誘電率と透磁率

電界の場合、
   @
と言う関係式があります。ここで、
 電界の強さ(electric field intensity)
 電気変位(electric displacement)または電束密度(dielectric flux density)
です。
そして、日本では、を「誘電率」と称しています。単位はです。
一方、英語ではを、"permittivity"と称しているようです。
これは私は恥ずかしながら知りませんでした(^_^;)。私の所有している40年以上
前の教科書本では"dierectric constant"と書かれています。で、ネット見てま
したら、米国で"permittivity"という用語を知らなくて、"dierectric constant"と呼
ぶ向きもあるやの話も目にしました。
しかしながら、現在、正式には、"dierectric constant"は「比誘電率」を意味し
ているそうで、これはまた、"relative permittivity"とも称しているようです。
調べてみても見付けられませんでしたが、"permittivity"というのは比較的新し
い用語かもしれません。せがれの習った教科書では、比誘電率について

 Faradayはspecific inductive capacityと名づけたが、現在では
 relative permittivityあるいはdierectric constantという


と脚注に書かれています。

尚、「比誘電率」は
   A
であり、ここで、
は真空中の透磁率です(cは光速)。
で、日本語版Wikipediaも英語版Wikipediaも、
  B
とあります。A、Bより
   C
となり、
   D
となります。χは「電気感受率(electric susceptibility)」と称せられています。

しかし、驚きました。ここにも学者による相違があるようです。以上の考え方は、
   E
における分極ベクトル
   F
とおくものです。ところが、
   G
とおく流派があるそうです(Wikipediaの「ノート」に書かれています)。実は私の所
有している40年以上前の教科書本はそちらの流派によるもので、
   H
としています。
「古典電磁気学」なのに、こういう学者による不統一ってまずくないでしょうか?
記号が異なるならまだしも、同じ記号で意味が違うというのは・・・

ちなみに、私の40年以上前の教科書では、下記のような説明がされています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
:外部電界
:誘電電界
とおくと外部電界による誘電体内の分極ベクトルは
ここで、
:定数
となるので、
( )内はこの教科書に書かれている用語です。分極率はsusceptibilityと英語
表記を( )内で示していますので、英語的には以前から"susceptibility"であ
り、Wikipediaの電気感受率の項では分極率ともいうとありましたので著者独自
用語では無いようですが一般的では無いようです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ところで、比誘電率したがって誘電率は誘電体の材料により決まる定数です
(厳密には温度により異なりますが)。ですから、"dielectric constant"という名
称があるものと思います。ですけど、どなたがどういう思いで"dielectric"を「誘
電」と訳されたのでしょうか?
ネット見てましたら、「なぜ誘電率というのか?」わからないとしてのQ&Aを目に
しましたが、@式でを「電束密度」とだけ考えているならわからないかもしれま
せんねぇ。元は誘電体内ではE式であること、は「分極ベクトル」であること、
そして、「分極」の概念とに「電気変位(electric displasement)」という名称があ
ることなどをを知っていればある程度は理解できる(実は私がそうですが(^_^;))
と思うのですが・・。

ちなみに私は、「電束密度」という用語より、「電気変位」の方が物理的イメージ
としてよりベターな感がしています。この用語は、Maxwellも1865年の論文で使
用しています。そもそも「電束」というのは「分かり易さ」のために導入された人
為的・便宜的なものであり、仮想的存在とされている「電気力線」よりもっと仮想
的存在の感がするからです。


さて、次に、磁界の場合は
   I
という関係式があります。ここで、
磁界の強さ(magnetic field intensity)
磁気誘導(magnetic induction)または磁束密度(magnetic flux density)
です。
そして、日本では、を「透磁率」と称しています。単位はです。
μは英語では"permeability"または"magnetic permeability"と称しています。
実は私が気になっているのは、この日本語の「透磁率」という用語です。
「透磁率」という言葉から国語的に考えると「磁気の通しやすさの比率」という概
念でしょう。英語の"permeability"というのも、"permeable"が「浸透しやすい」と
いうような意味ですから、概念的には一致した訳なんでしょうね。
しかしながら、このI式を電界の@式との対応で考えるとこの用語が使用され
る理由は浮かんでこないのではないでしょうか?ですから、私は前に私自身で
思いついたことを書きましたが、私の所有している40年以上前の教科書本を再
度見てましたら私の思いつきがどうやら正解のような気がしています。

磁気については電界よりずっとややこしい事情があります。それはE-H対応と
とE-B対応という過去からの論議があって、学者さんの表記法・概念に差があ
ること、そして、電界とは異なる性質があることが原因だと思います。

伝統的な、「現象論」として「静電界」に対応した「静磁界」の考え方であるE-H
対応においては、
   J
と表記しています。一方、E-B対応では、
   K
または、
   L
と表記されています。
明らかに、JとK、Lのは異なりますね。
E-B対応では、磁化の強さと称していて、
   M
で与えられます。一般的には
   M’
と書かれているのですが、前述の電気感受率と同じ記号では混同するので、
ここでは、の代わりにを用いました。 これらは磁気感受率と称せら
れています。英語では"magnetic susceptibility"と呼称されています。
K、Mより
   N
となります。したがって、
   O
となります。N、O式はそれぞれ、D、B式と類似しています。

が、・・・、この式を見て「透磁率」という用語は想定できませんよね?
その話をする前に、もう一つ、苦言を呈しておきたいことがあります。
大変気になっているのですが、「透磁率」でググりますと、

 透磁率はの間の比例定数である

という説明をしているサイトが沢山出てきます。多分、わかっている上であえて
書かれていると思いたいのですが、電磁気学を学んでいない方々に大きな誤解
を招かねない説明だと思うのです。なぜなら、誘電率と異なり、必ずしもμは材
料で決まる一定値とは限らないからです。
例えば、「強磁性体」に分類される「鉄」は同じ材料でも透磁率は一定ではな
く、の間に比例関係はありません

の値により、透磁率が変化するのです。しかも「飽和」という現象まであります。
永久磁石でもそうですよね。だから、B-H曲線なるものが存在しているのです。
これは、I式のが比例しない材料があるためです。

どうも、一つのポイントとして、の「磁束密度」という名称をの「電束密度」と
いう名称に対応させて、I式を@式との対応で見る故にこういう説明がなされ
てしまうのではないかと思うのです。そして、そういう対応で考える限り、μを
「透磁率」と称する事情は理解できないと思います。

実はポイントは『磁気回路』という概念にあるのです。
磁気回路と言うのは磁気の流れを電気回路とのアナロジーで考える概念で、
という対応になります。
電気回路のオームの法則の一般形は
   P
となります。σは「導電率」です。このP式こそ、を磁束密度と称する場合のI
式に対応するものであり、磁束密度⇔電流密度及びという対応で初め
て、「電流の通しやすさ」の目安である「導電率」との対応で「磁束の通しやすさ」
の目安という意味合いで「透磁率」という名称があるのが理解できるのではない
でしょうか?。本質的なところで、「透磁率」と言う用語は「誘電率」という用語と
対応するものという理解はしにくい感がしているのです(形式的な意味では無く)。

ところで、英語では"Permittivity"と"Permeability"で共に頭に"Per"という接頭語
がついていて「対応関係にある」というのが強調されている感がしますね。理論は
そもそも西欧発で、日本はそれを「輸入」し、用語を日本語的な意味合いで「翻訳」
したものですから、こういうニュアンス的な点で、最初にどういう思いで訳されたか
について知りたいものです。私的には「どうでもよい」問題じゃないんですよ。
                                   (’14/5)


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