「軽挙妄動」をしてしまう・・・益田、青木、鳥口の三人が
そうでした。益田にすれば司からも羽田からも前金を貰っていて、放置できるわけがなく、しかし人手
が足りない−そこで三人で話し合い、中禅寺には内緒で、青木と鳥口を甲府に派遣、鳥口と一緒に
東野確保を行った青木は後から中禅寺からこっぴどく叱られてしまったのでした。一方、益田。大斗
風水塾は物の抜け殻に。津村秘書とも連絡が取れず。で、木場の義弟・保田が一度接触したという
話を思い出し、尋ねることに。保田によれば静岡支部に電話を入れたとき、南雲ですと本人が出たか
らそこが自宅ではないかと。で、辞去しようとしたら保田から義兄の木場のことをしつこく聞かれ・・
猫目堂のことを思い出し、女主人・お潤がどうなったのか心配になり、行ってみたらなんと中禅寺が・・・
陰に隠れて様子を窺がう益田でした。中禅寺は行方不明の木場の動向を探りに来たのでした。で、
成仙道の女が来ていたというお潤の話から、中禅寺は解りました。木場刑事は死んでいないと。
で、既に中禅寺は益田の存在に気が付いていました。益田に中禅寺は動くなと警告した筈と言い、

僕は動かない方がいいと云うことを確認・・・・・・・・・・・・・・・・しに来たのだ」と。

中禅寺にとって榎木津礼二郎の行方不明は想定内。敦子は催眠術で条山房支配下にいる限り殺
されたりしない−通玄の武術に危険な韓流気道会は歯が立ちませんから−。関口は警察の留置所
にいる。動向がわからなかったのは、唯一中禅寺の思惑から外れてしまって暴走してしまう木場だ
け。その木場が成仙道に入信していることがわかって一安心というところでしょう。偽装入信していた
ことまで気が付いていたかどうかは不明ですけどね。
中禅寺は友人・知人が殺人被害者になることを恐れているのです。だから、青木に、中禅寺に伝える
ように云った藍童子の警告を重要視したのでしょう。軽挙妄動しなければ友人・知人が殺人被害者に
るはならないと・・・既にゲームがなされていることに気が付いたと云うことです。

京極堂で、青木、鳥口、益田が中禅寺からこっぴどく叱られていた時、増岡弁護士が関口の雪絵夫
人を伴ってやってきました。静岡県警が雪絵夫人のところにきて事情聴取をしていったと。増岡は
下田には柴田顧問弁護団を数名派遣するつもりであること−自分が行きたいが弁護士が被疑者と
親しいのは不利なのでと。雪絵夫人が−あの人は−もう駄目なんでしょうか−とか細い声で優し気
に言ったのに対し、中禅寺は、−関口次第ですと。で、増岡は、「まず間違いなく起訴される。逃げ
道はない
」と。で、中禅寺は「起訴はされないと思いますよ」と。で、増岡は聞き出した情報から、
全無欠の被疑者だ
と云うのに対し、中禅寺はでは警察は何故さっさと書類送検しないのですと言い、
増岡は、動機だと。で、関口が意味不明のことを口走っているというのに対し中禅寺は、
それは昨日から話題になっている村ですよ」「関口がその村に行ったことを憶えている以上、敵は
関口を本気で嵌める気はない・・・・・・・・・・と云うことです


・・・なるほど。村に行ったという記憶までは消していないんでですねぇ。

で、雪絵夫人は、「命さえ−取られなければ」、待っているよりありませんと。
そこにそのとうり・・・と行方不明だった榎木津登場です。榎木津はあの後韮山にまで行ってきたので
した。雪絵には

 「まあ−愛想つかすなら今のうちだが−そうでないならまたあれの面倒を見る羽目に
 なるから雪ちゃんも覚悟するように。そもそもあの男はぶたれようが蹴られようが壊れ
 やしない。元々壊れているんだから大丈夫だ


と。雪絵は一言「ええ

実際には一旦は本当に毀れてしまったんですけどね。基準の違いでしょう・・・

で、榎木津は、猿は二匹いる!と。中禅寺が一切説明しないので、榎木津が代わりに説明。

 「この猿生け捕りのお膳立ては、このお喋り男を黙らせるために用意された−要するに
 嫌がらせなのだ!

 「こいつさえ黙っていれば・・・・・・・・・・・、つまり事件に手を出しさえしなければ、猿はオリから出られ
 るんだ!だから黙っていろと云うこと。それからその代わりに捕まる猿はこいつの所為・・・・・・
 で人殺しをした・・・・・・・ことになるから、これが嫌がらせ


「この生け捕りの猿」は関口、「お喋り男」は中禅寺、で、「もう一人の猿」とは内藤、「こいつの所為」
というのは「姑獲鳥の夏」で中禅寺は内藤に対し憑物落しをせず代わりに「呪いをかけた」こと
でした。

中禅寺はどういうゲームなのか、主催者は誰かには触れないまま、やむを得ず、口を開き、

 「水面下で着々と行われているゲームの方は−僕の知る限り、人の命を奪うような眼目
 のものではない。行われているのは人を殺さない規約のゲームなのです。ゲーム自体
 が殺人事件を生み出すようなことは絶対にない。事実、事件は起きていないんです。命
 にかかわるような目に遭っている者はいない。彼らは完璧にルールを遵守している。犯
 罪性はない


と。此処で益田が異議を唱えました。

 「加藤麻美子さんの赤ちゃんは亡くなっています。あの子は−そのゲーム自体の被害者・・・・・・・・・
 じゃないんですか


中禅寺の顔色が変わり、益田君の云う通りだ

 「ゲーム自体が被害者を生んでいる。このゲームは−無効

やっと中禅寺、踏ん切りをつけていよいよ立ち上がることに。ここで彼の口から「塗仏」が出てきます。

 「このゲームは塗仏のようなものだ。長い年月の間に真意は失われ、表面が要らぬ深さ
 を持って、そこに別の意味が付加されている。既に本末は転倒しており、だから捕まえて
 も暴いてもどんでん返しの裏である....くだらないゲームの真意は主催者にしか解らなくて、
 主催者は不可侵だ。(プレイヤ)審判(ジャッジ/rt>)に注文つけることが出来ない。真意が知れぬから観客
 は進行を妨げることが出来ない。騙されているのは騙している方だ


やる気十分の榎木津は「激闘伊豆だ」「殲滅以外に道はない
中禅寺「ただ−関口は出られなくなるかもしれない
そして千寿子夫人に、「雪絵さんと一緒に暫く京都にいってくれないだろうか−
−千寿子夫人はすくっと立ち上がり、猫も連れて行きます−と。
で榎木津は、「はははは、唆されたな中禅寺。つき合いは長いがお前を唆したのは初めてだ!

その前に一つ、次の会話、最初は意味がわからなかったんですが、よく考えて分かりました。

中禅寺「それで榎さん、あんた−見たのか
榎木津「見たよ
中禅寺「何人だった・・・・・
榎木津「一人だな
中禅寺「男か−女か
榎木津「男だ

この男は・・・佐伯甚八のことでしょう。実際に佐伯家で起きた惨劇の唯一の死者・・・

さあ、ゲームの上り点−元・へびと村・佐伯家へ出発です(中禅寺、榎木津、鳥口、益田、青木)。


ここで、下田署の有馬警部補と村上刑事です。
ふたりは韮山の派出所の溝脇巡査を訪れました。関口の主張するアリバイを否定した−ただし、男
は来たが関口とは顔が違うと−こともあり、再確認に訪れたのでした。
で、そのとき、溝脇巡査から見せてもらった住民台帳を見た二人、それぞれ別々の意味で自分の頭
が狂ったかと・・・

 村上刑事:父親の名前も含め自分の一族郎党と全く同じ名前が全てあった
 有馬警部補:15年前2年間この韮山の派出所に勤務したことがあり、「へびと村」という
         名前を記憶しているが、全員、そのときの住民の名前と違う


ただ、有馬警部補はへびと村の入り口には雑貨屋・三木屋があったこと、そして佐伯家の存在も記
憶していて、成仙道の行進の先頭にその入り口付近の土地を所有している三木春子がいたことから
自分の頭は狂っていないこと、成仙道の刑部が村上に隆之が妻・美代子とその中にいると言ってい
たが、有馬警部補は目を皿にして探したけど美代子はいたが隆之はいなかったことを話し、更に、

 「俺もこのままでは気が済まない、あの村に行こう。成仙道もあそこに行くと云って
 いるんだ


と。そして捜査は?と聞く村上に、今更俺達が捜査しても事態は変わらない。そして署に連絡したらど
うも腑に落ちない・・・関口が万引きしたと証言した本屋は、前日午後にも関口がその本屋に来ていた
と述べているらしいが、一方、関口はその6月10日に戸人村に行ったと云っている・・・
どうも溝脇巡査の口述は疑わしい−成仙道ってのは記憶を弄る・・・・・んだろう?と。で、村上がじゃあ親
父さんは関口があの村に行ったと?
と言ったのに対し、有馬はもし行っていたら−奴は無罪だろと。

実は有馬警部補はまだ村上には話をしていない秘密がありましたが、この有馬警部補の考えと村
上寛一が同行したことが後述のように関口無罪への一つの突破口になったのでした。堂島は下田
署で有馬・村上が韮山に行くことを知っていたのですが・・・。堂島は村上家にも別のゲームをしかけ
ていたのでしたけどね。

村上は気絶していて知らなかったのですが、有馬は、二人がいた家は、親切な娘さんが斡旋してく
れたと。上の話をしているとき、「あら−気が付かれたんですか」、今ご用意いたしますと柔らかい
口調で言って台所に立った女性が。一柳朱美でした。有馬によれば、有馬と役場でぱったりあった−
昨日(後述の乱闘に巻き込まれた)の今日で朱美は有馬のことを憶えていて事情を話したらご不自
由でしょうから昼ご飯でも作りましょうと−。朱美は沼津から人を捜してここまで来た−その男はどう
やら−あの戸人村に行こうとしていた・・・・・・・・・・・・らしいと。朱美は尾国が連れ去った村上兵吉を追って韮山ま
で来たようです。二人はもう他の誰も信用できなくなっていましたが、有馬はま、いずれにしろ、戸人
村に行ってみないことにはな
と村上に言ったのでした。


ところで青木と鳥口が韮山に到着したとき、大変な騒ぎになっていました。各地から続々と集まって
来た成仙道の大群が戸人村に向かうのを阻止する、言わば伏兵が。大斗風水塾の南雲の息がか
かった専務の小沢率いる桑田組の無頼漢らが羽田製鐵の買収中の建設予定地だから立入禁止だ
と戸人村への道の入り口に土嚢を積み、成仙道とにらみ合い。そこには韓流気道会の岩井らや敦
子を取り込んでいた条山房の通玄や宮田達そして噂を聞きつけた野次馬などでこの小さな村韮山
はごったがえし、警官隊が多数警備にあたっていて、青木らは警視庁の警察手帳をかざすことで
やっと入れたくらいでした。その前、6月14日、すわ乱闘というとき、溝脇巡査がやめろと必死の仲
裁をしようとしたのも虚しく桑田組の無頼漢により怒声とともに宙に舞い地に付す始末。で有馬と村
上が止めようと割り込んだのですが突き飛ばされて群衆の中に倒れ込むという始末。
そこに顕れたのがきっぷのいい朱美。「いい加減にしなヨ。兄さんがた、官憲弾いていったいどうし
よってサ
」と啖呵を切ったのでした。で、無頼漢が信者じゃないなら温順(おとな)しくしてな。怪我ぁするぜ
言ったのに対し、朱美は、負けていない・・・

 「洒落た口利くじゃないか。女だからって嘗めるンじゃないよ。(あたし)だって伊達に泥水
 啜って生きてないんだ。怒鳴られてすッこむ程若かァないのサ


朱美は、野郎と向かってきたニ三人の男女に、三下は引っ込んでなと牽制した上で、

 「そこのお前さん。あンただよ。喧嘩するのは勝手だけどね。仲裁に入った者まで嬲るっ
 てのはどう云う了見かと妾は尋いていますのサ。警察だろうが憲兵だろうが関係ないん
 だよ。どうなんだい!


と。これにはさすがの無頼漢の兄貴分も言い返せず憎々しげに見るだけでした・・・で、この隙に乗
じた成仙道。じゃんと銅鑼が鳴り、周囲を固められた刑部が出てきました。桑田組の無頼漢らの唯
一の武器−暴力行為を予想させて恐怖心を煽ること−は怖がらぬ相手には効力がない、脅しが利
かないなら殴るしかないが相手は膨大な人数・・・。刑部が公道を塞ぐのは法にふれるのではと言っ
たのに対して、無頼漢はそんな態で行動を練り歩くのは違法じゃねえのかと。で。刑部は無頼漢に
羽田製鐵の社員には見えない、身分は?と。これに対し、桑田組、専務の小沢と名乗り、正式に請
け負って仕事をしてるとやり返したのですが、刑部はすましたもの・・・あなたがたは土地の持ち主と
正式に契約していない、土地の持ち主が良いと云えば−ここを通っても良いですねと。
成仙道は、入り口の土地の持ち主・三木春子を取り込み、そして真ん中の土地の持ち主も成仙道に
いる−刑部はその場では明かしませんでしたが佐伯家の隠居している祖父が指導者・曹真人です
から−と。で、小沢が待て、その上の土地はと言いかけたのには、成仙道に入信していた木村よね
子が出てきて、その土地はよね子が家政婦をしている加藤只二郎の土地であり、只二郎は信者で
あるみちの教え修身会に渡す意向であってみちの教え修身会は羽田製鐵に売るわけはないと・・・。
勝ち誇る刑部の前に村上刑事が。村上は刑部とのやりとりの中で妻・美代子ばかりか隆之まで成仙
道にとりこまれてしまったと−実は刑部に垂らしこまれたのでしたが−次第に激高し、刑部に突進し
ようとしたとき、小沢率いるならずものの桑田組がトラックで成仙道の隊列に突っ込んできて大騒乱
に。頭に血が上ってしまっていた村上は成仙道信者に体当たりしていたのですが、肩を掴み耳元で
よせ」ささやいた兵隊服の男が。男は村上を突き放し、

 「馬鹿野郎!腋が甘ェンだよ!行列襲うなら胴ッ腹と決まってるだろうが

と甲高い声で叫んだのでした。朱美が気が付いたように、その男は三木春子と示し合わせて偽装
入信していた木場刑事でした!その騒動の隙に、岩井率いる韓流気道会が方士を狙ってなだれ込
んできて・・・。三木春子を巡る岩井と刑部のやりとりに木場も参入。岩井は兵隊服の男が刑事であ
ることに気づき、刑部に、刑事抱き込むのは藍童子ぐらいかと思っていたが。条山房の張と云い、
成山道といい、どうなっているんだこれは
、そして木場に、公僕やめていんちき宗教の用心棒か!
と。その間に大方の混乱は収拾し、桑田一味はバリケード前に集結、成仙道は輿の周りに、一般信
者はその外側を囲み、野次馬はかなり遠巻きに様子を窺がっていた。で、岩井は、成仙道は国家転
覆を狙っている組織だと糾弾、天誅と叫び、数名の韓流気道会の連中が輿めがけて突進。それを
木場が体を張って阻止、成仙道の道士服を着た紅巾の男達が木場に加勢。そのときやっと遅れて
サイレン鳴らしながら警官隊が到着−その場にいた数多の有象無償は、突如宴の幕が引かれて
しまったかのような顔をして止まった
のでした。それを見ていた堂島の独白、私は−ひとり大いに
笑った
と。この騒ぎの中で村上は気絶、止めに入った有馬も警官隊に殴られてしまったのでした。
前述の有馬と村上の会話ははその騒動の次の日の話です。
そしてそれは青木と鳥口が韮山に来た日です。

この日、なおも阻止する小沢率いる桑田組の前に、羽田製鐵顧問・羽田隆三の秘書・津村信吾が
黒塗りの乗用車で現れ、羽田製鐵にはその土地に本社建設の意向はないこと、桑田組に依頼をし
た南雲は背任横領の疑いで既に6月1日付けで雇用契約は解消していること、したがって今後羽
田製鐵の名前をもう使うな、そして羽田製鐵は現在南雲の行方を捜していると。そのとき、一人成
仙道の周りの人山から抜けて村の中に駆けて行く人物がいることを鳥口が発見し、追いついて取
り押さえました。鳥口が南雲、南雲正陽だなッと呼ぶと、男はがっくりと力を抜きました。

この堂島が図った悍ましいゲームは、誰かが先にゴールポスト−すなわち元戸人村の佐伯家の問
題の部屋(佐伯家の人々が皆、自分が自分以外の家族を殺害したと思わせられてきた部屋)−に到
着してしまったらゲームセットになり、中禅寺の出番は無くなってしまったのですが、南雲に操られた
無頼漢の桑田組が道に立ちはだかったためにゲーム進展が遅れ、結果的に、中禅寺によりゲーム
が無効にされたのでした。それがなかったら成仙道が一番有利だったようですね。
もし、成仙道が一番乗りになってゲーム勝者になっていたなら・・・堂島が最後に述べていたように、
刑部には堂島から別の記憶と人生が与えられ、大団円で藍童子が勝ち誇ったように云ったように成
仙道は堂島の思惑に従って藍童子により運営され、岩井が叫んだように、国家を転覆して日本滅亡
を早めさせることになったと思われます。堂島は、実質、音響催眠術で成仙道の勢力を拡張した刑
部のしたことを評価したのでした−刑部の脆さはけなしましたけどね。


前述の有馬、村上、朱美の続きです。村上は朱美が探して韮山までやってきたのが弟の兵吉だと
聞き、この事件が村上のために・・・・・・用意されたものでない限りそんな偶然はある訳がない、非常識
と信じることができず「そんなことはあり得ない!」、平々凡々として長い年月を過ごし、僅かな
波風の中にだけ一喜一憂を見てこれまで生きてきたとゆうのに、突如物語の主役になれと云わ
れても−
と。ここで朱美です。

 「−妾はね、ずっとそう思って生きてきましたサ。去年まで−
 「でも、それは違っていたんでございます

 「妾の主役は妾だった・・・・・・・・・と云うことでございます

 「−村上さんの人生の主役は村上さん自身。だから驚く程のことはないッて、そう云って
 ますのサ。同じように弟さんは弟さんの人生がある。それが今日、妾を介して交差したっ
 て、それだけのことでございましょうよ−


おお、朱美姐さん素晴らしい!−有馬は、この人の云う通りだ。俺も−漸くふんぎり・・・・がついたよ
と。そして、何より俺には、お前達家族がどうなるか見届ける責任があるんだと。村上は意味が解
らず混乱してしまったのでしたが、とりあえず朱美に詳しいことを教えてくれと。朱美が語ったことは・・・

 既に書いたように、兵吉はその昔生き別れになった家族の住所を−全部、伊豆−を知り、
 敷居が高いため迷った挙句。下田の兄をを訪ねたが会えなかった、それで親戚中を訪ね
 たが会えず沼津まできて最後に残ったのが御両親のいる場所−この韮山だった。
 ところが道のおしえ修身会に変な術をかけられ、そのうえ成仙道の刑部に唆されて沼津
 で怪我をし入院(4月の半ばのこと)。兵吉は結局3週間の入院、しかし、下宿に貯めてい
 た金は修身会に盗られてしまっていた−途方に暮れていた兵吉を朱美が町内で金を集め、
 町内の長屋を借りてやるなど世話を焼いていて兵吉もなんとかやっていたのに6月6日、
 朱美の知り合いの薬売りの尾国が連れ出してしまった


有馬は尾国の名前を聞いて、「む、村上。この事件はお、お前だけの事件じゃないぞ。 お、俺も
主役だ
」と。そして有馬はこれまで隠してきた秘密を語ったのでした。

 13年前−ある取引・・した、取引の相手は内務省の山辺唯継−村上の恩人。有馬が韮山
 から下田に配置換えになって二年目のとき、何かは言えないが警官にあるまじき・・・・・こと
 −公僕として人間として許されぬこと−をした、で、有馬は山辺の弱み・・を握っていたため
 まるで強請で助けさせた。


このとき、その「警官にあるまじきこと」についてはまだ隠していましたが(結局、大団円の最後の方
で隆之の前で明らかにしました)、強請のネタは−戸人村に関すること云い、次のことを語りました。

 昭和12年の夏、ずっと音信が途絶えていた山辺から連絡が入る。山辺はエリート−
 警保局の保安課で特高の拡充などに奔走していた−。有馬に、非常に大切で内密の
 仕事の依頼だと。その頼み事とは、隠密裏に戸人村に入ってあるもの・・・・調査したいから
 協力してくれというもの。で、あるものとは不老不死の仙薬。有馬は信じられる訳がな
 く笑い、そのとき電話の向こうで山辺も笑ったのだったが・・・秋になると本当に山辺の
 使いがやってきた。尾国だった。尾国は軍人であり、尾国と云うのも本名ではなかった。
 その後、山から佐伯の娘が逃げて来た。何かがあった・・・・・・。靴に血が付いていた。

 有馬は娘を保護して尾国を待ち、尾国に娘を渡して・・・・・・・・凡てに眼を瞑った−有田は翌日下
 田署に移された



閑話休題。加藤只二郎に関する話−磐田純陽との会話、そしてラスボス・堂島静軒との会話−が
ありますので、これにも触れておきます。

只二郎は磐田に、孫娘の麻美子は華仙姑の術にかかっていたことを知って訳の解らん世迷言(ひょ
うすべの件)は自分が間違っていたことがわかったと手紙で只二郎に書いてきたとことを報告。
ただ、麻美子は華仙姑は慥かに悪質な詐欺だが磐田も同じく詐欺として只二郎に脱会を薦めよると。
で、只二郎は成仙会に入信しているお手伝いのよね子がそれを煽っていると。
磐田は只二郎によね子を俺に預けろ、元の人格に戻してやる・・・・・・・・・・と。これに対し只二郎が「あんたの遣
り方を批判する訳ではないが−その記憶を弄るのは・・・・・・・
」と云ったのに対し磐田は「もう弄られておるの
だ。元に戻すだけだ
」。結局、只二郎は雄弁に語る磐田の言い分に儂の考え違いじゃ、あんたに任
せよう
と。 しかし、只二郎にはまだ迷いがありました。それを堂島に突かれてしまいました。

 磐田純陽はこんな男一人篭絡出来ないでいる。ならば無能と判定を下されても致し方あるまい

儂は解らん、助けてくれと云う只二郎に堂島には

 「判定者ジャッジはね、どこにも加担してはいけないんですよ。判定は常に公平でなければ
 ゲームと云うのは面白くないのです・・・・・・・・・・・・・・・・。だから−

 だからそれはあなたが決めるんです・・・・・・・・・・・・・・・・ と。

くどいですが、恐るべき思考の持ち主の堂島が企んだ悍ましき実験−堂島が楽しむゲーム−の駒
にされた佐伯家、同居の甲兵衛、癸之介、亥之介、乙松、布由以外の玄蔵と岩田は現地に土地の
権利がない・・・それで、岩田は加藤から土地を譲り受けようとし、玄蔵を担いでいる宮田らは三木
春子を取り込もうとしていた−韓流気道会はそれを妨害しようとした−のでした。

さて、青木らは駒のうちの二人−南雲正陽と東野鉄男を取り押さえました。彼等には催眠術を使う
参謀がおらず・磐田純陽のように自ら使うこともできず、共に羽田製鐵顧問・羽田隆三の資金がそ
の代わりになっていました(津村は誤解していて南雲正陽を使って東野鉄男をあぶり出そうとして
いたのでしたが)。で、やっと捕まえた南雲の語る話は青木には信じられないような話でした。
で、南雲はくんぼう・・・・様は実在するのだと主張しましたが、青木から

 「どうしてあんたはそれを知って・・・・・・んだ

と聞かれたとき口を開けたまま硬直したのでした。

6月17日となりました。いよいよ決戦の日。

午後八時。篝火が焚かれ、銅鑼が鳴らされて多数の人々が立ち上がった。いよいよ戸人村への出
発。益田はまずいと−確認することがあると云っていた中禅寺はまだ姿を現していなかったのであ
る−。しかしながらまだ桑田組は抵抗をして凶器を持って通さないようにと身構えたのでしたが。
益田は東野の腕をとり行きますよと。益田達はは成仙会の後方の信者に紛れて。そのとき、後ろか
ら悲鳴が・・・褐色の衣服を纏った浮浪児たち−藍童子に操られた−が襲撃してきたのでした、で、
前方では桑田組と韓流気道会が乱闘を。益田のすぐ横で止まるな!方士の輿を止めるな。後方か
ら攻撃される。突破しなさい
との声が。やがて多勢に無勢。桑田組がバリケードにしていたトラックが
1台倒されました。で、益田の眼に敦子が−でも呼んでも声が届かない、青木も鳥口もいない・・・
そのうち角材を持った信者が「死ねぇ」と襲ってきて・・・有馬刑事(でしょう)がその男に当て身を食らせ
て助けられました。
道士が奇声を発して襲ってきました、薙ぎ払った棒は折れてしまい、もう駄目だと思った時−ついに
とてつもなく強い味方が現れました(^^♪榎木津礼二郎参上です!榎木津に、この馬鹿オロカ。遅い。
遅すぎる。もうトリちゃんは山に行ったぞ。
そして、子供や女性や老人や弱い奴は最初から戦線を
離脱しているからお前なんかが心配することないぞ。今乱闘しているのは乱闘専門の馬鹿野郎ば
かりだ。さっさと行け!行け下僕
と。
片や、しり込みする南雲正陽を連れた青木刑事と鳥口組。敦子を見つけ冷静になれない鳥口は敦
子を助けに行くと駄々をこねて・・・青木が必死に説得。結局、鳥口は自分は冷静になれないから南
雲を連れて先に行くので敦子さんを頼むと。鳥口はうまく立ち塞がる警官隊を迂回し先に。青木は
警察官を突き飛ばし混乱の只中に飛び込んだので敦子を探すが、鹿砦をぶち壊している木場の姿
が目に入った。青木を桑田組の男が襲ってきた・・・拙い・・・そこに河原崎刑事が。
青木「松さん!敦子さんは
で、河原崎「無事です。今、通玄先生とその中に−
青木は鹿砦の上に益田を発見。

そのとき、警官隊の隊列が乱れて・・・禿げ頭の兵隊服の大男−川島新造−とその横には光保が。
そしてそのときぽんと背中を叩かれ、「こんなところでぼうっとしていると死ぬよ」と。榎木津礼二郎
参上!そして・・・中禅寺到着!川島新造は榎木津と木場の友人。中禅寺を守る守備兵として頼ま
れ助っ人に来たのでした。で、中禅寺は、「すまない。遅くなった。彼を見つけるのに手間取ってし
まってね
」「この人が−1年前僕が憑物を落とさなかった・・・・・・・・・・もう一人の関口君だ」−内藤赳夫でした。


先行している鳥口は、成仙道−曹真人の輿、刑部、紫の唐服の道士−、韓流気道会の残党、汚れ
た身なりの浮浪児達、その後に不安気な表情をした華仙姑が目に入った。そこに榎木津が登場。
榎木津は何を愚図愚図しているのだ、早く行けと。そしてさあ来い、来るんだ迷える下僕!と言って
鳥口の手を掴んで水先案内を。先では成仙道の刑部と韓流気道会の岩井がにらみ合いを。鳥口は
未だ事態を理解できず、奴らは−いったい」というのに対し
榎木津は、「あのなトリちゃん、この小父さんもあの爺さんもあの凄い爺さんも、それぞれ何が欲し
いんじゃなく隠したいんだよ。欲しい、欲しい、と思っているのはあのオカマみたいな男とか、あの
怪我をしている男だな
」と。
小父さんというのは韓流気道会の韓大人、あの爺さんというのは成仙道の曹真人、あの凄い爺さん
というのは条山房の通玄(張果)、オカマみたいな男とは刑部、怪我をしている男とは岩井のことで
しょう。鳥口は隠すとはどういう意味だと混乱。榎木津は、クラゲダよ−−くんぼう様と。
そして榎木津はここで篩ねと−榎木津はここで選別するつもりのようです。まず気道会の二、三人を
崖から突き落として。後を見た川島新造さえ眉を顰めたようにむちゃくちゃの暴れようでした(笑)。

中禅寺は8人そろわないとと・・・8人とは、成仙道の曹真人、韓流気道会の韓大人、みちの教え修身
会の磐田純陽、条山房の長寿延命講主催の通玄(張果)、華仙姑処女、南雲正陽、東野鉄男+藍童
。で、尾国は?言わなくても間違いなく自分で登場するだろうと思ったのでしょう。


青木らと合流した中禅寺です。その道行で前述の中禅寺の過去の話をしました。そして、聞こえてい
ますか?と。まず一柳朱美が現れました。中禅寺の「村上さんは見つかりましたか?」と問いに朱美
は「それがねェ。お兄さんがみつかりましたのサ」と。そして、有馬と村上貫一が現れました。中禅寺
は村上にとってはショッキングな話をしたのでした。

 「この事後処理は口止めではない。一種の歴史の改竄なんです。村上家の個的な
 伝承を国家がそっくり頂いてしまおうということですからね。

 「だから彼等は−村上家を解体した・・・・・・・・

と。皆意味が解らない・・・。中禅寺は更に、

 ・陸軍のその男は物理的・生物学的不死には懐疑的な見解を持っていた
 ・その男は矛盾を矛盾のまま無矛盾的に統合してしまうという特性を特性ではなく欠陥
  と認識。
 ・矛盾を抱かえた主体は不完全だ−と考えた。
 ・主体は非経験的純粋概念に忠実であるべきと考えた

 だから彼は−その実験をした

 憎み且つ敬う。疎んじ且つ慈しむ。これは矛盾−どちらかが嘘であるべき・・・・・・・・・・・
 「だから実験したのです。その人間の本心はどちらなのか・・・・・・・・・
 「障害となる条件を一切排除してしまったら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうなるか

中禅寺は、その上で、今だから云えるがと断った上で山辺は、反戦主義者で勿論反暴力・反武力を
貫いた人ゆえ彼の「不老不死の仙薬」捜索プロジェクトでは、殺人などはご法度。しかしながら、民間
人に秘密を守り抜かせることは難しい
−で、あの男の諫言を呑んだ:選択するのはあくま
で個人でありレールをつけてやればよい−
と。
で、山辺は村上貫一への家族を奪った償いで村上貫一に家族を与えたのでした。
一方残った12人の老人たちは、まるごと歴史を摩り替えられる・・・・・・・・・・・・・・ことに。−空き家になっていた・・・・・・・・・戸人
村に隔離されてしまったのでした。それはどこまで騙し続けられるかと云う実験でもあった訳−記
憶を操作すると云うことは過去を変えると云うこと。つまり短いスパンで歴史が改竄できると云うこ
と−


ここで重要なのは、貫一・兵吉兄弟は過去の記憶をいじられてはいないということです。ですから、
中禅寺は貫一に

 「これからあなたはお父さんに会うことになる訳ですが−。あなたが失ったモノと
 お父さん達が失ったモノは違うモノなんです。善く−心得ておかれた方がいい


と。

そのとき、有馬が戸人村の連中は−どうなってしまったのだ、これを受けて青木が村民のおう殺
事件は−
−その、不死身のくんぼう様の−有馬らには訳わかめの話。で、中禅寺は闇に向かっ
あなたが説明しますかと。
闇の中から一人の男が現れました。中禅寺は、羽田製鐵取締役顧問羽田隆三の第一秘書で15
年前の戸人村皆殺事件の目撃者である津村辰蔵さんの一子−津村信吾
さんと紹介。更に
織作茜の同行者−今回の旅行の日程を決め宿を取り自ら運転もされたと。そして、辰蔵の死後、
津村母子の面倒を見たのは山辺、辰蔵は山辺と陸軍の男の戸人村に於ける機密作戦を知ってし
まったために命を落とした
−憲兵に連行され戻ったときは廃人になっていて自殺−。で山辺が引き
取ったときはもう壊れていた、だから山辺は責任を取ったのだと。津村はそんな話は知りません・・
で、中禅寺は津村に、あなたは騙されている・・・・・・・・・・、騙したつもりでしょうが騙されているのはあなたです
そして、南雲を使って東野の罪を暴こうとしかし残念ながら東野は犯人ではないと。
中禅寺は織作茜の動向を誰かに報告しませんでしたか−あなたに東野の罪を吹き込んだ男。そし
て南雲をあなたに引き合わせた男。山辺さんが亡くなったときにあなたのところに知らせに来た男−。
津村には心当たりがありました・・・中禅寺は

 「彼は審判として−ゲームの進行を妨げるものを排除する必要があった。しかし審判
 である以上、参加者との直接接触を避けたい。だから、それぞれにセコンドをつけた
 かっただけですよ−あなたは目をつけられてしまったのです


すっと明かりがさし、登場人物がまた増えました。条山房の通玄、宮田そして敦子。中禅寺は宮田
に「僕が中禅寺秋彦・・・・・です」と。そして、妹が世話になったとお礼を。

通玄(張)「君は−何を知っている
中禅寺「全部すべて
張「何−そうか。君が白沢か。それでは−この世界の秘密を聞かせて貰おうか
中禅寺「それはもう少し我慢してください

張は頷き、敦子に兄さんの所に行きなさいと。張は何かを感づいたようでした。中禅寺に凡てが無効・・・・・
になってしまうのだろう。そうだな、中禅寺君
と。そして、布由が生きておった以上−ある程度の予
想はついている。儂の負けだ。勝ちたいと思うたらその瞬間でもう負けだ。儂はこの男には勝てぬ。

と。そして、

 「言葉は賢者が天地を動かすために用いる手段だ。分別なくして使えるものではない

そして、敦子に兄の許へ行けと。敦子の掛けられていた術が解けました。「兄さん−」「馬鹿者
そして中禅寺は粋なことを・・・

 「さて−ご覧なさい。あそこに神が遊んでいる。早く通過しなければ疲れて帰ってしまう−

「神」(笑)−京極堂シリーズファンなら皆ご存知、そう我らが榎木津礼二郎!今回は破壊神ですか。


一行は戸人村に到着。成仙道の残党が20人くらい道を塞いでいた、気道会生き残りが数名、地べ
たに倒れていて・・・岩井/韓と刑部/曹が対峙していた。中禅寺は休まず進んで・・・
横の柿の木から遅い。寝るところだったと榎木津が。中禅寺に言われ、実は寝ていたと。で、まだ
雑魚がいる
と。そこに雑魚扱いはあんまりだなおいと木場登場。幼馴染の榎木津と罵倒の云い合
い。そして、榎木津対木場&道士の戦いが開始、榎木津は「行け」と。中禅寺はもう抜けていた。鳥
口にかけられた言葉だったのでした。

遅れて東野を背負った益田、光保そして守護兵役の川島が戸人村到着。成仙道らしき男らが地面
に伸びていた。既に榎木津らも立ち去っていた。川島は、ここで見張る、誰か来たら食い止めるから
と。光保の案内で東野を背負った益田は佐伯家へ。有田がいて、中禅寺が中で待っていること、既
に磐田純陽もきて残るは益田の背負ってきた東野だけだと。

さあ駒の佐伯家7人と代役でジョーカの藍童子の8人が揃いました。大団円の開幕。
凶相の中禅寺は、

 「さあ幕だ。くだらないゲームは終わりだ!

と。そして、どういう趣向だ、お、お前、これは、いい加減にそ、そこをどけと云った刑部に

 「まだ気がつかないのか刑部!ここにそんなもの・・・・・がある訳がないだろう
 「あんたもだ岩井。それから宮田さん
 「判らないのか岩井!僕は中禅寺だ・・・・・・

そしてあんた達は馬鹿だ。どうしようもなく馬鹿だ。張さん。あなたはもう判っている筈だと。
頷く張。疑ってはいたが、これでは−疑いようもないと。華仙姑−布由、東野−乙松、南雲(亥之介)
に顔を上げてよく見ろと、曹の仮面を剥がした・・・甲兵衛でした。皆混乱。で、中禅寺は

 「まだ解らないのか!この人達は佐伯家の人達だ!いいですか。大量殺人など
 なかったんだ。あなた方はあなた方の家族を殺してなどいない!

 あなた方の家族は全員ここにいる・・・・・・・・・・・・・・・

藍童子には、悪いが子供は少し引っ込んでいてくれないかな、大人の話があるんだと云い、いい
加減に出てきたらどうだ!こそこそしていても始まらない。これからこの家族に真実を話します。あ
んたが居なけりゃ話にならない
と。で、尾国誠一が登場しました。

中禅寺「お初にお目文字致します。尾国さん−いや、元内務省特務機関山辺班の
   雑賀誠一さんとお呼びした方がいいのかな

尾国「あんたが帝国陸軍第十二研究所の中禅寺少尉か。流石は堂島大佐の懐刀−
   侮れないな−


互いに相手の存在を知っていたのですがこの時が初対面でした。さあ、言葉の力を武器とする中禅
寺と凄腕の催眠術師・尾国との対決です。尾国が貴様の技は俺には利かぬぞと云ったのに対し中
禅寺はお互い様だろうと。そして尾国の

 「こんな連中救ってどうなる。面白いじゃないか。とんだ家族の再生だ。今時こんな
 ことして喜ぶ馬鹿は頭の枯れた戯作者くらいだぞ!


と云ったのに対し中禅寺は、

 「僕のことは云えない筈だ。あんたこそ−とんだ浪花節だな−雑賀さん

と応酬。中禅寺はもう凡てを把握していて、また恐らく効果を狙って「雑賀さん」と呼んだのでしょう。
尾国がそれこそ昔の名前だよと云ったのに刑部が反応しました。刑部は雑賀の名前は知っていた
ようです−ヒステリックになり、こいつが雑賀だと!貴様どう云うつもりだっ。邪魔ばかりしおって!
と−。尾国はそんな刑部を馬鹿にして、てめえが間抜けだけだろう。中禅寺の詰めの垢でも煎じて
呑むんだな
・・・刑部は玄関に居た敦子を突き飛ばし屋敷に躍り込んだが青木に侵入を阻止され屏
風の後ろに回り込んだが、そこにいた朱美の見幕で後退、土間に転げ落ちたのでした。朱美ねえさ
んここでも狂乱状態の刑部侵入をが〜んと阻止した見事な一発・・・

 何だい取りみ出してみっともない。叫びたいのはあたしも一緒。御託並べて虚勢を張って
 るうちゃア一端いっぱしの悪党かと思ったけど、それじゃあまるで負け犬じゃあないのサ


そして尾国に対して随分と妙なところでお会いしますね尾国さんと。これに対する尾国のあんたァ
巻き込みたくなかったが
が尾国の人間的弱点をさらけ出しており、中禅寺にはそこをつかれ結局
敗北してしまいます。で、刑部は袂から短刀を取り出し、庭に回り込もうとして、奇声を上げ鳥口と
坊主頭の男−河原崎刑事に襲い掛かって来ましたが、その腕は、茂みの横から飛び出してきた大
きな影に捩じ上げられたのでした。なんとそれは木場でした!木場からおいおい。ここにゃあ笛も
太鼓もねえんだぞ、コラ。勝ち目がある訳ゃねえだろうが。あの爺ィのお面まで取られてよ。じたば
たするんじゃねえよ
と。で、刑部は貴様−裏切ったなッ。木場の榎木津との乱闘まで見ている青木
も驚いたのに対し、木場は

 俺を誰だと思ってるんだよ。その辺のボケじゃねぞ。俺がこいつ等のへっぽこな催眠術
 にかかる程、性根が真っ直ぐな男じゃねェってことぐらいお前も知ってるだろうが!


と。そして、占いでモノの知れる道理はないと思っている木場、三木春子が攫われたとき、春子の
居所を知っているという成仙道の女が現れ、それで疑い、三木春子と示し合わせて納得ずくで入信
したと。木場の無断での仲間も騙した潜入捜査だったということでした。青木を驚かせた榎木津との
対決も榎木津はあんなものはふたりの間では「こんにちわ」という意味だと。語らなくても木場の幼
馴染で付き合いが長くかつ榎木津の特異体質から一芝居うっただけでしょう。宮田が逃げ出そうとし
ましたがその武道の力を知っている張に拒まれました。

中禅寺側は榎木津、木場の大物がそろい踏み、云わば京極堂グループの妹・敦子、下僕三人組−
鳥口、青木、益田−そして、下田署の有馬警部補・村上刑事、目黒署の河原崎刑事、朱美、佐伯家
の7人、堂島に騙されて利用されたセコンド役の刑部・岩井・宮田そして津田更に藍童子が固唾を呑
んで見守る中で、中禅寺と尾国の言葉での対決が始まりました。尾国が中禅寺に中中善い手下を
持っているな
と云ったのに対し、残念乍らあれは手下ではない。腐れ縁の友人だと返し、それに対し
て尾国がそう云うところが貴様の悪いところだ−あの人は善く云ってたがなと言ったのにはあの人
に好かれるような人間だけには−なりたくないな
と返した中禅寺でした。
まだ中禅寺も尾国もその名前を明示していませんが、勿論、「あの人」とは堂島・元大佐。中禅寺が
係わりたくない(今回のことで相談した中禅寺が尊敬している築地の明石先生からはあんな男に関わ
るなら絶交だと脅かされたようです)世界で最も嫌いな男です。

中禅寺は、ことここに至っても理解できない佐伯家の面々を彼らが他の家族を鉈で皆殺ししたと思わ
された部屋に連れて行きました。そこには死骸も惨劇の痕跡もありませんでした。それでも自分の過
去の記憶に拘泥している佐伯家の面々、いち早く色々と気が付いた張=玄蔵でさえ、

 「頼む。このままでは−儂等はどうにかなってしまいそうだ。儂等の記憶が−弄られて
 おったと云うことだな?


と。

 本末は転倒して−。騙しているのは騙されている方だ−

中禅寺は、そうです−といい、判明した他の村人のことを語りました。

 皆さんちりじりですが多くは東北、宮城県にいる。

 「この村の住人達は一人残らず己の意思で村を捨て、自活しているのだと思い込んで
 いる。但し、皆一斉に村を出た・・・・・・・・ことに関しては誰も気が付いていません


15年前の6月20日(惨劇があったとされた日)の数日後のことでした。
佐伯家の面々はようやく洗脳されていたらしいことに気が付きましたが、その意味がわからない・・・
中禅寺は

 「自覚はないでしょう。しかしあなた達が騙されたこと自体が一つの罪なんです

意味が解らないと言うのには、追追解るでしょうと。そして、既に前記したように、

 「最初にこの部屋に辿り着いた者だけが真実をしることが出来る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と云う−これは
 そう云うゲームなんですよ


と。続いて既に前記した真相を語りました。で、いくら身構えていても結局、尾国は中禅寺の技に嵌り、
自らの口で補完的に真相を語ることになったのでした。山辺の指示は村人全員、自発的に村を出る
ように仕向けろ
というものであったこと−簡単なことで村人の不満を剥きだしにさせてやっただけだ
−。で、あの人はどっちが本当なのか確かめろと。
佐伯家の面々も表向きと違いそれぞれ各人が不満を抱いており、尾国はそれを剥き出しにさせたの
でした。
熊野の村上一族に先行して計画され、直後に行われた熊野−村上一族の解体は巧く行ったが、戸
人村ではそれができなかった−前述のような初音と甚八に係わる事件が起きてしまったから。尾国
見てもいないことを−と云ったのに対し中禅寺は、証拠ならここにある−と自分の後ろの床の間
を見たのでした。尾国は真相を語りました。

 尾国が岩田を連れて佐伯家に来た時のこと−それは鬱屈を抱いていた岩田を利用して
 佐伯家の溝を徹底的に広げてやろうという意図であったが既に佐伯家は滅茶苦茶になっ
 ていて必要がなかった。男たちが玄関先や屋外で争っている隙に甚八が初音を襲ってい
 た。事が済んだ後甚八は謝ったが初音は許さず、物凄い形相で、甚八が脅しに使った鉈
 を手にし、甚八を床の間まで追い詰め脳天を割った−布由はそれを見た・・・・・。布由は悲鳴す
 ら上げられず這って入ってきて、放心した母親に縋りついていた

 あの人は大陸に渡らなければならず時間がなかった。
 尾国は衝撃が強すぎて心神を喪失していた布由に強い暗示を与え、麓の駐在所に行かせ
 た。着替えさせ、手を洗わせ、走れと。とにかく山辺さんに連絡を入れろと。

語っているうちに尾国は次第に冷静さを失いつつありました。あんたらは屑だよ。奥の間の秘密の
方が、あの女より大事だったんだ
と激高。
尾国は山辺に調査を続行するなら強制収容しかないと云ったのですが山辺はそれは殺人と同じだ
と拒否。で、堂島の出番-宮田博士が薬物使用で村人を一斉に譫妄状態にし、岩井中尉が村民の
移送任務にあたり、刑部博士が後始末をしたのでした。で、人手が足りないため、堂島は秘密を
垣間見てしまい吹聴する津村辰蔵を憲兵隊の手に渡したのでした・・・
辰蔵は憲兵隊を盥回しにされ、最後に取り調べたのが長野の憲兵将校だった朱美の夫・一柳史郎。
彼は憲兵隊の仕事が嫌だった人物。辰蔵から何か聞いて真に受けていないかと尾国は史郎を見
張ることになったと。

ここで、中禅寺が推察の暴露発言・・・尾国の弱点は「女性に甘い」こと。
初音は身籠ってしまい、尾国は初音を匿い、その子を産ませて育てたと−尾国は、山辺から子供を
産ませるようにと指示されたと。ただ、堂島は初音だけ特別扱いにはできないと言ったが初音は産
後の肥立ちが悪くてすぐに死亡したと。で、その子供が藍童子(彩賀笙)でした!−だから彼は−初
音さんの代わりにゲームに参加させられているのですね。但し−道化札ジョーカとして。


尾国はもう取り乱していた。中禅寺は、尾国さんは母性に強い憧憬を持っている。そして家庭に酷
く執着を持っている。そして強い自己暗示でそれを打ち消している
といい、勝ちを確信してか、

 「あんたが後催眠を使うなら、僕の武器は言葉だ。しかし尾国さん、催眠術など所詮
 意識下にしか語りかけられない。だがね、言葉と云うのは意識の上にも下にも届く
 だ。軽はずみに催眠術なんか使う奴は−二流だよ


と。そして、黙った尾国に代わって、尾国にとって佐伯家の面々の「罪」とは、初音のことを解ってや
らなかったこと、それで各々が不満を持っていたこと
−それが尾国には我慢できなかった。それで
最初は他の村人と同様ただ別の場所で人生を送らされる筈だったのを、罰として、互いに互いを殺
したと思わせることにした(但し、布由は仲居になった昭和17年の段階で記憶が遡って改竄された)
−しかしそれだけでは面白くないと云ったやつがいた−如何にも中国気質かぶれのあの男らしい悪ふざけ
だよ
と・・・八仙に見立てた名前を与えた−

 何仙姑−華仙姑、張果老−張果、韓湘子−韓大人、曹国舅−曹真人、
 漢鐘離;字は雲房、号は正陽子−南雲正陽、呂洞賓;道号は純陽子−磐田純陽
 李鉄拐;東華教主−東野鉄男、藍采和−藍童子(彩賀は雑賀の雑を采に合わせた)

中禅寺は、

 「面白いゲームをやっている。壊れた家族が家族同士で争ったら誰が強いか−その男は
 僕にそう云いました。今それぞれを仕込んでいる、この戦争が終わったら本格的に始め
 ようと思うと


と。中禅寺が「まさかゲームが続いているんではないだろうな」と呟いたのはこれを記憶していたか
らでした。気が付くとしたら中禅寺しかいないというのは蓋し当然のことでした。

中禅寺は更に、

 皆殺しの嘘の罪の意識を埋め込まれた佐伯家の面々にとって、戸人村は絶対に封印
 しておかなければならない場所。幸い戦時中は封鎖されていたが、やがて封鎖は解
 けるので、そうなれば先に来て証拠を湮滅しなければならない−互いに相手が死ん
 でいると思っているので、各人は怪しげな連中が様々な理由でこの土地を欲しがって
 いると思ったのでしょう。....戸人村には犯罪の証拠が隠されている。だから絶対に
 渡す訳には行かない


 「だからあなた達に与えられた新しい人生は、己の罪に戦き乍ら周囲を巻き込み、異形の
 技を駆使して知らぬうちに家族同士争うと云う−とんでもないものだったのです−


と。また、ゲームの約款に関しては、

 最初にここに辿り着いたものだけが真実を知ることが出来る
 勝者だけが欺瞞に気づき、あいつが出てきて新しい人生を与える
 誰か一人が辿り着いた時点でゲームオーバー、残りの敗者は一生ここには来れず
 生涯罪の意識は消えない、セコンド役(華仙姑の尾国、成仙道の刑部、韓流気道
 会の岩井、条山房の宮田)は負けたら駒に手を引かせる


というものだったろうと。そして、

 「あなた達家族は己の罪を隠すため、この手下どもを欺いて利用したつもりでいた
 のでしょうが−実のところあなた達は、手下の方に操られていただけなんだ。そして、
 佐伯家の人人を操っていたつもりのあんた達一味も−また欺かれていたのだ


真っ先に反応した岩井には、岩井、ここには零銭はないぞ、お前も知ってるだろ。あの明石先生
に聞いたんだよ
と。
で、まだ、あの人は−お前の言葉に気をつけろと云っていたぞと中禅寺が不老不死の薬などない
ぞというのを信じなかった刑部にはこの中のモノは−とっくに調査済みだと。

ま、普通、多くの人間は自分が綿々と信じてきたことが嘘だったとなると自分の人生はなんだったか
ということになってしまいますから刑部・宮田は中禅寺の言うことなどとても信じられない・・・

しびれを切らした榎木津、抵抗する当主を突き飛ばし、中禅寺の待てというのには僕は探偵だ。
偵と云うのは秘密を暴くために存在する
のだ。人が傷つこうが滅ぼうが泣こうが関係ないぞ。それ
が仕事だ!
と言い、床の間に乗り、思い切り掛け軸を蹴飛ばしたのでした。ぎいと音がして異界の入
り口−家族の秘密が黒い口を開いたのでした。榎木津は燭台でその中を照らし、さあ善く見ろと。
祭壇の前には転がって干からびた佐伯甚八の死体。檀の上には古文書−白沢図。そしてその奥、
光保が、「くんぼう様が−」と。で、中禅寺は秘密を明らかにしました。

 「刑部。宮田さん。それに佐伯家の皆さん。これは不老不死の生き物なんかじゃないんだ。
 これは−新種の変形菌植物・・・・・−所謂粘菌・・ですよ
」「もう−殆ど死んでいる。長い間世話をし
 なかったからだ


榎木津は中禅寺の制止を振り切り、「くんぼう様」を蹴っ飛ばしてばらばらにしてしまいました。
座の殆どは放心していた−騙していたつもりの者どもは悉く騙されていたのでした。で、

 「どうだ尾国さん。このゲームは茶番だ。勝っても負けても誰も得をしないし、誰も救われ
 ない。勝つことに意味はない。喜ぶのはあの男だけなんだ


それでも強がって「俺は騙されていない」「関口は−出て来れなくなる」と言う尾国に、更に中禅寺は、

 「出すよ。あんたこそこの後どうする気だ。あんたはもう布由さんの信頼を失った。あんた
 のしたことは初音さんが望んだことじゃない。初音さんはあんたが壊したんだ。あんたが
 殺した。あの男の口車に乗って踊ったのはあんただよ


そしてさらに畳みかけました。

 「あんたはあいつじゃなく山辺さんを信じるべきだったんだ。山辺さんもとんだ相棒を持った
 ものだよ。あの平和主義の晩年は惨めなものだったそうだ。あんたはそんな山辺さんを捨
 ててあいつに寝返ったんだ。この−人殺しが

 「尾国さん。情けないな。あんたは−僕なんかよりずっと弱いじゃないか−

とうとう尾国は落ちてしまいました。しかしながら、それを見ている冷たい目線がありました。
堂場から中禅寺の技を仕込まれた悪魔のような少年−藍童子でした。彼は既に尾国の弱さを見抜
いていて、尾国が落ちたときには自分の手を汚さず邪魔になる尾国の抹殺を企てていました。
中禅寺が見抜いたように、尾国の「家庭に執着を抱いている」ことをまんまと利用したのでした。
伏兵として、藍童子に翻弄された前目黒署の岩川を連れてきていました。藍童子は尾国が自分の
盾になることを見越してでした。岩川は藍童子目掛けて包丁で襲い掛かり、藍童子の思惑通り尾国
が庇って刺されて死亡しました。その後、藍童子は勝ち誇ったように中禅寺にそれを告げたのでし
た。自分はゲームの主催者側だったとか、関口はもう出られないとか、成仙道は自分が貰うことに
なっているとか・・・

しかしながら、そうそう問屋は下ろしませんでした。有馬刑事と村上刑事が・・・

有馬「藍童子。随分とややこしいことしてくれたようだが−
  今しがたこの村の今の住人−元熊野新宮の村上一族の呪縛は−解けたぞ

村上「ああ。熊田有吉−私の叔父が証言した
  「6月10日午後−この写真の男−関口巽は慥かにこの村を訪れた−のだそうだ。
  叔父は何かも思い出した。ここに来る前のこともな。記憶の封印は解けたんだよ。
  俺がここに−来たことでな


そうなんです。村上家は兵吉が家出⇒攫われてしまった⇒我慢してきた長男貫一が父の心が自分
にあらず兵吉の失踪について自分を責めたことで怒って自発的に家を出てしまった訳で、この二人
は残りの一族郎党とは違い記憶改竄はされていませんでした。ですから、両者が接触すれば記憶
改竄をされていた方の封印が解かれるという構成のものだったわけです。尾国はそれに気が付いて
兵吉を接触しないように伊豆七島の方に連れて行ってしまった訳ですが、貫一が残っていた訳です。
藍童子は恐らく知らなかったんでしょうね。だから、嘘だ、そんな証言できるわけがない−と喚いた
のでしょう。藍童子に、中禅寺は

 「残念だが藍童子。君の計画は失敗だ
 「どんな証拠に勝るものを僕は持っている。さあ内藤君−這入りなさい!

驚く藍童子が、まさか、この内藤を警察に突き出すつもりじゃないでしょうねというのに対し中禅寺は
勿論そのつもりだ、で、藍童子が−この内藤の殺人の動機を造ったのは貴方ですよ!貴方が原因
で−それでもいいのか
と言ったのですが、中禅寺は、

 「それがどうした!

 「あのな坊や。勘違いするなよ。このくらいの覚悟はなくて憑物落しが勤まるかッ

そして、驚きはその内藤です。厳しい山道を自分に呪いをかけた張本人の中禅寺についてきたこと
自体不思議な気がしたのですが、藍童子に対して驚くべき発言を。

 「馬鹿にすんなよ小僧。俺はどうしようもない屑だがな−それでも俺のやった
 ことは俺のやったことだよ。この人の責任じゃねえ。お前の術にかかってしたことでもね
 えよ。もしそうだとしても頚絞めたのはこの手だよ


 「俺なんてモノは、操られてようがそうでなかろうが俺には関係ねえ。だが−俺の躰は俺
 のモノだ。おい小僧。この人はそれを解れと−そう云ったんだよ。そう呪いをかけたんだ。
 俺はそれが解らなかった。だから自分の影に怯えて、お前みたいな小僧にだまされたん
 だよ。でも−解ったぜ祈祷師の旦那よ


内藤はそう言って、

 「おい警察!俺が織作茜を殺したんだ。この手で。俺を捕まえろ。自首だ!

事ここに至っても悪あがきする藍童子、内藤を奪えと連れている浮浪児集団に号令を。で、村上は
その中に息子・隆之を発見、「隆之−」と。その叫び声に一人の少年がぴたりと止まりました。子供
の統制は一気に乱れて・・・
有馬刑事が少年を後ろから羽交い絞めにして、ついに隠してきた最後のことを・・・

 「いいか、泥棒の流れ娼婦が生んだ父なし児ってのはお前じゃないぞ。
 それは−儂の子だ

 「誰が何を云ったか知らないが−それはお前のことじゃないんだ。その悪場擦れ女
 に子供を産ませたのは俺だし、その子供は−死んでしまったよ


隆之は村上に父さんと。子供たちは−戦意を喪失して。
その間に中禅寺は藍童子の前に・・・「藍童子」返事を聞く前におお!その頬を打った
榎木津がおうと声を上げた。藍童子はその場に座り込んだ。振り向いた中禅寺の顔は正に凶相で
あった。藍童子はまだ14歳ですが、その不敵な少年を怯えさせたというのはどんな顔なんでしょう
か?中禅寺が手を出すなどというのは寡聞にして聞いたことがないのですけど、なんと14歳の小
僧にびんたを喰らわせたのでした。未熟な小僧のくせに自分の力を過信して驕り昂っている藍童子
に思い知らせようとしたのでしょうね。


さあ、隠れてみていた「宴の始末」の「私」−所謂、ラスボス登場です。中禅寺が

 「さあ−いい加減に出て来い!どう始末をつけるんだ。この子を−どうする気だ!
 宴は終わりだ

と怒鳴りました。ラスボス・堂島は、緩りと隠し部屋の板戸を開けて廊下に出て来たのでした。

青木は堂島を見て背筋が冷えてしまった。
木場が吠えた「他人を好き勝手に弄びやがって!何が嬉しくてこんな馬鹿なことをしやがる。何が
目的だッ
」堂島は「君のような愚かな人間には、生涯かけても解らないでしょうねぇ。木場君。君が
知ろうとしていることは、君が踏み込んではならない領域のことだ
」と。
榎木津は見ていた。そして、「あ−あんた−中国で何をして来た
堂島「愉しいことですよ」榎木津「こ−この化け物め

木場ばかりか榎木津までたじたじになった恐るべき人物。魔物・怪物?

 「貴様のしていることと私がしていることは全く同じだ
 「只一つ違う所は−
   中禅寺は「愉しんでいない」が、堂島は「愉しんでいる(※3)

中禅寺は堂島と逆の口癖、今回は関口相手ではなく堂島相手に

 「どんなものもどんな状態も、この世にある限り、この世に起きている限り−それは
 日常です。この世には・・・・・・・

 「不思議なことなど何もないのです堂島さん

榎木津がすかさず、「そのとウり・・・だ!

最後に堂島は、

 「仕方がないな。今回は貴様の顔に免じて私が引くとしよう。成仙道は解体し信
 者は元に戻す


と。宴は終わりました。


戦い済んで夜が明けて・・・警官隊がやって来たのですが、投げ飛ばされ落ちたはずの大勢の道士
や拳法使いが誰一人発見されなかった、昨夜の狂騒はなんだったかと。−解説無し。
残ったのは哀れな尾国の死体だけ。緊急逮捕された岩川は薬物依存だったらしくそのまま病院へ移
送されたのでした。堂島・藍童子と浮浪児達は消え失せてしまいました。
内藤は清清した顔で、益田に、黒川玉枝に謝罪してくれと頼み、待っていてくれとは決して云わない
からと伝えてくれるようにと。縄もかけられることなく有馬によって下田署に連行されて行ったのでし
た。あの内藤がです・・・変われば変わるもので・・・

鳥口が魔の山を下りたとき、鹿砦はあとかたもなく撤去され、村上美代子が一人ぽつんと立って山
から降りて来た村上と隆之を待っていた。無言・・・益田は家族は解決するものじゃないと−鳥口は、
解決するものではなく継続するものだろうと−
佐伯家の人々は後始末をしなければならない。岩田はみちの教え修道会を、玄蔵は条山房を、癸
之介は韓流気道会の後始末。亥之介は羽田製鐵に対する背任横領罪の罪を償わなければならない・・・

関口については・・・わずか一文釈放されるだろうとだけ。京極先生、そりゃないでしょう・・・


榎木津面白くない 「勝ったのか。負けたのか。せめて殴りたかった
中禅寺もああ殴りたかったな−あいつは嫌いだ

・・・今回は薄氷の勝利だったですね。朱美姐さんと有馬老刑事の存在も大きかったです。

光保は何だか宴の後のような、虚しい気持ちですよ
で、中禅寺は−塗仏の宴か。と。

・・・私も読後感としてそれを感じました。


深夜の大団円、益田が箱根山(「鉄鼠の檻」)よりきついといった山道の夜中の登り−その中で真相
の小出しをする中禅寺、ラスボスはどうすることもできませんでしたがとにかくゲームの幕引きをな
んとかしたのでした。しかし、

騙したつもりが皆騙されていた

は悲哀さえ感じますね。

結局、この物語での殺人被害者は、織作茜、尾国誠一、加藤女史の赤ちゃんの3人。
ゲーム自体の被害者は加藤女史の赤ちゃん一人だけでしたね。で、警察に逮捕されたのは、罠に
はめられた無実の関口、そして「自首だ」と言った織作茜殺しの内藤と尾国殺しで緊急現行犯逮捕
された岩川・元目黒署警部補だけ。

空恐ろしいのは、藍童子−14歳という未熟な少年故に老練な中禅寺の前には敗北しましたが、ラ
スボス堂島がついていて今後どこまで恐ろしい輩になるかということです。ただし、藍童子は自分で
は主催者側だと云ってましたが、驕り昂った少年故に彼もやっぱり堂島に操られている駒でしかな
いことに気が付いていませんね。堂島は、中禅寺が気が付いて堂島に言った「この村の秘鍵は−
村上刑事だったのですか
」までは藍童子には言っていなかったようです。

堂島にとっては、所詮自分以外の人間は、「自分が楽しむために企画したイベント」の駒でしかない
わけです。自分を信じて役に立つうちは使い尽くす、無用になったら「記憶を弄ってぽい」。刑部・岩
井・宮田の三人には冷たく「馬鹿どもめ。貴様らは三人揃ってもこの中禅寺には敵わなかったのだ。
雑賀に至っては自滅だ。何とも情けないことよな
」と。

人間性をまるで持たない男が「記憶を操る研究をしてきた」のが恐いです。

最後に堂島は中禅寺に

 「ひとつだけ云っておく。今後は一切の手だし無用だ。
 解ったな−


と脅しを掛けました。今回は尾国の失策「加藤女史の赤ちゃん死亡事件」が中禅寺をして関与させ
たのでしたが・・・中禅寺は出来る限り関与したくない人ですから、こういうことでもないとしないでしょ
うね。ですから、ファンが待望しても、最早堂島が再登場することはないのではないかと思います。
というか京極堂シリーズってそういうものじゃないじゃないでしょうか?コミック/アニメ世界ではない
でしょうから。インパクトというのは一回限りしか有効ではないのです。誰も知らない人間界に潜む
「闇」(堂島が茜に、そして木場に云った世界)を堂島と云う圧倒する大きさのスケールの男に代表さ
せて、少しだけそれを一般人に見せたというのがこの物語でしょう。今回は、覚悟と矜持の元、優れ
た言葉の力を駆使する中禅寺が重い腰を上げて乗り出したゆえにその闇の一部を垣間見せること
になったということです。


いずれにしろ、堂島と中禅寺の間には前述の(※3)という「水と油」の交わることがない厳然とした考
え方の相違があり、それは、堂島が「自分だけ」後は道具扱いでしかないのに対して、「人間に対す
る優しさ」が基本の中禅寺との間での対決において中禅寺に味方したと云えましょう。すなわち中禅
寺は一人で戦っていたわけではないわけです。

青木はこの物語の中で、榎木津と中禅寺のやり取りから自分の思違いに気が付いたようですね。
榎木津の「狡い」という指弾に対しての中禅寺の返し「ああ狡いさ。狡くなくては−この位置は辛い
僕は生まれてこの方、自分が狡くないと思ったことは一度もないよ。
」を聞いて、凡百(あらゆる)事件に於いて
中禅寺の居る場所は最強の位置
と思っていた青木を驚かせ、榎木津が「でもお前が嫌・・・・<なんだろ」と
中禅寺を詰問する図は、青木の想像の及ぶ範囲ではあり得ないことだったと。中禅寺・榎木津の二
人は互いに補完しあっていることに青木はまだ気が付いていなかったということです。

皆が変人奇人と認める榎木津礼二郎ばかりか、やはり一般人からしたら変人の部類である中禅寺も
自ら語っているように「人なんです」。一方の堂島は「人ではない」・・・


昭和10〜20年前までの履歴概要まとめ
昭和10年代、内務省の山辺が不老不死の仙薬探索獲得プロジェクト発足
 陸軍の堂島大佐が協力を申し出る

昭和12年春:有馬、麓の駐在所勤務開始

         戸人村に派出所でき、光保が任命される

昭和12年夏:山辺から有馬に不老不死プロジェクトへの協力要請

昭和12年秋:有馬の所に山辺の代理で尾国が来た、戸人村駐在光保も会っている

昭和13年早春:村上兵吉家出、堂島に攫われ失踪、その後兄寛一も家を出て下田
           に。

昭和13年5月:光保、日中戦争の出征欠員で出征、戸人村駐在終了

昭和13年6月:山辺から有馬に調査が始まる、尾国を派遣すると連絡

昭和13年6月20日:佐伯家で初音が強姦した甚八を鉈で殺害する事件発生

           有馬の所に佐伯布由が逃げて来た、靴に血が。有馬は
           布由を尾国に渡して凡て目を瞑った

           急遽、尾国・宮田が佐伯家一家を含む戸人村住民全員
           に催眠術をかけて岩井が移送、刑部が後始末

           直後に巡回研師・津村辰蔵が村入り、誰もいないことを
           発見[津村の吹聴で6/29,7/1付け新聞報道在るも続報無し]

昭和13年6月21日:有田、下田署に転任

昭和13年6/20の数日後:村人は己の意思でと信じ込まされ一斉によその土
           地に転出

昭和13年?月:家を出た兵吉、寛一以外の村上家一族郎党は記憶操作され
           て無人になった戸人村に強制移住

昭和14年:新聞報道後約1年行方不明になっていた津村辰蔵が廃人になって
         戻り一か月後自殺

昭和17年:山辺失脚、12研できる
        閑職になった山辺、徐福伝説で羽田隆三と接触。
        布由、高級料亭の仲居に。

---------------------------------------------------------
最初に読んでいた時、恥ずかしながら私は前述でも触れましたが、韮山の地理的位置に不案内でし
た、また、当時の交通事情にも不案内−というか鉄道好きでかつて時刻表「読者」であったのにすっ
かり忘れてしまっていました−ので、下田署の有馬警部補と村上刑事が韮山に行く列車に乗る場面
で思い違いしてました。この二人が乗った列車と云うのは現在は伊豆箱根鉄道駿豆線で、乗り込ん
だのは三島からですね−伊豆箱根鉄道駿豆線はもう三十数年前、亡妻・幼い長女の三人家族(息子
はまだこの世に生を受けていない頃)で修善寺温泉旅行で一度だけ乗りましたがもう忘却の彼方で
す−で、下田から行くには乗り継いでいくしかないわけですが、元国鉄、現JRは伊豆半島には熱海
から伊東までで、伊東から下田までの伊豆急は昭和36年開通ですからこの事件の昭和28年は、ま
だ下田には鉄道が来ていなかったわけです。ですから、成仙道の騒ぎを下田に設定した意図がよく
わかりません。



戻る