堂場舜一作品〜街シリーズ(’17/6)


堂場瞬一さんの「埋もれた牙」というのを読みました。
このarticleのタイトルに「街シリーズ」と書いたのは、別に明示的にそういうシリーズ名がつけられ
ているわけではないのですが、読んだ講談社文庫の後ろの解説の中にそういう表現がありました
のでそのまま利用させてもらいました。

その解説によれば、堂場瞬一さんは読売新聞社会部の出身だとか。前に、恐らく事件記者だった
方ではないかという推察を書いてことがありますが、当たっていました。解説では、だからこそ、警
察機構のことが事実に即していて信用できるようなことが書かれていました。

いずれにしろ、いくつもの主人公刑事のシリーズがあり、皆、それぞれの立場で魅力的な主人公
が描かれていて、私的には楽しめます ^◇^)

で、この「埋もれた牙」は吉祥寺が舞台。吉祥寺は私の弟が学生時代下宿生活を送っていて遊び
に行ったこともあり、その意味で私には縁が薄い東京圏の中にあって、少しだけ街のにおいを味
わえた覚えがあるのでちょっと気になる物語ではありました。実は、その時、吉祥寺と言うのは武
蔵野市の一部地区であることを知ったのでしたが。

主人公の瀧刑事は、架空の警察署「武蔵野中央警察署」刑事課に所属する係長。本庁とは異な
り、所轄では、課長は警部、係長は警部補であり、瀧靖春刑事は50歳で警部補。奥さんは市役
所に勤めている夫婦で、仲が良いのが救われます。元々は警視庁捜査一課の敏腕刑事だった
のが、前市会議員の父親が脳溢血で倒れた(それで議員を引退)ことから希望して武蔵野中央警
察勤務になった・・・

事件の発端は、群馬県出身だが吉祥寺にほれ込んで住んでいる瀧の学生時代の友人・長崎が
交通課あたりでうろうろしているのを見つけ、話を聞いてやることに。長崎は瀧がここに転勤して
きていたことを知らなかった・・・で、長崎の姪(群馬に住む兄の娘で吉祥寺に住み大学に通学し
ている)が行方不明になっていることを知らされたことに始まります。丁度事件もなく、刑事課が
暇だったことと友人の姪の話だということで刑事課長の許可を得て、(「知り合いの姪御さんなんで
すよ」という瀧の言葉に、田沢課長は笑みをうかべて「それならそうと早く言えよ」)「調査に乗り出
す瀧。但し、一人でやるつもりだったのに、刑事になったばかりの26歳の女性刑事野田あかね
を教育を兼ねてとして課長から相棒にされてしまう・・・
しかし、ふと考えたんですが、瀧は係長なんですよね。野田あかね刑事はどこの所属なんでしょ
うか?瀧の部下?その辺は書かれていません・・・

で、調べているうちに、単なる長崎の姪の行方不明事件では終わらないことに。これ以上はネタ
バレになりますので、やめておきますが。とにかく「吉祥寺」という「街」に特化した物語であり、
警察小説ではよくある本庁(警視庁)との確執などはなくて−ある捜査に対する圧力はありました
けど−その点はよくある嫌な部分はありませんでした。ある意味「悲劇」なんですが・・・

尚、こういうのは私はほっとできて好きなんですが、小説の最後が、瀧と奥さんの会話の場面に
なっていました。
 数日後(事件解決後)の非番の日、瀧は久しぶりに真希(奥様)と一緒に街に出た。・・・
 やはり真希は、やけに饒舌だった。・・・わざとやっているな、と分かった。これは日常を取
 り戻す儀式なのだ・・・
私にはさりげなく仲の良い夫婦であることを示しているように感じました。

                             (’17/6)

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