ジョン・ハート「終わりなき道」を読んで(’18/4)
図書館通いが復活してから、毎回、限度の6冊を借りてきますので、だんだんとめぼしいものが減って
きて最近は、海外ミステリーもよく借りてきて読むようになりました。「買う」のではなく「借りる」のですか
ら損はしないという気楽な思いから読み始めたのですが。
以前は、有名な古典的ミステリー(エラリークィーンとかアガサクリスティとかバンダインとか)ばかりでし
たが、今は、現代ミステリー作家の物も多く読むようになりました。勿論、日本の物も読んでいますが。
今回読んだものの一つは、ハヤカワ ポケット ミステリーの、ジョン・ハート作「終わりなき道」という作
品でした。原題は、"Redemption Road"(贖罪への道)というものです。ネット上の書評にはこのままの
題名の方がすっきりしているような主張もありましたが、私的には、それだとむしろ誤解を招くのではな
いかという気もしています。
私は感激屋的なところがあり、意外に、最後のエピローグは救いを感じました。非現実的かもしれませ
んけど私は小説には、現実そのままを求めません。そんなものは読んでいて胸糞が悪くなるばかりで
すので。ですから、正直、バッドエンドものは嫌いです。
自分の利益・享楽のために殺人を行う・行わせるような「悪人」は断罪されなければならないという思
いですから。逆に、云われなき扱いをされた人間がなす「復讐譚」は好きです。彼らは本質的には悪人
ではありませんから、「自分の利益・享楽のために殺人を行う・行わせるような『悪人』」と一緒にはで
きません。ですから、本質的にそれらを一括しての「罪を憎んで人を憎まず」というのは「きれいごと」
でしかないと考える輩です。
書評の中に、「この小説はミステリーだけでなく『家族小説』だ」というようなのがありました。まさしく、
その通りで、だからこそ、私はエピローグに救いと感激を覚えたんですが。私はセンチメンタル的な
ところがあります(^^;。心を癒されるような主人公の仲間・家族などの描写が好きなんですね。
さて、この本を読もうと思ったのは、作家を知っていたからではありません(現代海外ミステリー作家に
はまるで不案内です(^^;)。
裏表紙にあった概要の「刑事エリザベスは、少女監禁犯を拷問の上、射殺したとして激しい批判にさら
されていた。州警察が調査に乗り出すが、彼女には真実を明かせない理由が・・・」という一節が私をし
て読む気にさせたのでした。エリザベスは主人公であり、女性刑事でしたから興味が湧いたのです。
訳者(東野さやかさん)のあとがきに半分ネタバレがありましたので、ねたばれになってしまいますけど、
とにかく壮大な物語だ。ジュリア・ストレンジ殺害事件の真相をめぐる物語を縦糸に、
エリザベスの発砲、出所後のエドリアンをつけねらう刑務所長、エリザベスに救出され
た少女チャニング、ジュリアの一人息子でエドリアンを憎んでいる少年ギデオンらが横
糸として複雑にからみ、それが最後に一つに収束していく様子は実に見事だ
とありました。エドリアンは、元優秀な刑事でしたが、でっちあげられた証拠でギリオンの母ジュリア・
ストレンジ殺害の殺人犯にされ第二級殺人犯として13年で出所してきた人で、もう一人の主人公です。
警官なりたてだったエリザベスが尊敬していた刑事だったという・・・ねたばれですが、エドリアンは、
ジュリアと愛し合っていた・・・しかし、無実に繋がる真実の話をすることは自分の妻を悲しませてしま
うことからそれを云わず、甘んじて刑務所に入ったんでしたが・・・彼を待ち受けていたものは、過酷な
扱いと、一緒に牢内にいて最後は牢内で死に追いやられてしまった老人からの助言−死んでからも
エドりアンは独り言的に彼と話をしていた−でした。
殺された母を愛していた14歳の息子ギリオンは、エドリアンが殺したものと信じ、飲んだくれのだめ親父
の隠していた拳銃を見つけ出し、壊れたテレビの中に隠しておいて、それを取り出し、母の復讐をしよう
したのですが、たまたま出所時に乗ったタクシー運転手がギリオンの発砲を阻止すべくギリオンを射撃。
エドリアンは撃たれず、ギリオンは瀕死の重傷を負いましたが、間違った犯罪を犯さなくてすみました。
心と体に傷を負っていたギリオンを精神的に手を差し伸べたのはエリザベスでした・・・
そして、主人公の女性刑事エリザベス。真相は、同僚刑事が割り出しました。彼女も被害者でしたが、少
女チャニング(18才)は第一級の射撃の腕前でした・・・。エリザベスはチャニングをかばっていたのでし
た。エリザベスにはつらい過去があり、少女が追い詰められないようにと・・・
エドリアンは出所直後に起きた女性殺人事件で再び犯行を疑われたのですが、真犯人は意外な人物で
した。エリザベスもその手に落ち掛けたのですが、真相を知ったギリオンがけがを押しながら勇気を奮い、
思いもしなかった真犯人に電撃を食らわせて・・・。ギリオンは母を殺した真犯人はエドリアンではない
という真実を知ったのでした。
真犯人も死に、エドリアンを付け狙っていた悪徳刑務所所長一派も起死回生のチャニングの射撃によ
り全員死亡しました。警察は全ての真相を把握したのですが、エドリアンはなおも警察から追われて
・・・。エドリアン、エリザベスそして「もう18才よ」というチャニングは故郷(ノースカロライナ州のどこか)
から遠く離れた西の方の砂漠の中で暮らし始めていました。
エピローグは7か月後という小見出しで始まります。指名手配はされていなかったらしいエリザベスは、
やることがあり、三日間の毎日連続長時間運転で故郷の郡(county)に戻ってきたのでした。
必ず会いに来るからとエリザベスが一緒に行きたがっていたのを傷を治すのが第一として拒否したギリオ
ンと、重症を負って入院生活をしている助けになってくれた老弁護士を迎えに行くことと、同僚刑事のベ
ケットの裏切りの真相を知ること、母に会うことを目的として、白い大きなハットをかぶりサングラスを
して一人出向いたのでした。エリザベスは子供を産めない体。一緒に行くことにうなずいたギリオンを連
れて、エドリアン、チャニングそしてギリオンとの「新しい『家族生活』」が始まろうとするところで大
団円です。
尚、資金は、エドリアンが刑務所内で同室で彼に助言を与えてくれた恩人のイーライが残してくれたもの。
刑務所所長が狙っていたものでした・・・
かなりネタバレしてしまいましたが、真犯人と纏わる話は隠しておきます。後の方でバタバタとしてわかる
真相ですけどね。ですから、純粋に「推理小説」を求める方々には不満な作品かもしれませんが、私は最
後のエピローグでこの作品を面白いと感じ、紹介する気になった次第です。
(’18/4)
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